大学時代にキャプテン、選手、ヘッドコーチの三足のわらじを履き、「リアル藤真(『SLAM DUNK』の登場人物)」というキャッチコピーをつけられた山本草大がスペインでのコーチング修行を経て、今年から出身校である福岡大学附属大濠のアシスタントコーチに就任した。「名前の漢字は、片峯(聡太)先生と違い「草」に「大」きいなので、片峯先生や皆さんにイジっていただいて、うれしい気持ちです(笑)」と話す山本は、目指している指導者像について「自分と話したり会うことが、その人の明日へのモチベーションになる。誰かの頑張るきっかけになったり、モチベーションになるような人間になること」と話す。自身のバスケットボール人生で学んだことを後輩達に伝えながら、片峯監督のサポートをしていく。

「自分の力を発揮できる方法が、一生懸命やってきたバスケットボールだと思う」

──大濠でキャプテンを務めた後、広島大に進学してプレーヤー兼監督をされていました。

広島大は、毎年大学院に上がる先輩たちの中にバスケに詳しい方がいて、その人が1年か2年の間学生コーチを務める流れが7、8年ぐらい続いていることを聞いていました。ですが、コーチを頼める先輩がいなかったことや、今後もこういう代が来るかもしれないということもあり、自分たちが0から1を作って踏み台になろうと思い、プレーヤーをしながら監督もすることになりました。

私の中にもコンセプトだったり、やりたいことはたくさんあったので、「やってしまおう」と思ったことがきっかけです。実際にやってみて、物理的に誰かに任せないと回らないという状態になり、限界になったことが2度ありました。気づいたら身体がおかしくなって、「これが心と身体のバランスか」という経験をしました。大きく面白いものを作ろうと思うと誰かに任せることも必要だし、みんなで協力しないと目標には届かないことを経験できました。

あとは、4年をかけて本当の楽しさを追い求めてきました。ちょっとしたことをどれだけ徹底できるかという考え方は高校の時からやってきましたが、その伝え方だったり、やり方を変えつつ大学でも継続したことで、チーム全体として仲間同士の信頼も強くなりました。そういう人はチャンスをもらえると僕は思っていますし、それで失敗してもアドバイスをもらえるし、成功すれば本当の自信になる。そういったことをどんどん積み重ねることができて、チームで自信を持てた4年間でした。その結果、見てくれる人の心が動くバスケットをブラさずにできたので、そこは形になったという手応えはあります。

──プレーヤー兼コーチをしていたのは将来のことを見据えた上でのチャレンジでしたか?

元々バスケ専門のコーチをしたいと思っていましたが、この形でバスケットと関わるのは想像していなかったです。いろいろとチャレンジしようとした時はあったんですけどうまくいかず、なかなか選択肢が広がらない状態でした。自分の夢だったり、多くの人のモチベーションとなれる存在になるという、自分の中の理想像に近づくための力をつけられる環境がどこなのかをずっと考えていました。

そんな中、大学3年の年末に今回のお話をいただきました。名だたる先輩方がいらっしゃる中で、自信を持ってアシスタントコーチをできるのかという思いとの戦いでしたが、最終的には自分が決めることだったので「チャレンジしたいです」とお返事をさせていただきました。

──クラウドファンディングをしてスペインに修行に行くことになった経緯を教えてください。

私が勝手に心の中で師匠と呼ばせてもらっている、恩塚(亨)さん(女子日本代表ヘッドコーチ)を大大大リスペクトしていました。その恩塚さんが参考にしているのがヨーロッパのバスケだったことと、個をどんどん強くしていくアメリカのイメージに対して、組織で共有して着実に力をつけていく育成環境があるイメージをスペインに持っていて、スペインに行きたいなと考えていました。大学2年の夏頃に片峯先生にも相談したり、いろいろな人に金額面などを聞いてお金を貯めるところまで進みましたが、コロナの影響で断念せざるを得なくなってしまって。なので国内でと思い、島根スサノオマジックでインターン実習のOKをもらっていたんですけど、それもギリギリでダメになってしまいました。

そこから時が経ち、最後のインカレが終わった時に親が覚えてくれていたのか「本当に行きたいんだったら、お金のことも含めて何とかするよ」と言ってくれて、行くことになったのが経緯です。クラウドファンディングに関しては、最初から頭の中にあったんですけど、ネットに疎かったことと、人からお金を出してもらうことにちょっと抵抗がありました。傲慢な考えなんですけど、自分がやっていることで一歩踏み出してみようかなっていう方が1人でもいたらうれしいと思いましたし、自分が実際に体験していろいろな経験をした方が、伝えられることの深みも幅も広がるのかなと思いました。

──たくさんの人たちが支援してくれたと思いますが、実際に行ってみて一番学んだことは何ですか?

