馬場雄大

文=松原貴実 写真=野口岳彦、古後登志夫

「充実しているからこそ、もっと厳しいところに」

ちょっと話が前後しますが、中学の時、僕は県外の強豪高校に進みたいと思っていました。気持ちが変わったのは、中2のジュニアオールスターが終わった後に父からかけられた一言です。

「ジュニアオールスターに出るような選手を集めて地元に強豪高校を作りたい。その先頭をおまえが切ってくれないか」という言葉に心が動きました。それまで富山には全国大会で上位になるような強豪チームがなく、自分たちの力で強いチームを作りたいという思いも生まれて、父が監督を務める富山第一高校に進学する決心をしました。

結果的には2回出たインターハイでは1回戦、2回戦で敗退。同じく2年と3年に出たウインターカップもそれぞれ1回戦負けでした。それでも自分なりに精いっぱい頑張った3年間は充実していたと言えます。何より良かったのはポジションを問わないで自由に自分のプレーができたこと。ボールを運べばリバウンドにも飛び込む、ポストプレーをやればアウトサイドシュートも打つ、なんでもやることで今でいうオールラウンダーの基礎ができました。

もし「このポジションでこういうプレーをしろ」と決めつけられるようなチームに行っていたら、今の僕はなかったかもしれません。チームの流れが悪くなると、父は真っ先に僕を叱ったし、思うようなプレーができなかった時は、家に帰ると『無言の圧』が待ってたし、時々ムカつくことはありましたが(笑)、僕の将来を見据えた父の下で成長できた3年間でした。県外の強豪校に進まず、富山第一高校を選んだことは間違ってなかったと思っています。

だけど、高校から先の進路についてはかなり悩みました。アメリカの大学に進学するか、このまま日本の大学でバスケを続けるか……。U18代表メンバーとして一緒にプレーした渡邊雄太さんが当時アメリカに渡っていましたが、まだプレップスクールで頑張っている最中だったこともあり相談するのは気が引けました。それでお話をいただいた日本の大学のコーチからいろいろアドバイスをもらって、まずは日本の大学で頑張ろうと決めたんです。

その間に教員免許を取ることも目標の一つでした。筑波大に入ってからはすぐにスタメンになって、1年、2年、3年でインカレ3連覇も達成。すごく充実はしていたんですが、充実しているからこそ、もっと厳しいところに身を置いてみたいというか、自分の中にまたアメリカ挑戦の夢が湧き上がってきたんです。

馬場雄大

「もっとうまくなりたい、もっと経験を積みたい」

ユニバーシアード代表メンバーとして世界を見たことや2年の時に日本代表候補として合宿に参加したことに刺激を受けた面もあったと思います。特に代表チームとは別メニューで、当時暫定ヘッドコーチだったルカ(パヴィチェヴッチ)が個別に指導してくれたことは大きかったです。ルカからは「おまえは本能だけでプレーしている」と言われ続け、「おまえは東京オリンピックに出る選手になるんだぞ」と鼓舞され続け、その指導は本当に厳しいものでしたが、それを通して成長できているという実感がありました。

ルカと向き合い、鍛えられたあの時間は僕にとってものすごく贅沢なもう一つの『部活』だったかもしれません。もっとうまくなりたい、もっと経験を積みたいという気持ちが膨らんで、そのためにもアメリカの大学に移ることを真剣に考えるようになりました。実際、アメリカまで大学の見学に行ったり、話を聞いたりもしたんですよ。だけどネックになったのは『レッドシャツ』という制度。仮に向こうの大学にファイブイヤースチューデントとして在籍できたとしても、最初の1年間はレッドシャツとしてゲームに出ることができないんです。つまり僕がアメリカの大学でプレーできるようになるには2年かかるということ。そこが最大の悩みどころでした。

ところが、ちょうどその頃にルカがアルバルク東京のヘッドコーチに就任することが決まって、僕にも誘いの話がきたんです。筑波大バスケット部を退部してプロ選手になるということですね。アメリカの大学か、プロ選手の道か、それも迷いに迷いました。けど、最終的に僕の『部活の先生』であったルカの下なら自分はもっと成長できるはずだと思って、遠回りのアメリカの道より、プロ選手として自分を磨いて東京オリンピックを目指す道を選びました。

馬場雄大

「漠然とした夢ではなく、目標となる夢を」

プロになってからも試行錯誤の連続ですが、前よりも自分自身について考えるようになったし、本もたくさん読むようになりました。今はオンとオフの切り替えを大事にして自分のための時間を有効に使うよう心掛けています。選手の人間性はプレーに出ると思っているので、人間としてももっと成長していきたいです。

今日こうやって、あらためて子供時代から今までを振り返ると、ずいぶんと時間が経ったんだなあと思います。落ち着きがなくて家の中を走り回ってた僕は、今もコートの中を走り回っています(笑)。いかに自分が人に恵まれてきたか、ここまで来る間にどれだけたくさんの人に助けてもらったのかも再認識しました。

その中で常に高いところに自分の目標を置き、そこに到達するには今なにをしたらいいのか、なにをするべきかを考えてきたつもりです。だから今、部活を頑張っている皆さんにも「漠然とした夢ではなく、目標となる夢を持ってください」と伝えたいです。夢が目標になれば、それを叶えるためにやるべきことが見えてきます。将来自分がなりたい姿を具体的に思い浮かべて、それに近づくための努力をしてください。

ブレない軸さえあれば、僕がそうであったようにその道の途中で必ず出会うべき人と出会え、力を貸してもらえるはずです。神様はいつも努力する人の味方なのだということを忘れず、あなたが定めた目標に向かって頑張ってほしいと思います。