小林

『日本一速いバスケ』を掲げ15年連続40度目の出場となった県立小林の下之薗空心(こう)主将(3年)は2度の前十字靱帯断裂を乗り越えて自身初のウインターカップを迎える。新チーム発足時には迷わず主将に立候補し、『闘うマインド』をチームに根付かせてきた。互いに信頼し合うエースの平野和々美(ななみ・3年)は下之薗の思いをコートで表現してチームを牽引してきた。2人は一緒にコートに立てる、最初で最後の冬の舞台で全てを出し切る。

「コートで厳しい下之薗は寮でのギャップがいい」

——まずは2人の自己紹介をお願いします。

下之薗 宮崎県三股中学校出身で、中学でもキャプテンでした。3年時は(新型コロナの感染拡大で)全中はなかったんですが、ジュニアウインターカップに出場して1回戦で大阪の樟蔭中学校に負けました。小林高校でもキャプテンをさせていただいて、ポイントガードをしています。

平野 宮崎県高鍋東中学校出身です。県3位までしか勝ち上がったことがなくて全国は経験していません。引退後に高校の試合を見に行った時に小林高校の雰囲気やプレースタイルに憧れて入学を決めました。ポジションはスモールフォワードです。一番の強みはキャッチアンドシュートで3ポイントシュートが武器です。中学では3ポイ ントより1対1で2点というスタイルでしたが、高校に入って3ポイントを打ち始めました。1年時は打てなかった自分がもどかしかったです。今ではチームで1番打っていると言えるほど練習して、自分の強みがチームの強みに繋がっていると思います。

——下之薗選手がオンコートとオフコートでどんな感じなのかを平野選手に聞きます。

平野 明るい性格なので一緒にいて苦なことが全くないです。自分にとって下之薗の存在が大きいので、正直何をされても嫌ではない。良い意味でオンとオフの切り替えがすごいです。コート上では結構強く言ってくれるので、すごくありがたいですね。寮生活や学校では、「こんな下之薗、見たことない」というぐらい抜けている部分もあってギャップがいいです。

2年時は1年間相部屋で、去年のウインターカップは出発前日も遅くまで練習していたので準備に取り掛かるのが遅くなってしまいました。2人でいろいろ確認しながら進めていた時に深夜テンションに入っちゃって、わけわからんことを言ったり、急に踊り出したりしていました。

——下之薗選手、平野選手について教えてください。

下之薗 優しくて誰かがケガをしたり、体調不良になったりした時にすぐ動く。誰かのためにやることへのエネルギー量がすごいです。私生活だけじゃなくプレーにも出ています。あえて弱点を挙げるなら、ご飯を食べるのが遅いところ。細いから体重を増やすために、ご飯を口パンパンに詰め込んで頑張って食べています。

——2度の大ケガを乗り越えた下之薗選手にチーム、自身の1年間を振り返っていただけますか。

下之薗 昨年のウインターカップを終えてすごく後悔しました。今年こそ絶対日本一になりたくて、キャプテンを決める時もけケガをしていたんですけど、勝たせたいという思いは変わらなくて、すぐに立候補しました。

今年はコロナが明けてすべての大会が行われたので、いろんな経験をさせていただいています。まず、全関西バスケットボール大会で桜花学園さんに大差で負けましたが、オールコートディフェンスをはじめ、全然戦えないわけじゃないと手応えがありました。夏のインターハイ予選は納得いく内容じゃないけど勝てました。勝ちにこだわっていたからうれしかったんですけど、初戦敗退して覚悟の足りなさ、取り組みを大舞台で表現しきる難しさを痛感しました。

自分たちに目を向けて、覚悟、マインドを強化する上で、ここまで褒めたことがないほどに厳しいことをたくさん言いました。3年生を中心に「小林はこういうチームでないといけない」と常に表現してきました。昨年の経験から「闘うマインド」を伝統としていくには、3年生が伝えないといけないと。チームは本当に強くなりました。

——平野選手はどのような気持ち、覚悟でやってきましたか。

平野 下之薗は1年から競ってきた良きライバルという存在です。下之薗が1年時、2年時にけケガをしたのがものすごくショックでした。1年時は2人で話すことは少なかったけど、2年時に寮で同じ部屋になって会話が増えました。自分が知らない下之薗を知れたし、お互いの考えや気持ちを話して自分にしか分からない気持ちがあった。自分がコートに立った時には下之薗の思いを常に考えて取り組んできました。下之薗が復帰できなかった夏まで、代わりに4番を着させていただいて、小林の4番の重みも知れました。エースとして下之薗の思いを100%、プレーで伝えられるようにやってきた自負はあります。この冬、一緒にコートに立てるので思いっきりやってほしいし、挑戦を楽しみたいです。

——2人の絆が伝わってきます。

下之薗 2年時に一緒の部屋になってから、チーム状況や2年生の役割など考え方を共有しました。私がプレーできない分、私の言葉を平野に表現してほしいと伝えました。私がめっちゃ怒って喧嘩することもあったからこそ、誰よりも思いを共有できています。