やっぱり海外に行くと話が大きくなるというか、国と国を比べたりするので、自分の中で常識が覆ったりだとか、幸せって何だっけとか、そういうところの刺激は受けましたね。それから、応援される人や組織になるためにしなきゃいけないことや、見る人の心を動かすバスケット、チーム作りや個人のあり方というところで、自分が今まで信じてきたことや大切だと思ってきたことがやっぱり間違っていなかったと確認できたのが僕の中で一番の収穫でした。伝えようとする力も人一倍強いので、その伝え方を学びたいという思いを再確認できたことも大きいです。新たな発見というよりは、確認作業が多かったですね。

「自分の強みは、伝える力」

──大濠のプレーヤーとコーチでは全く意識が違うと思いますがいかがでしょう?

そうですね。選手からコーチへ立場が変わったという難しさがあります。片峯先生は揺るぎないものというか、こういう時にはこう思うっていうところの速度がめちゃくちゃ速いです。それから、柔軟に対応するところと、誰でもそれが大事なのは分かっているよっていうことの一つひとつの強さがありますよね。もちろん、それは特質されたコーチングセンスというか、本当に化け物なので(笑)。やっぱり完全に頼ってしまって、「片峯先生がいるから僕はこれくらいで大丈夫だろう」と思ってしまう自分がいることをすごく感じています。それだと自分のためにも、チームのためにもなっていないので、そこをどう自分で整理していくかというところですね。

──昔と比べて、今のチームはどうですか?

ちょっとしたところの徹底具合はもっと極めてほしいなって思います。それぞれの色があると思うので、そこを突き詰めていってほしいですし、目標に対しての現状の見方だったりは、もっと頑張ってほしいなっていうのはあります。昔は固くなりすぎていたところがあったので、思い切ってプレーするところとかは、「良い方向に行っているな」って思います。コンタクトのところは先生もこだわっていると思うんですけど、チーム全体として嫌がらないところは年々上がってきているなとすごく感じました。そこは練習試合で他の先生方からも言われますね。

──アシスタントコーチとして、どのように活躍していきたいですか?

ゲームの時はベンチで1人しか立ってはいけないというルールがあるので、もし僕が立って選手に伝えた方がチームのためになるのなら、僕が立って先生が座るという状況があってもいいと思っています。それが本気ということだと思っているので。ただ、そう考えた時にやっぱり足りない部分が見えてくるので、そこが一つ具体的な目標ではあります。自分の強みは声がでかいというか、伝える力、「伝えたいんやお前に!」っていう力は鍛えてきたつもりなので、そこは先生もすごいんですけど、ぶつけまくって数で勝負したいと思います。

──新チームになって今年ももちろん全国優勝を目指すと思いますが、良い部分、足りない部分どんな状況でしょうか?

まず経験値がちょっと足りないというところは片峯先生とも話していました。もちろんインターハイの優勝が目標ですけど、やっぱり出場して経験を積むことは大事です。他のチームを見てもかなり力を持っているので、そこにどれだけ喰らいつけるかというのと、ウインターカップでの日本一を見据えるというところが、リアルな立ち位置なのかなという感じです。

──最後に当時の山本草太キャプテンのことを知っている人もいると思いますし、大濠ファンも多いと思うので皆さんにメッセージをお願いします。

能力に関係なく誰でもできるような部分を大きい選手や技術のある選手、シュート力のある選手が徹底することだったり、スローガン(「日本一カッコ良く素敵なチーム」)にもある「カッコ良く素敵な」っていう部分に対して、僕だから伝えられることがあると思っていて、そこに自信も持っています。コーチという立場ですし、表現する選手の評価が私達の評価になるので、そこを期待していただけたらなと思っています!