アンソニー・マクヘンリー

昨シーズン、悲願のリーグ王者となった琉球ゴールデンキングスは、故障者などもあって順風満帆とは行かない中で持ち前の勝負強さを発揮し、今シーズンも着実に白星を増やしている。琉球は基本的に継続路線だが、リーグ随一のオールラウンダーであるヴィック・ローと共に、注目の新加入となったのがアシスタントコーチのアンソニー・マクヘンリーだ。

現役時代、マクヘンリーは琉球のチーム創設2年目に加入するとBリーグ初年度まで9シーズン在籍した。Bリーグ屈指の強豪チームとなった琉球を支えるハードワーク、自己犠牲、ネバーギブアップの精神といったチームカルチャーの確立に尽力し、マクヘンリーなくして今の琉球はないと言えるほどコート内外で大きな影響を与えた。だからこそ、琉球を離れた後に信州ブレイブウォリアーズで6シーズンプレーし、昨シーズン終了後に現役引退を発表したマクヘンリーに対して、琉球は彼の背番号5を永久欠番とした。多くのファンから絶大な歓迎を受け、古巣の琉球に帰還した彼に、コーチ生活のスタートに関していろいろと聞いた。

完全燃焼した現役生活「自分のすべてをコートに置いてきました」

――現役引退後、セカンドキャリアでコーチになることはもともと考えていましたか。

現役を引退してコーチの仕事をすぐに始めたいと思っていました。そして幸運にもキングスでその機会を得ることができました。最初、キングスに加入する前には、母校のジョージア工科大で学生アシスタントとしてコーチを務めていました。だから、バスケットボールキャリアにおいて常にコーチが選択肢として頭の中にありました。ただ、キングスに加入した時、どれだけ現役を続けるかは分からなかったですが、こんなに長くプレーするとは全く想像していなかったです。また、日本でキャリアの大半を過ごすことも予想していなかったので、本当に素晴らしいキャリアでした。

――現役時代に戻りたいとか、試合でのプレーが恋しくなることはないですか。

それはないです。自分のすべてをコートに置いてきました。そして、深刻なケガがなく現役選手を終えられたことに満足しています。今でも試合で競うことはできると思いますけど、それは2分、3分だけでしょうね。多くの友達が僕の引退に驚きました。でも、僕としては「何で驚くの?僕は40歳だよ」といった気持ちです。この周囲の反応には、僕が驚きました(笑)。

そして、今は10年ぶりくらいに身体の調子が100%です。朝起きて、肘、膝や足首に痛みがないのはとてもハッピーです。いずれプレーしたくなかったら、ピックアップゲームをします。きっと沖縄にあるストリートコートのどこかにいるでしょうね。

――実際にオファーを受けるまで、キングスにコーチとして戻ってくることを考えたことはありましたか。

キングスからのオファーはとても驚きました。なぜなら、今の状況を分かっていたからです。優勝チームとなり、今まで以上にチームの一員になりたい人が増えた。何百もの申し込みがあったであろう中で、実績のない自分がコーチになるチャンスはないと思っていたからです。僕にコーチとしてのドアを開いてくれて本当にありがたいです。

――今はアシスタントとして、桶谷大ヘッドコーチをサポートする役割です。桶谷ヘッドコーチとは現役時代も一緒にプレーしていました。

コーチ・ダイは僕にとって日本で最初のコーチで、彼とはバスケットホール観が似ています。かつて同じチームで戦っていて一度は離れましたが、コーチとしてのスタートを彼と一緒にやりたいと思っていました。だから、彼と再び一緒になれたのは本当にうれしいです。

最初に会った時も、コーチダイは優れた指揮官でしたが、そこからさらに成長しています。より詳細な面まで突き詰めるようになり、ゲーム中のアジャスト能力も高まっている。そのおかげで、キングスはより接戦に勝てるようになった。彼は本当に選手、スタッフとコミュニケーションを取っており、だからこそキングスは成功を収められています。今は彼から多くのことを学んでいます。

アンソニー・マクヘンリー

岸本、田代の存在「沖縄バスケットボール界の歴史は、この2人の存在抜きで語れない」

――現役時代にチームメートだった岸本隆一選手、田代直希選手はチームを支えるベテランとして今もキングスでプレーしています。彼らの変化をどのように見ていますか。

2人がルーキーの頃を知っているので、大きく成長したと思います。キングスの発展に大きく貢献し、Bリーグチャンピオンへと引き上げました。彼らが新たな道を切り開いていきました。その活躍ぶりを本当に誇りに思います。今の彼らを見ると、時が過ぎるのは早いと感じます。2人ともいまだにチームの要であり、キングスの文化をさらに成熟させるために奮闘しています。これまでの貢献は本当に大きいものです。キングス、沖縄バスケットボール界の歴史は、この2人の存在抜きで語れないと思います。