小林

「ライバル延岡学園さんのおかげで成長できた」

——県内のライバル延岡学園との戦いを振り返ってもらえますか。

下之薗 延岡学園と今年4回ぐらい対戦して、ウインターカップ予選まで一度も負けていなかったです。油断しないように常に伝えて臨みました。勝つために何をするのかを意識して大舞台に臨みましたが、相手も勝つという気持ちで来ています。うまくいかないことがたくさんありました。もう1回、自分たちに目を向けるきっかけを延岡学園さんにいただきました。

平野 去年の1年間、3年生を勝たせることがテーマだったので、3点差で負けた去年のインター ハイ予選は言葉にできないぐらい悔しくて、唯一振り返ることができなかったです。試合のビデオを結構見るんですけど、1回も見ていないぐらい悔しい経験でした。スキル不足もあったけど、人間的な部分が足りなかった。2年生の立場でも競った展開で冷静に、瞬間的に3年生へ言葉をかけるべきでした。その経験をしたから、その後の関西遠征や冬の予選に向けて練習中は3年生に限らず、コミュニケーションを大切にして取り組めた。去年のウインターカップ予選はシックスマンだったんですけど、出てすぐに3ポイントを決められました。今年のウインターカップ予選にも繋がったと思います。

——全国ではどのように戦いたいですか。

日本一を目標に掲げています。1回戦の相手は広島皆実さんで強いとは分かっているけど、勝 つことしか考えていません。全22人の誰がコートに立っても徹底したオールコートのバスケットが表現できるよう、残り1カ月余りで仕上げて最後の冬に挑みたい。1回戦から強い相手という捉え方じゃなく、どんな相手でもやることは変わらないと全員が思っているので、理想を追求して臨みたいです。

「京都精華さん、精華女子さんと戦いたい」

——チーム、個人のライバルは。

平野 やっぱり京都精華さんですね。ライバル視していて去年の冬の負けが悔しいのでリベンジしたいです。堀内桜花さんをはじめ注目選手が多く、ライバルを1人挙げるなら京都精華の八木悠香さんです。ポジションも似ているので負けたくないです。

下之薗 京都精華はさっき言ったので、精華女子さん。何度も練習試合などをさせていただいて強くなれました。成長できたし、全国の舞台で戦いたいです。

——3年間で1番の挫折、苦しい時期は。

平野 一番苦しかった時期は、3年夏です。最上級生でエースを任せられて常にチームを勝たせるという言葉を胸に置いているんですけど、自分一人の力では勝てないのも分かっています。どういう言葉掛けをして仲間に伝えればいいのかとか、この、言葉が伝わっているのか分からない日々が高校総体の時期に続いて、不安を周りにも言えず悩んでいました。

下之薗 挫折はやっぱりけケガです。1年時に先輩方が14人いて、ベンチメンバー最後の1枠を平野と争うことが多くて、インターハイ予選はユニホームをいただけました。でも出場時間は短かったです。ウインターカップ予選はそれこそ、2人でずっと1対1をして選考されて、平野が15人目に選ばれました。ウインターカップでは絶対に自分がと思っていたので、ウインターカップに出発する2、3日前の練習試合でけケガをして、3日後に病院で診断された時はまさかという思いでした。手術後もプレーできない時間が長いからこそ、声かけなどできることを見つけてやっていました。これを2回繰り返したのは自分にしか分からない経験です。これからコートに立てることへの思いや生活していく中でも、大きなモノになりました。

——3年間でうれしかったことは。

下之薗 高校で橘先生とバスケットできたことがうれしいです。自分たちは橘先生の着任と同じ年に小林に入学したので、分からないことが多かったです。練習中だけじゃなく終わった後に、先生と何気ない世間話やたわいもない会話を積み重ねて先生の考えを知ったし自分の考えを伝えられました。チームの方向性もたくさん話せたので、信頼関係はどのチームでもあるものじゃないと思っています。先生と生徒の会話が多いチームに入れたのはうれしいです。

平野 学校生活から寮生活、部活動も365日を仲間と過ごしているので、これ以上の仲間と出会える気がしないぐらい、良い出会いだったと思っています。

——ウインターカップに向けての意気込みをそれぞれお願いします。

平野 身長が小さいからこそ、平面で勝つところが強みなので、徹底的に足を動かすところを見てもらいたいです。ベンチワークもすごくて、コートに立つ5人だけが主役じゃなくチーム22人や保護者、先生も含めて全員が主役です。全体にスポットライトが当たるぐらいのリアクションや声援も魅力です。会場を小林色に染めるぐらいの声援、ベンチワークを見ていただけるとうれしいです。

下之薗 一番の魅力は明るさ。全員が明るくて笑顔でプレーします。自分たちに矢印を向けたチームなので、良い時も悪い時もコート内の5人、もしくは22人全員が目を合わせて会話するのをゲーム中でも意識しています。一緒に練習を積み重ねてきたからこそ通じる会話で、その量もすごい。選手一人ひとりの立ち振る舞いを見ていただけるとうれしいです。