「プレーオフでの経験は全くの別物。僕のベストを引き出してくれる」
今シーズンのナゲッツには隙がない。シーズンを通して53勝を挙げて西カンファレンスのトップに立ったチームは、2年連続MVPのニコラ・ヨキッチを擁し、ジャマール・マレーとマイケル・ポーターJr.が大きなケガを乗り越えてプレーオフに照準を合わせてベストコンディションを作ってきた。ただタレントが揃うだけでなく、ヨキッチ中心のスタイルを長く続けてきた連携の良さもある。
そんなナゲッツに対し、プレーイン・トーナメントを何とか勝ち抜いた第8シードのティンバーウルブズが対抗するのは難しいと思われた。3連敗を喫した時点で、チームもファンも自信喪失。だが、そこで声を上げたのはキャリア3年目にして絶対的なエースへと成長したアンソニー・エドワーズだ。
シリーズ初戦こそ18得点に終わったが、第2戦では41得点、第3戦では36得点と、レギュラーシーズンの24.6得点を大幅に上回ったエドワーズは「みんなもう終わりだと思っているだろうけど、それは違う。次の試合でそれを証明して見せる」と語り、下を向くチームメートを鼓舞していた。
追い込まれると実力を発揮できないのは、ウルブズの抱える大きな弱点だ。カール・アンソニー・タウンズは死に物狂いの戦いを引っ張るには良い人すぎる。ルディ・ゴベアは追い込まれるとストレスが悪い形でプレーに出る。しかし21歳のエドワーズは生来の競争者で、追い込まれた時にこそ真価を発揮する。第4戦のエドワーズは34得点の活躍。終盤にリードを溶かして延長に持ち込まれたが、ウルブズはシリーズ初勝利を挙げた。
プレーオフで0勝3敗から逆転でシリーズを突破したチームはいない。第3戦ではターゲット・センターにあきらめの空気が蔓延していたが、第4戦で勝利を待つラスト数秒でスタンドから上がった声は「ウルブズ・イン・セブン」だった。ここから連勝してGAME7へ──。その気概を、ファンがまず取り戻した。
試合後のエドワーズは「彼らのためにも、もう1勝してミネソタに戻って来る」と語った。彼は明らかにチームを牽引していたが、ジャマール・マレーをマークし、勝負どころでビッグショットを決めているニキール・アレクサンダー・ウォーカー、ヨキッチに43得点を与えたものの粘り強いマークでプレーメークを阻み続けたタウンズのパフォーマンスを称えた。
34得点を挙げたにもかかわらずエドワーズは「僕のプレーは散々だった」と言う。「派手なプレーで目立ちはしたけど、12点差から追い付かれた時間帯にひどいプレーをしてしまった。おかげであやうく負けるところだったのを、チームメートが救ってくれたんだ。ニキールのビッグショットには本当に感謝している。(マイク)コンリーにもルディにもビッグショットがあったよね。彼らが僕のために勝利をもたらしてくれた」
3連敗からの1勝、オーバータイムに持ち込まれて競り勝って何とか生き延びたこの状況を、エドワーズは「恵まれている」と表現する。「プレーオフでの経験は全くの別物だし、この舞台が僕のベストを引き出してくれると思う。どのチームも僕の左からのドライブを警戒するけど、自分では右でもやれると思っている。今日は実際にできた。プレーオフの試合でやれると大きな自信になるんだ。これが2回目のプレーオフだけど、その雰囲気が大好きなんだ。ここにいられるのは本当に恵まれていると思うよ」
昨シーズンのファーストラウンドではグリズリーズ相手に2回、そして今回のシリーズで3回と、彼はプレーオフで30得点以上を5回記録した。これはコービー・ブライアントを抜き、レブロン・ジェームズに次ぐ歴代2位の数字だ。しかし、記者からこの記録を聞かされたエドワーズはこの日の会見で初めて当惑した表情を見せ、「比べものにならないよ」と言った。
「スタッツ的には30得点できたけど、僕はまだファーストラウンドを突破したこともない。彼らと一緒に名前が挙がるのは素晴らしいとは思うけど、実際に彼らと肩を並べようと思ったら、やるべきことがまだまだたくさんある」
1勝を挙げてもなお厳しい状況に変わりはない。ただ、「僕らはプライドに懸けて、スウィープでの敗退は絶対に受け入れられなかった」と語ったように、エドワーズはギリギリの戦いを最後まで続けるつもりだ。その結果がどうなるかは別にしても、そこで得るすべてがキャリア3年目のエースにとって貴重な経験となるのは間違いない。