『最高のオフェンスマシーン』と『最高のキラーディフェンダー』のトレード
カイリー・アービング獲得の失敗から一変、サンズはケビン・デュラントをトレードで獲得し、結果的にアービング以上の戦力を手に入れました。ここまで30勝27敗と苦しみましたが、デビン・ブッカー、クリス・ポール、ディアンドレ・エイトンの豪華カルテットが結成されたことで、ここからは優勝だけを目指す戦いになります。
デュラントはオフェンスにおいてできないことを探すことの方が難しく、何の問題もなくウイングのポジションにそのまま収まるでしょう。課題を強いて挙げるなら試合終盤に誰で勝負をかけるのかくらいです。勝負強いポールなのか、エースのブッカーなのか、それとも最高のオフェンスマシーンであるデュラントなのか。選びきれない豪華さですが、どれを選んでも間違いは起こらないはずです。
今シーズンのサンズはオフェンスに新たなオプションを追加すべく、従来のパターンをあえて封印しており、チームとしての進化を目指していましたが、相次ぐ主力のケガで成績は一気に下がり、それどころではない状況に追い込まれていました。ケガ人の復帰とともにチーム状態も良くなっていますが、新しいことを試す余裕はなくなり、これがプレーオフでの不安材料となりそうな時に、すべてを任せられるデュラントが来たため、懸念事項も一気に吹き飛んだ感があります。
クリス・ポールは37歳となり衰えてきたのか、ジャンプシュートの成功率低下がチームの不安材料でしたが、同じプレーをデュラントに託せば解決します。ただし、デュラントは一人ですべてを解決する異次元の選手ですが、あまりにも一人で解決してしまうがゆえに、デュラント中心にチームを作ると個人技に頼りきりになってしまうリスクもあります。シーズン途中の加入ということもあり、チーム戦術に混ぜることなく、オプションとして使う方が機能するのかもしれません。
もちろんトレードには代償も必要で、大量のドラフト指名権やシックスマンのキャメロン・ジョンソン、そして何よりもミケル・ブリッジズを失いました。ブリッジズの放出は特にディフェンス面で大きな痛手となります。デュラントが『最高のオフェンスマシーン』であればブリッジズは『最高のキラーディフェンダー』と評するべき、現代戦術においてとびきり優秀なディフェンダーでした。
1on1で対面して守るだけならブリッジズ以上の選手もいますが、現代オフェンスでは3ポイントシュートを打つためにスクリーンを使いながらオフボールで動き回り、スイッチを促していくのが基本です。まともにマッチアップすらさせない戦術がある中で、目の前のマークマンだけでなく、フロア全体の選手配置を頭に入れて、巧みにスクリーナーをかわしながら、次にパスが出るポイントを読み切って先に埋めてしまうブリッジズのディフェンスは、比肩する選手がいないほど圧倒的なものです。
またブリッジズはルーキー時代から1試合も欠場がなく、誰よりも走り続ける安定したコンディションも大きな特徴でした。それだけに、34歳でケガが増えているデュラントへの置き換えは、チームのスタミナ面での不安材料となります。いずれもデュラントの能力を考えれば『些細な問題』かもしれませんが、優勝するためにはディティールこそが重要であり、優れた戦術眼と高い献身性で貢献してくれたブリッジズがいなくなることは、見えない問題を生み出すかもしれません。
スーパースターの流出でハードワーカーが揃ったネッツに対して、豪華カルテットを結成したサンズという対照的なトレードはどのような結果をもたらすのか。ファンに愛されたブリッジズを差し出してまでデュラントを獲得したからには、優勝だけが唯一の成果になります。