勝利を一気に手繰り寄せたディープスリー
5月13日、川崎ブレイブサンダースとのチャンピオンシップクォーターファイナル初戦をCS初出場の横浜ビー・コルセアーズが91−86で競り勝ち、セミファイナル進出に王手をかけた。
試合の注目はレギュラーシーズン最終戦で負傷しポストシーズンへの出場が危ぶまれていた横浜のエース、河村勇輝だったが、ベンチスタートながら3ポイントシュートを4本沈めるなど16得点を挙げ、勝利に貢献した。
試合前、河村は右ひざから太もも部分まで覆う大きなサポーターを巻いて登場。ウォームアップでも強度を徐々に高めながら準備を進めるチームメートたちとは違って、動きを確認するかのように、慎重かつゆっくりとしたペースでコートを駆けていた。 その姿からは、試合での活躍ぶりは想像できなかったが、ポストシーズンという大舞台で今出しうるものは出せた。「身体的には100%ではないものの、この1週間、100%にできる限りなるように準備してきました。この身体でできる最大限はできたんじゃないかなと思っています」
試合終了直後の興奮状態が落ち着いた会見での河村は、落ち着いた声のトーンでそのように試合を振り返った。手負いの状態でも河村は河村で、あらためて、図抜けた彼の力量を感じさせられた試合だった。
第1クォーターの残り5分を切ったところで先発ポイントガードの森井健太に代わってコートに入った河村は、そこから1分も経たないうちに3ポイントシュートを決める。第2クォーターの後半には得意のスティールから自らのレイアップで得点し、ディフェンスでも『らしさ』を見せた。そして圧巻は接戦の最終クォーター残り2分、河村はトップ・オブ・ザ・キー付近でボールを持ち、川崎の藤井祐眞と1対1になると、ドリブルで揺さぶってから相手の頭越しに、勝利を手繰り寄せる3ポイントシュートをねじ込んでみせた。
河村は4月初頭の試合で右大腿二頭筋を痛め、3週間戦列を離れた。チームは今回の彼の負傷箇所についてリリースを出していないが、サポーターの場所からしても最初のケガが影響していると思われる。横浜の青木勇人ヘッドコーチは、通常の肉体状態にない河村に対して、出場時間が少なくなることを想定しつつ、その中でより効率良く彼に仕事をしてもらうべくチームのメディカルスタッフ陣と密にコミュニケーションを取ってきたと話した。今回の試合で河村のプレータイムは19分半弱と、レギュラーシーズンの平均から10分近くも短くならざるをえなかった。それでも、オフェンスでは彼をいつもとは違ってコーナーに配置するなど負担を軽減させる工夫も施しながら、できるだけこの俊英の力量を引き出すことに成功したと言える。
「ウォーミングアップとかを見ていると、(河村も)やっぱり恐る恐るだったと思うんですけど、そこで感覚を取り戻して、試合の中で少しずつ上げていきながら最終的にパフォーマンスを上げていったというところは、本当に素晴らしかったなと思います。メディカルスタッフを信じているので、これくらいの分数でしっかりとパフォーマンスができるだろうというところは、最初から想定はしていました」
負担を軽減してくれた仲間「本当に頼もしいチームメートだなって感じました」
青木ヘッドコーチは、初のCS出場でエースが出場できるようにするためのチームの最善の努力だったというところを示しつつ、そう話した。
今シーズン、平均8.5本で初のアシスト王に輝くなど、河村といえば卓越したアシスト能力でも有名だが、脚の状態が十全でなく強いペネトレーションができない中で、この試合ではその強みを一定程度『あきらめる』という選択をした。結果、彼のアシスト数は3本に留まっている。「ケガのこともあって自分がやれることだったり、自分の本来のスタイルからはちょっと変えてプレーをしなければいけない状況にあるので、試合に出る時はそこのリスクを考えながらやっていました」
今年、本格的なプロ選手となって1年目の22歳はこう口にし、高ぶりすぎずに自分のできることを冷静に見極めながらコートに立っていたと振り返った。また、ケガをしてフルでチームを牽引しきれない現状の自分をチームメートがカバーしてくれたことに感謝の念を向けた。「僕の負担を減らすために他の選手がボール運びや(コートの)トップでのピックを使ったりして、僕はコーナーにステイすることも多々ありましたが、それでも点に繋げています。本当に頼もしいチームメートだなってすごく感じました」
一方で、自らはベンチに下がっている時でも、タイムアウト時に味方に自らの考えを交えながら懸命に助言を伝えるというリーダーらしい場面も見受けられた。コートに立っていない間も全力でチームの力になりたいという姿勢の表れだった。
4月上旬、横浜と川崎は中地区の首位を賭けてとどろきアリーナで2連戦を戦った。この2戦で故障中の河村は欠場したものの、いずれの試合も横浜が序盤につけられた差を終盤に挽回し、接戦に持ちこんでいる。結果は横浜の連敗とはなったが、チームの成長を示した試合にもなった。そして今回の、同じ場所で同じ相手のCSの試合、チームは河村の故障を補うような集中力と気持ちのこもったプレーぶりで、ポストシーズン常連の川崎から白星を挙げた。わずか1試合ながら、河村の故障という危機で、横浜はシーズンで最高の結束を見せたようにも思えた。
だが、河村がこの勝利にはしゃぎたてることはなかった。それはもう1つ勝たねば、1年が終わってしまうことを重々承知しているからで、すでに2戦目を勝つことに意識を向けている。「レギュラーシーズンと違って、この1試合に勝っただけで満足することはまったくないです。2試合勝ってやっと結果が出るのがこのチャンピオンシップだと思っているので、もう明日に切り替えています」
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