ジョエル・エンビード

エンビードは「そんな策にハマって退場するほどバカじゃない」

現地4月20日、セブンティシクサーズはネッツの粘り強い戦いぶりに手を焼きながらも102-97で勝利し、これで3連勝とシリーズ突破に王手をかけた。それでも試合後の会見で、シクサーズのヘッドコーチ、ドック・リバースは怒っていた。チームの戦いぶりにではなく、自分たちのスター選手であるジョエル・エンビードが挑発に晒され続けることに対してだ。

ネッツのニコラス・クラクストンはティップオフの瞬間からエンビードを『標的』にしていた。とにかく激しく当たり、挑発し、フラストレーションを与えるのが彼の役割だった。オールスターでMVP候補、シクサーズの絶対的な柱であるエンビードだが、精神的に不安定な面がある。キャリア7年目を迎えてかなり成熟してきたが、『精神的に不安定な面がある』というレッテルを貼られていることに変わりはなく、対戦相手はそこを狙ってくる。

試合開始2分半の時点で、2人が交錯するプレーからエンビードがフレグラント・ファウルを受けている。クラクストンがダンクを決めた後、倒れたエンビードを故意にまたいだ。これにカッとなったエンビードがクラクストンの股間を蹴り上げたのだ。

数日前、ウォリアーズのドレイモンド・グリーンはキングスのドマンタス・サボニスを踏み付けて一発退場になり、1試合の出場停止処分を受けた。ネッツのホームゲームで、グリーンの一件は当然知っている観客が、エンビードの退場を求めて大ブーイングを浴びせる。エンビードは頭に血が上っていたが、ギリギリのところで踏み留まり、その後はクラクストンが挑発を続けても乗らなかった。そして接戦の最後、残り8秒でスペンサー・ディンウィディーが狙った同点シュートを止めるクラッチブロックで、シクサーズに勝利をもたらした。

エンビードは試合後に「彼らの作戦は分かっていた。僕を怒らせ、リアクションを誘っていた。でも、それは自分があまりにもすごい選手だからだと思うようにしている」と語った。

「あのシーンに限らず、僕の背中や膝にぶつかってくることは何度もある。僕をイライラさせて退場させるためにね。でも僕は『大丈夫、何の問題もない』という感じで次のプレーに向かう。そんな策にハマって退場するほどバカじゃない。ただ自分のプレーに集中し、こうして勝利を手に入れた。勝つにはそうするしかないと彼らが思ってるなら仕方ない。僕はただ前向きにプレーに集中するだけさ」

ただ、これで良しとしないのがドック・リバースである。グリーンの出場停止も含めて「リーグは今、非常に危険な前例を作っている」と警鐘を鳴らす。「ドレイモンドが相手の胸を踏み付けたのは、相手に足を押さえられたからだ。煽ったのは相手で、彼はそれに反応した。煽る者は罰せずに反応する者だけを罰するのは、リーグとして間違っている」

この試合ではジェームズ・ハーデンもドライブした際に寄せてきたロイス・オニールの股間にパンチを入れて退場となっている。リーグからエンビードやハーデンに出場停止などの処分は出ないが、フレグラントファウルのポイントがハーデンは2、エンビードは1となり、これが4になると自動的に1試合の出場停止になる。

リバースはエンビードがクラクストンの股間を蹴ったシーンについて「意図したものか咄嗟の反応かは分からないが、ジョエルは確かに蹴った。退場処分になってもおかしくなかった」と認めるとともに「しかし、相手をまたがないのは不文律のルールだ。普通、そんなことはしないものだ」とクラクストンの挑発を問題視した。

「試合の主役はジョエルだった。その彼にぶつかり、殴り、つかみかかるプレーを審判は許していた。劣勢を挽回しようとする選手は、それの何が問題なのか分からないだろう。勝つためにやれることはすべてやるのは当然のことだ。しかし、リーグにとっては大問題だ。誰が試合で主役を演じるべきなのかは言うまでもない。ドレイモンドを出場停止にするなら、少なくとも相手選手にも同じ処分を与えるべきだ。そうしなければ煽った者だけが勝つことになる」

「ただ、今はスター選手たちにもっともっと頭を使い、賢くプレーするようアドバイスすることしかできない」とドックは言う。スター選手の常人離れしたパフォーマンスが人の心を動かすからこそ、NBAには価値がある。そこを見誤り、スター選手の価値を毀損するプレーを容認するようではリーグは魅力を失っていく。ドックの警告はそういうことだ。