『ぶっつけ本番』でも高い個人能力とバスケットIQを披露
どんなに能力が高い選手も、チームに馴染んで結果を出すまでには時間がかかる。バスケットボールがチームスポーツである以上、それは当然だ。イバン・ラベネルは2015-16シーズンのbjリーグファイナルズでMVPに輝いた実績の持ち主だから、能力はもちろん高い。しかしこの試合は秋田ノーザンハピネッツに合流してから2週間という『ぶっつけ本番』に近い初出場だった。
そんな中でラベネルはブースターに大きなインパクトを示した。18日のレバンガ北海道戦で第1クォーター半ばに起用されると、立て続けに3アシストを記録。彼との連携から第1クォーターに得点を量産した田口成浩は、ラベネルをこう称賛する。
「やりやすいですよ。パスをしますし、スクリーンもリバウンドも安定感がある。今はオン2なら両方ともスクリーンをかけられますしリバウンドも取ってくれるので、気持ち的にも楽にシュートが打てる。KP(退団したケビン・パルマー)は得点能力が高かったんですけど、周りを生かすというよりは自分が何とかするというタイプ。スクリーナーが一人だけになってしまったので、点数の入らない時に難しくなっていた」
長谷川誠ヘッドコーチもラベネルに対する好印象を口にする。「スマートな選手だなと思った。バスケットIQがウチの外国人選手3人の中で一番高いし、状況判断がしっかりできている」
203cm113kgという体格を持つラベネルはパワフルで、アスリート能力も高い。ただ彼はチームのバランスを取り、周りを生かしながらプレーできるタイプだ。ラベネル本人も「チームのため、他のプレイヤーのために尽くすタイプなので、そこを見てもらいたい」と自身のスタイルを説明する。
ただそうはいっても、その破壊力は隠し切れなかった。第1クォーターこそ無得点だったが、第2クォーターは7点を挙げ、最終クォーターにも8得点と爆発。オン・ザ・コート数が「1」の時間帯は身体の強さとスキルを生かしてボールをさばき、主に日本人を生かす側に回る。そしてオン・ザ・コート数が「2」になれば、彼自身がドライブで仕掛ける場面が増える。
「自分はインサイドだけの選手ではなくて、アウトサイドからのシュートが打てて、シュートができなければドライブもできるし、アシストもできる。相手のチームにとって対応のしづらいタイプだと思う」とラベネル自身が語る柔軟性を存分に見せていた。
「パズルのピースをくっつけるような存在になりたい」
最終的には合計22分0秒のプレータイムで18得点4リバウンド3アシストを記録。長谷川ヘッドコーチが「今日のゲームに関しては出来すぎじゃないかなと思います」と述べるほどのスタッツを残した。ただラベネルの自己評価は厳しい。
「前のチーム(リエージュ)からカットされて、チーム練習がしばらくできなかった。個人的にはもっとコンディションを上げていきたい。自分に課しているハードルまで届いていない。今日の試合もいつもなら決めているシュートを外してしまったり、普段できることをできなかったりというのがあった。それは疲れが一つの理由」
自己採点も50点と控え目。「ディフェンスのところはもっとできたと思う。リバウンドでも、もっと自分の存在感を出せるようにしたい」と、残る課題も列挙していた。
秋田でどんなプレーを実現したいか? ラベネルのイメージは「糊」だった。
「自分は例えると糊のような、パズルのピースをくっつけるような存在になりたいと思っている。ここに来る時、周りの人から『自分で点を取ったほうがいい』と言われた。それを求められればやるが、秋田はタレントが揃っているし、一丸となれば絶対に上がっていくチームだと思う。自分が入って足りなかった部分を埋めて、あとは他のタレントを上手く回す役目になれればいい」
秋田が彼に期待するのはインサイドの強化だが、ラベネルはあくまでもチーム全体を見ている。彼がイメージするのは全体をつなぎ合わせて、足りないところを補うトランプのジョーカーのような存在だ。
アメリカの最南端フロリダ州出身で、日本における前所属は沖縄の琉球ゴールデンキングス。そんな彼にとって冬の秋田は厳しいのではないか? そんな質問には笑顔でこう応えていた。
「高校を卒業してからボストン、オハイオと(アメリカ北部の)ものすごく寒い、雪も降るところにいた。環境が変わることに慣れていますし、寒いところも大丈夫」
彼はまだ27歳だが、アメリカも含めて6カ国でのプレー歴を持つ経験豊富な選手。となれば愛称『E』ことラベネル成功を阻むものはなさそうだ。昨年のbjリーグファイナルズで印象に残ったという『クレイジーピンク』も、これからは彼の味方になる。その能力を改めて証明し、秋田の浮上を予感させた、bjリーグ最後のMVPのBリーグデビューだった。