デイミアン・リラード

「優勝したい。ただ、それ以外は重要でないという行動を続けることはできない」

今から20年くらい前まで、NBAではスター選手がプロ入りしたチームに10年以上に渡って在籍するのが普通だった。たとえ移籍するにしても、引退まで残り数シーズンの晩年を他チームで過ごすといったくらいだ。だからこそ彼らトップ選手たちは、地元ファンに愛され続け、名実ともにプロスポーツの枠を超えた地元コミュニティの顔となっていた。

時間がかかっても、自分をドラフトしてくれた生え抜きのチームを強くすることにプライドを持ったスター選手が多かった昔に比べ、今ではそういった考えを持つ選手はごくわずかとなった。そこには、優勝を重要視する風潮があり、全盛期の内にプロ入りしたチームを離れてより勝てる環境を求めて移籍するケースが続出している。

トレイルブレイザーズのデイミアン・リラードは、2012年のプロ入りからここまで同チーム一筋で過ごしてきた。リーグ有数のスコアリングガードとして活躍しているリラードだが、優勝はおろかNBAファイナルの舞台に立ったことすらない。また、現在のブレイザーズは世代交代の過渡期にあり、今シーズンもプレーオフ出場が厳しい状況だ。

昨今の流れで言うと、リラードが勝てる環境を求めて移籍を要求しても、それは当然の主張と受け止められるだろう。だが、彼はブレイザーズの一員であり続けることにこだわりを持っている。そこには、勝利がすべてではないという確固たる信念があり、現在のチャンピオンリングを持っているかで、選手を評価するようなリングカルチャーへの嫌悪感がある。

元選手のJJ・レディックが持つポッドキャスト番組『The Old Man and the Three』に出演したリラードは、次のように語る。「このまま長い間、ずっとプレーを続けていくのかは分からない。なぜなら今のNBA全体の雰囲気を楽しめていないからだ」

「僕がチャンピオンリングを欲していることを証明する必要はない。僕たちはチャピオンシップで勝つためにプレーしているのは分かっている。みんな優勝したい。ただ、それ以外は重要でないという行動を続けることはできない。選手のキャリアの歩み方は重要でないという風潮を続けてはいけない」

そして、リラードは自身が大切にしているものについて続ける。「僕には現実の生活がある。家に帰って子供たちと遊び、母親の家に行って、従兄弟たちとくつろぐ。自分がNBA選手であることに関係ない部分で、僕には安定した生活があるんだ」

このリラードの主張について、勝っていない選手の言い訳ととらえる人もいるだろう。だが、彼のようなチーム愛を貫く選手の存在はNBAにとって貴重であり、彼のような選手が増えることを願うファンも少なくない。