名古屋短期大学付属(現桜花学園)時代には3年間で7度の日本一を経験し、ジャパンエナジーJOMOサンフラワーズ(現ENEOSサンフラワーズ)では9度のWリーグ優勝と、大神雄子は数々のタイトルを獲得してきた。2008年には日本人として2人目となるWNBA選手となり、中国リーグにも挑戦。2017-18シーズンをもって引退し、その後はコーチとしてのキャリアを歩み始めた。そして、アシスタントコーチを経て、昨年の5月末にトヨタ自動車アンテロープスのヘッドコーチに就任した。2連覇中のチームを任されるプレッシャーを跳ね除け、首位を快走中のレジェンドに心の内を聞いた。
「選手の時に次のキャリアに向けて自分の時間を作ることが大切」
──まず初めに、選手を引退してからコーチになるまでを振り返ってください。
35歳までプレーしましたが、大きいケガがなければ40歳までプレーするという選手としての目標もありました。両親が教育者というのもあって指導者になりたいという思いも描いていて、どっちを選ぶかとなった時に、指導者になりたいという思いが勝って引退を決意したのがスタートです。
コーチとしての経験はゼロですし、どんなことがあるかは未知の世界でしたから、もう一度自分が学ぶ場所を自分で作らないといけないと思い、筑波の大学院に通わせてもらいました。所属はトヨタに残してもらっていたのでチームの理解やヘッドコーチの理解、会社の理解がないとできなかったことです。そういったところも含めて、周りの方のサポートがあって今の自分がいると思うようになりました。
ヘッドコーチはやりたくてもなかなかやれるポジションではないですし、立候補してやれることでもないので、お話をいただいた時には責任を持ってやれるように、4年間準備してきました。そういった部分では迷わず挑戦したいと思っていましたね。
──Wリーグでヘッドコーチをやりたいと思ったきっかけはなんでしょう?
一生懸命プレーしているのに、特にWリーグの場合はそこからコーチになっていく選手が少ないと感じていました。実際にWリーグは男性のコーチが多いですし、アメリカは女性コーチも多くそれが普通になっています。そこを変えるのが自分の一つの使命だと思っていました。もちろん、自分がやりたいという思いが強いですけど、選手と一緒になってやる楽しさだったり、目的に向かう中でみんなで一喜一憂してやっていくことの素晴らしさを伝えて、女子のコーチがセカンドキャリアの選択肢の一つになってほしいという思いがあります。
──今後ヘッドコーチを目指す選手たちに何かアドバイスはありますか?
自分はアシスタントコーチ時代も含めてコーチとしての肩書きがついてから、バッシュを履いてフロアにいる時間が選手の時よりも長く、選手の時の方が時間がありました。だからこそ、選手の時に次のキャリアに向けて自分の時間を作ることが大切です。リフレッシュする時間も必要ですが、自分はその時間を作れなくて苦労しました、もちろん、バスケ漬けが楽しいと思う人もいるんですけど、自分はどっちかと言うとオンとオフをしっかり作っていきたいタイプで、午前中は「休み」と、自分で作らないと何かが入ってきてしまうので、そこは苦労しました。
「自分の機嫌は自分で取る」
──明るい雰囲気やあいさつなど、コミュニケーションが印象的ですが、チームとしてのフィロソフィーとして掲げていますか?
そうですね。でも、世代が一緒の選手が多くなったことで話しやすい環境になってきている面もあると思います。ヘッドコーチになり、私がどんなフィロソフィーを持っているのかというのは選手たちにプレゼンしました。選手でいる時間よりも人としている時間の方が長いから、マナーと規律が一番大事だと伝えました。また、もし何かを発信するのであればポジティブな発信をするようにということですね。
新しいことに挑戦することが好きなんですが、今年は選手にインプットさせる時間とアウトプットさせる時間を作っています。自分がテーマを作って、みんなの前で30秒スピーチをさせたり。共通点をしっかり作ることで、ロッカールームで話してもらえたらいいなと思い。そういうきっかけ作りはしています。自分は選手だった時間が長いので、いつも選手に寄り添えるような心を持ちたいとも思っています。もちろん、スカウティングだったり、チームのコンセプトをどうするかなどの部分でコーチ陣と話す時間を大事にしていますが、自分が35歳までプレーしてきたという長所を生かして、今後も選手に寄り添っていきたいです。
──他にも意識して取り組んでいることはありますか?
「自分の機嫌は自分で取る」ということも大事にしています。人はスーパーマンではないし、悲しい時もあればイライラしている時もあります。でも自分勝手な感情で接するのは絶対に違うと思うので、体育館に来る時は自分の機嫌は自分で取るようにします。演じているかもしれないですが、それでもいいと思っています。
──分かっていても、感情のコントロールが難しい場面もあるかと思います。その考えはどれくらいチームに浸透していますか?
まだまだですね。ただ、だからといってこういう風にしないといけないと伝えるよりも、自分の生き様をちゃんと伝えて常に行動すれば、習慣化されると思っています。自分が毎日しっかりと行動して、選手が自分自身で気づいて良い習慣に変えていけるような雰囲気作りをしています。
──その「良い習慣」にはどんなものがありますか?
練習中から選手同士でアウトプットしていますし、選手同士で解決できることは選手同士で解決するということですね。もう一つは自発的に行動すること。何かスピーチを依頼した時も進んで挙手してくれる選手が多くて、周りを探りません。
また、礼に始まり礼に終わるというのは古いかもしれないですが、日本人の良いところはそのまま伸ばすべきだと思います。海外だと「hey What’s up?」って誰からでも言うじゃないですか。待つことをせずに自分から行動することが大事です、その行動の中で一番最初にくるのが挨拶だと思います。コーチ陣やスタッフ陣も自然にやってきたので、選手たちがどなたかがいらっしゃった時にちゃんと挨拶できるになってきました。それは良い習慣ですね。
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