――コーチ1年目で、新たな仕事へのアジャストは大変ですか。

チームは、僕がコーチ1年目ということを考慮してくれています。スカウティング、選手育成の両方について、僕に大きな責任を与えることはなく徐々に指導者として成長できるような体制を整えてくれていて、とてもありがたいです。おかげで僕もコーチの仕事に順調に適応することができています。そして、このチームには優秀なコーチングスタッフが揃っています。このことも今シーズン、過酷なスケジュールの中で好成績を残し、昨シーズンにタイトルを取れた理由です。

アンソニー・マクヘンリー

教えている感覚はなし「僕は若い選手たちと一緒にステップアップしていく」

――マクヘンリーさんは現役時代からバスケIQが高いと評価され、若手のメンターとしても定評がありました。

自分がIQの高い選手だとは思わないです。幸運なことに、素晴らしいコーチとチームメートたちと一緒にプレーしてきたことで、自分を評価したくれたり、慕ってくれる人たちがいます。そして今、Bリーグのレベルが急上昇して、優れた選手たちが多くいる中で、僕のことを評価してくれる選手がいるのは光栄です。日本のバスケットボール界が、僕にこれまで与えてくれたコーチ、チームメートの存在なしに、今の僕はいないです。バスケットボールはチームスポーツです。今、こうしてあなたがインタビューをしてくれるのは、僕が素晴らしいチームにいるからです。

――試合前のウォーミングアップから、若手のカール・タマヨ選手を1対1で熱心に指導している姿が目につきます。

僕が彼に教えているという意識はないです。彼と一緒になって、コツコツと前に進んでいる感覚です。若い選手は安定することが大切です。例えば良いプレーをした試合があったとしても、それに対して興奮して褒め称えることはないです。逆に調子がとても悪い時に、彼があまり落ち込まないように対応します。なぜなら、目の前の試合の内容に関係なく、やるべきことはたくさんあるからです。

これはバスケットボールだけでなく、人生にも共通することだと思います。良い時も悪い時もあるけど、それによってバスケ選手として、1人の人間として、自分が目指す姿がブレてはいけない。だから、僕は若い選手たちと一緒にステップアップしていきます。ある部分の出来不出来によって、全体像が影響されてはいけません。また、僕はまだプレーヤーマインドを持っていて、選手たちの気持ちはしっかりと理解できます。このアドバンテージを生かして選手たちとコミュニケーションを取っています。厳しく接したり、叱咤するのはコーチ・ダイの担当です(笑)。

アンソニー・マクヘンリー

「チームのカルチャーが変わっていないからこそ、結果を残し続けている」

――あなたもキングスのカルチャーに大きな貢献をしている一人ですが、何故揺るぎないモノを確立できたと思いますか。

最初にジュンさん(安永淳一GM)、コーチ・ダイらと会った時、彼らはキングスを日本屈指のフランチャイズにしたい考えがあると僕に言いました。そして、設立当初からチームのトップから末端にいたるまで、チームファーストの適切な人物を配置したからだと思います。あらゆる面から、みんながこのチームを良くしようと頑張ってきた成果です。そして沖縄アリーナなどハード面はいろいろと変わりましたが、チームのカルチャーは変わっていません。だからこそ、このチームは結果を残し続けていると思います。

――コーチ1年目、個人的にどんな目標を設定していますか。

僕の個人的なゴールは日々、選手たちをスキルだけでなく人としても成長させていくことです。自分の関与したプロセスによって、彼らが成長を続けることができたら、今シーズンは成功を収められたと思います。

――最後にファンへのメッセージ、10日に行われる永久欠番セレモニーについてお願いします。

コーチの限られた枠の中、こうして日本に戻ってこられたのは本当にありがたいことです。常に自分のベストを尽くし、皆さんにエキサイティングなゲームを届ける手助けをしていきます。是非とも試合に来てサポートをお願いします。永久欠番セレモニーについては、あまり考えていないです。家族も来ますし、感傷的になることもあると思います。ただ、それより目の前に試合に集中しています。

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