「私は心を揺さぶられ、『すぐに私もそちらに行く』と思ったよ」
モンティ・ウィリアムズはサンズをドアマットチームから脱却させ、優勝候補へと引き上げたことで、コーチとしての評価を大いに高めた。それでも、このタイミングで解任されるとは思っていなかっただろう。フロント主導でケビン・デュラントを獲得し、バスケを作り直す時間がないままプレーオフに突入して、カンファレンスセミファイナルでナゲッツに敗れた。その後に優勝を果たすナゲッツは圧倒的な実力を持ち、プレーオフを通じて4敗を喫したのみ。モンティのサンズは敗れたとは言え、ナゲッツから2勝を挙げた唯一のチームで、その敗戦の責任を取る形での解雇はあまりにも理不尽だった。
それでも、ピストンズの新たなヘッドコーチとして就任会見に臨んだ彼に不満や怒りはない。「私は今もサンズを愛している。私と家族のためにしてくれたことには感謝しかない。解雇されたからと言って、必ずしも対立するものじゃないんだ。サンズのおかげで私は自信を得て、新たな一歩を踏み出せる。ニックスにドラフト指名され、スパーズでプレーして、それから続くすべての場所が私の旅の一部なんだ」と彼は言う。
ただ、解任がショックだったのは間違いない。しかもそれは、彼の妻が乳がんを患っているのが分かった直後の出来事だった。モンティが解任された後、オファーはひっきりなしだと言われたが、「彼は1年間休養する」との噂も流れた。それは妻の健康問題があったからで、ピストンズのトロイ・ウィーバーGMが最初に接触してきた時も、モンティの答えは「今は考えられない。しばらく時間がほしい」だった。
モンティは言う。「トロイはすぐに連絡をくれて、解雇されて失望していた私に自信を与えてくれた。しかし家族は問題を抱え、私が面倒を見るつもりだった。この場で公表にすべきか妻とも相談したんだが、プレーオフ期間中に妻に乳がんが見つかった。これを公表するのは早期発見の大切さを伝え、女性に検査を受けてもらいたいと思うからだ。早期発見だったのは幸いで、私はまたコーチができるようになった。そこからはすぐに話が進んだ」
ピストンズは妻の病気療養を全面的にサポートすることを約束。金銭面の援助の他、フェニックスの主治医のところで療養する妻にモンティが会いに行く時にはプライベートジェットの使用も許可するという。
ピストンズのオファーを受けた理由をモンティは「トロイと選手の存在、そしてお金だ」と答える。「みんなお金の話をしないが、それはおかしい。大金を支払ってくれる人がいることを私は無視できない。称賛されるべきだし、話題になるべきだと思う」
今シーズンのピストンズは17勝65敗でNBA最下位、しかも間もなく行われるNBAドラフトの1位指名権をロッタリーで引き当てることはできなかった。モンティにとっては、優勝候補のサンズからドアマットへと指揮するチームが変わることになる。それでも彼は野心と期待を持って新たな挑戦をスタートさせる。
4年前に就任した時のサンズも弱いチームだった。モンティは「これから経験を積まなければならない若いタレントがいるという意味で、ピストンズとサンズには類似点がある」と言う。
モンティは今のピストンズに大きな可能性を感じている。その理由は選手が勝利に飢えていることだ。ピストンズの選手たちは4月中旬にシーズンを終えた後、バカンスに出掛け、すでにデトロイトに戻って来シーズンに向けた準備を始めている。
「コーチの就任会見に選手が来ることは滅多にないだろうが、今ここにいる」とモンティは言う。会見場にはメディアやクラブスタッフに選手たちが紛れ込み、新たな指揮官の言葉に耳を傾けていた。
そんな選手たちの存在も意識して、モンティはこう言葉を続ける。「ここの選手たちは勝利に飢え、成功を求めている。その姿勢は心に響く。私は映像を見せて、彼らがこれから何をすべきか伝えた。全員が成長したいと願い、それを受け入れている。サンズの状況と類似しているのは、初めて会った時のデビン・ブッカーが『何でもやるから教えてください』と言った時のように、選手たちが勝利に飢えている点だ」
「5月や6月にこれだけの人数が練習場に集まるチームはそう多くはないだろう。コーチ不在の状況でも、彼らは練習していた。これは本当に印象的なことだ。契約を結ぶ前日にトロイから送られてきた写真を見て驚いたよ。この時期に全員が集まって練習しているんだ。私は心を揺さぶられ、『すぐに私もそちらに行く』と思ったよ。彼らには才能があり、そして高い意欲を持っている。そんなチームを前にすればテンションも上がるというものだ」
かつてのサンズのように急成長し、優勝を争うチームへと浮上できるか。「どんなチームになるか」との問いに、モンティは自信を持ってこう答えている。「攻撃でも守備でも競争するチームだ。我々はどんな試合でも全力で競争し、勝つチャンスをもぎ取るチームを目指す」