サンダー

文=神高尚 写真=Getty Images

強固なディフェンスと決まらない3ポイントシュート

開幕4連敗を経て、そこから15勝3敗と波に乗ったサンダー。好調の要因の一つは『ハードワークを徹底する選手を重用すること』です。ミスマッチになっても身体を張って全員が守ることをベースにリーグ最高のディフェンスを構築し、一方で平均以下のオフェンスは、ともにリーグ1位の12.9本のオフェンスリバウンドと10.2スティールを生かして、セカンドチャンスと速攻でカバーしています。

チームが好調だと次第に課題も解決してくるもので、開幕当初は見るに耐えなかったオフェンスも、最近は連携が合ってきてスムーズなボールムーブからフリーの選手を生み出すようになってきました。ディフェンスが近くにいないワイドオープンの3ポイントシュートのアテンプト数は10月平均15.7本でしたが、11月は平均18.2本と増加しています。しかし、フリーにもかかわらず確率は30%で、断トツの最下位。3ポイントシュートが大切とされる中で、あまりにも決まらないのですが、それをハードワークで補って好成績を残しています。

現地12月5日のネッツ戦はそんな3ポイントシュートが連続で決まる珍しい立ち上がりも、ネッツディフェンスの前に沈黙する前半になりました。ネッツの狙いは3ポイントシュートの確率が22%と特に決まらないラッセル・ウエストブルックをフリーにすること。強引でも突破してしまうウエストブルックを相手にするにはヘルプディフェンスが必要ですが、抜かれないように距離を空けて守り、その分他の選手へのプレッシャーを強めました。ウエストブルックには2本の3ポイントシュートを決められるものの、ドライブで抜かれるよりは外から打たせた方がマシという取捨選択が成功し、お互いが守り合う展開が続きます。

ベンチメンバーが増えるとサンダーはミスを連発します。前半だけで7つのスティールから速攻で16点を奪われ、オフェンスリバウンド数でも下回り16点のビハインドを背負いました。サンダーのディフェンスは機能していたものの、自分たちの強みを逆にネッツに発揮されてしまいました。

前半に苦しんだサンダーですが、好調の2つ目の要因は『第3クォーターでリードを奪えること』にあります。ここ数年は第3クォーターの重要性が増しており、終盤の勝負どころを有利な状況で迎えられるかどうかは勝率に直結してきます。

第3クォーターの得失点差はリーグ最高の+4.2と、この時間帯を得意とするサンダーですが、この試合では流れを変えることができません。お互いがディフェンスで激しさを出しますが、3ポイントシュート10本中6本決めたネッツに対し、サンダーは11本中1本しか決められず、4本のオフェンスリバウンドで離されないのが精一杯。第3クォーターの時点でウエストブルックはトリプル・ダブルを達成し、ネッツの永久欠番であるジェイソン・キッドを抜いて歴代単独3位になりますが、そんなことを気にする余裕はなく、18点のビハインドで4Qを迎えることになりました。

サンダーの3ポイントシュートが不調の理由にはウエストブルックとポール・ジョージのホットラインが機能していないことも関係します。ウエストブルックのパスからジョージの3ポイントシュートというパターンは、昨シーズン41%の確率だったのが今シーズンはここまで26%と、中核が機能していません。しかし18点差を跳ね返すためにはディフェンスだけでなく、オフェンス面の爆発も必要。サンダーが選んだのは徹底してジョージに打たせることでした。

第3クォーターまで22点だったジョージは、残り7分11秒でスローインからボールをもらいワンフェイクでマークを外して最初の3ポイントシュートを決めると、速攻から2本目、スクリーンを利用してマークを外したキャッチ&シュートで3本目を決めます。1本目を決めてから1分強での連発で10点差と詰め寄り、チームには勢いがついてきます。

さらにドライブからレイアップを決めると、ボールを持たせまいとオフボールで厳しくついてくるディフェンスをあざ笑うかのように逆を取ってアリウープ。決めまくるジョージへ警戒を強めるネッツですが、やっとシュートを外したと思ったらアダムスのオフェンスリバウンドから、またもジョージの手元にボールが戻ってきてフローターが決まります。シュートが決まっても決まらなくても、常にゴール下に詰めていくハードワークが疲労の出てくる試合終盤でも衰えないのがサンダーのチームカラーです。

残り3分となりジョージのドライブにディフェンスが集まったところでパスアウトし、コーナーからグラントが3ポイントシュートを決めてついに2点差。しかし、ここから膠着状態に入ります。お互いに粘り強いディフェンスでイージーシュートを許さず、ジョージが1点差にするものの逆転が遠く、残り8秒でウエストブルックがディフェンスリバウンドを取ると、サンダーは最後のタイムアウトをコールします。

勝負強いウエストブルックか、それとも好調のジョージか。スローインのパスを受けたのはウエストブルック。ボールを持ったウエストブルックがドライブの体勢になるとネッツはドライブコースにヘルプディフェンスが立ち塞がろうとします。そこで空いたのはジョージ。ウエストブルックは迷わずパスを出し、ジョージも慌てずに追って来るディフェンスをフェイクでかわして打った3ポイントシュートが決勝点となり、サンダーが大逆転勝利を手にしました。

ポール・ジョージは第4クォーターだけで25得点。そこにはちょっとした伏線があります。ネッツの作戦はウエストブルックを離して守ることでドライブさせず、確率の悪いシュートを打たせることでした。3ポイントシュートの決まらないサンダーに対し、インサイドの得点を防ぐ狙いでもあります。その作戦は試合を通して機能していましたが、終盤になってもウエストブルックがプレッシャーを受けずに楽にパスを出すことを許すことにも繋がりました。逆転するために無駄な時間を使いたくない中で、ウエストブルックから1本のパスで簡単にシュートを打つことができたのです。

プレッシャーを掛ければ抜かれる、離してしまうとパスを通される。ネッツの選択は後者で、それが正確なパスを受けたジョージの大爆発へ繋がりました。サンダー好調の要因の3つ目は、ウエストブルックのターンオーバーが減ったこと。ここまでのアシスト/ターンオーバー率2.47はキャリア最高となっており、ミスを減らして効率的に周囲にアシストができています。ポール・ジョージの47点による大逆転劇には、そんな隠れた好調の要因もあったのでした。