補強は最小限、新たな指揮官ニック・ナースは『内部からの改革』に着手
セブンティシクサーズはジェームズ・ハーデンのトレード問題に終わりが見えず、例年のような補強にも動けず、パトリック・ベバリーとダニー・グリーンといったベテランの補強に留まっています。ハーデンのトレードが発生すれば多くの選手を巻き込む可能性が高いだけに仕方ないとも言えますが、その一方でリスクを負いたくなかったのではないかと勘繰ってしまうオフでもありました。
タイリース・マキシーとの契約延長を来オフに見送ったことで、ハーデン、マキシー、トバイアス・ハリス、ディアンソニー・メルトン、フルカン・コルクマズといった中心選手の契約は残り1年となりました。長期契約が残るのはジョエル・エンビードのみとなり、もしも新シーズンで結果を残せなければ、チーム全体がリセットされる可能性もあります。
『トラスト・ザ・プロセス』という言葉で表現されたシクサーズの再建ロードは、長期間の低迷と引き換えに多くの若手有望株をドラフトで手に入れ、強固なチームを作っていくものでした。エンビードが指名された2014年から4年連続でドラフトのトップ3指名をしており、ロッタリーの運にも味方されながら超有望株を立て続けにロスターに加えていったのです。
エンビードとベン・シモンズを中心にした2017-18シーズンにドアマットから一気にプレーオフのセカンドラウンドまで進むと、ここからチーム作りを転換し、若手有望株をトレードに出してベテランの実力者を次々にチームに加えました。その甲斐あってシクサーズは常に上位の成績を残すチームとなりましたが、セカンドラウンドの壁を超えることができないまま現在に至っています。
エンビードと同じ年のドラフトで指名した二コラ・ヨキッチを中心に、大型補強に頼るのではなくジャマール・マレーやマイケル・ポーターJr.を育成してチーム力を高めていったナゲッツとは、ここ数年のチーム作りが対照的です。ナゲッツがNBA優勝を勝ち取ったのに対し、シクサーズは補強を繰り返してもステップアップできず、また次の補強に進み、挙句の果てにチーム内の不協和音に悩まされる負の連鎖に陥っています。
この状況を打破するため、ヘッドコーチに策士ニック・ナースを迎え入れました。ナースはシクサーズの改善点として、エンビードに徹底してリムプロテクトを繰り返すことや、スクリーンからゴール下へダイブすることなど攻守のハードワークを挙げており、足りない要素を補強で補ってきた従来の方向性とは異なり、チームの改革のためには選手個人のステップアップを必要としています。
これまでの延長線上にある戦い方ではプレーオフを勝ち抜けないからこそ、ナースはチームを内部から改革することを進めます。この改革が上手く進まなかった場合にはチーム解体にも動けるように、というのがシクサーズの動きでした。
チャンピオンリングを手に入れて『プロセス』を完了させるシーズンになるのか、それとも今のチームにとってラストダンスのシーズンになるのか。シクサーズにとって大きな分岐点となりそうです。