カイリー・アービング

ケミストリーよりも個人技による『結果』を求めるならば適任

プレーオフは大詰めを迎えて盛り上がっていますが、すでに敗退したチームのファンはドラフトやフリーエージェントに向けて、来シーズンのチーム構成に妄想を膨らませる時期になっています。特にスーパースターの補強はチームの大きな強化となりますが、失敗すれば崩壊に繋がりかねないため、その動向は大いに気になるところです。

今オフの大物フリーエージェントであるカイリー・アービングは、キャバリアーズ、セルティックス、ネッツと、行く先々で加入当初は良好な関係を築くのですが、最後にはチームを憎んで去っていくことを繰り返し、今や『劇薬』となっています。さらにケガによる欠場期間も長く、キャブスを去ってからの6年間でプレーオフに出場したのは22試合と少なく、平均得点も落としています。かつてファイナルで見せた勝負強さは今も強いインパクトがありますが、『優勝』を目指すチームが獲得するにはリスクの高い選手です。

それでもアービングのオフェンス能力が、リスクを承知で夢を見たくなるレベルにあるのも事実です。マーベリックスはまさにその可能性に賭け、見事に失敗しました。このケースはトレードで選手を手放したことでチームがバランスを欠いたことが失敗の原因で、アービングのプレー自体が問題であったり、彼が欠場したことで結果が出なかったわけではありません。そのためマブスは再契約を目指していますが、結果を出せずにシーズンを終えたマブスにフリーエージェントのアービングが残りたいと考えるかは難しいところです。

移籍先として有力とされるのがレイカーズで、プレーオフ期間中に試合観戦に訪れるという彼の行動もその噂に信憑性を持たせます。レイカーズの場合は「レブロン・ジェームズがいればアービングは問題を起こさないはず」という楽観的観測が強く見受けられます。しかし、38歳になりケガによる欠場も増えたレブロンと、慢性的にケガの多いアンソニー・デイビスが中心なだけに、さらにアービングが加われば常に欠場者に悩まされるでしょう。それよりもオースティン・リーブスと八村塁の残留を優先したほうがチームに安定感が出るはずです。

ヘッドコーチのマイク・ブーデンフォルツァーと別れたバックスは、チームの再編にも着手するはずで、ヤニス・アデトクンポの新しい相棒にアービングを選ぶ可能性があります。鉄壁のディフェンスに対してオフェンスには課題も多かったので、その弱点を分かりやすくカバーする補強になります。クリス・ミドルトンが契約最終年であることから、マブスとのトレードとなればそのまま成立しますが、地方都市のミルウォーキーに長年尽くしてきた選手と『劇薬』のトレードには決して小さくないリスクがあります。

ジェームズ・ハーデンがロケッツへと移籍する噂が本当になれば、シクサーズがアービングに手を出す可能性も出てきます。ジョエル・エンビードとハーデンのコンビは強力ですがプレーオフでは結果を出せませんでした。ハーデンのようにエンビードを生かすタイプより、時にはエンビードを無視してでも自分で得点する選手の方がチームに合いそうな雰囲気でもあり、ケミストリーよりも個人技による『結果』を求めるならば、得点能力の高いアービングは適任に思えます。

1年前のオフ、ネッツはアービングにマックス額での契約延長を提示するのを渋り、それがトレード要求に繋がりました。その騒動は一旦落ち着くのですが、シーズンが始まってチームが好調を維持するようになると、再び契約問題に火が付き、今度はトレードへと発展しました。

アービングが高額サラリーを譲るとは思えませんし、かと言ってサラリーキャップに余裕のある再建チームが手を出す選手でもありません。そのためマブスとの再契約でなければサイン&トレードによる移籍が前提となり、アービングを獲得するには主力クラスの選手を手放すことが必要になります。そこまでしてでも『劇薬』を手に入れるチームはどこなのか、今オフのフリーエージェント市場で初めの注目ポイントになりそうです。