充実のチームでウインターカップに臨む東海大学付属諏訪、入野貴幸コーチ「死ぬこと以外の苦労は人を強くする」

充実のチームでウインターカップに臨む東海大学付属諏訪、入野貴幸コーチ「死ぬこと以外の苦労は人を強くする」

2022/12/12 17:30
入野貴幸

東海大学付属諏訪は、石口直に高山鈴琉、中川知定真と昨年から主力を担った選手が3年生になり、勝負の年を迎えている。昨年のウインターカップでは2回戦敗退、今年のインターハイでは3回戦敗退と上位進出を果たせずにいるが、高い能力を持った選手たちが『諏訪メンタリティ』でチームバスケットに徹し、初の日本一を狙う。選手たちの能力、チームの実力に自信を持つ入野貴幸コーチに、大会に向けた意気込みを聞いた。

トップリーグは「喉の渇きをうるおすように7試合を戦いました」

──今年はトップリーグに参加しました。初めて経験する全国リーグはどんなものでしたか。

7試合のリーグ戦でしたが、準備、試合、振り返りの3つがあるので感覚としては21試合なんですよね。特に試合後の振り返りは、勝った時は良いですけど負けた時は非常に苦しい作業で、それを選手たちと21試合やりきった感じです。

リーグ戦では自分たちの強みと弱みが浮き彫りになります。負けた試合を振り返ると、どれも自分たちの時間帯は作れているのですが、それが長く続かない。逆に言うと相手のリズムになった時にどう対処するか。それと向き合うための現在地が分かるのは、リーグ戦ならではの成果だと思います。

ウチの強みとしてはオフェンスのクローズアウトゲームに今年は取り組んできて、連動性とクローズアウトが生成されている時はすごく良いオフェンスができます。ディフェンスでも身体を張ってフィジカルに戦えている時は良い時間帯になりますね。

日清食品さんや協会がウインターカップ以上の環境を作ってくださって、私としてはリーグ戦をもう1周やりたいぐらいです。トライ&エラーの繰り返しでチーム力は明らかに向上しているし、遠征と試合の入り方の訓練が本当によくやれました。今の3年生が入学してきてコロナがあり、これまでの2年間は練習試合もなかなかできず不完全燃焼だったので、喉の渇きをうるおすように7試合を戦いました。

──この1年のチーム作りはどのような感じで進んできましたか?

昨年のウインターカップ2回戦で正智深谷に負けて、その時から試合に出ていた石口直、高山鈴琉、中川知定真の3人が負けをちゃんと受け止めたところから今年のチームがスタートし、『諏訪メンタリティ』という形でゴーストスタッツにフォーカスしてきました。記録に残らないルーズボールやボックスアウト、チームのために走ったか。今の選手たちは表に出てこないものになかなか価値を見いだせない、特に今のウチは中学で名の売れたタレントが集まるようになったので、そういう部分にフォーカスしてチーム力を向上させたいと考えました。インターハイを経てトップリーグを戦う中で、チームとしての成長を感じています。

──技術面や身体面の成長はそれぞれあると思いますが、チームとして成長した部分はどこですか?

福岡第一に負けた後、ロッカールームで「レフェリーに文句を言うのはやめよう」と話しました。選手たちは自分が今さわってないとか、ファウルされたとかって一番分かっているので、アピールしたくなるのも分かりますが、ジャッジに対して戦い始めてメンタルバランスが崩れた印象で。その後の正智深谷、中部大学第一との試合を見ていただくと分かるんですけど、一切文句を言わなくなりました。教育的な面で言えばレフェリーへのリスペクトは当然あるんですけど、せっかく良い練習をやって試合を迎えているのに、矛先が違う方向に向いてしまって力が発揮できないのでは後悔しますよね。それを伝えたかったです。

ただ、私自身も試合の中でヒートアップして「ええっ!?」ってボディランゲージで見せてしまうことがありました。正直に言えば、私自身もあの時はジャッジで試合が傾くと感じていました。自分も審判をやって、その立場も分かった上ではあったんですが、大学院に行くのでチームと別れて乗った新幹線で自分の発言を振り返って「自分を正当化して、汚いな俺」と思ったんです。

入野貴幸

「スポーツって勝つか負けるか、そこからは逃げたくない」

──それも精神的な余裕あってこそだと思います。大学院に行くことでどんな成長がありますか?

週1で通うのが本当にキツいんですよ。日曜の夜にチームと離れて、みんな楽しそうな電車の中で私だけ東海大の学生に紛れて(笑)。それでも今は体育哲学を学んでいて、陸川章先生を始めトップの先生方から学べる、一流に触れられることで自分の考え方の幅が広がっているのは事実ですね。

大学院に通い始めて、自分の中で「常に自己ベストを更新していく」ことを考えるようになりました。昨日よりも今日、という感じで自己ベストを更新することにフォーカスすると、考え方も物の見え方も変わってきます。自分を客観的に、あえてズレた目線で見てみるとか、無理に思える課題を自分で精査しながらアップデートしていくとか。それも含めて早く試合がしたいです。

ワクワクって漢字だと『沸く湧く』なんですよ。燃えたぎる勇気が満ち溢れる、唯一無二の人生を送りたいという思いが自分にはあります。日本代表のコーチをやってトップリーグに参戦しながら大学院に通う人って、他に絶対いないですよね? 大変ですけど死ぬこと以外の苦労は人を強くすると思っています。とはいえ2週間後に提出するつもりだった修士論文を来週出してくださいと言われて、もう死にそうなんですけど(笑)。

──そうは言っても、諏訪のコーチだけでも時間が足りないぐらいだと思います。

4月から秋田銀行でやっていた小滝道仁さんがアシスタントコーチで来てくれました。アシスタントコーチがいてトレーナーがいてバスの運転手さんもいる。ようやくバスケットに集中できる環境が18年目にしてできた感があります。トップリーグの遠征の手配もJTBさんが間に入ってくれているし、協会にも助けてもらっています。家族の支え、学校の理解もあります。職員室の席も近くはエネルギーのある若い先生ばかりで、私が一人で論文をやっているのにちょっかいを出されたり、大学院から戻って来ると席が物置きのようになっていたり、そうやってイジられながら楽しくやっています。

──入野コーチがそうであるように、選手も全国レベルで戦って勝たなければいけないのと同時に、学校教育の中での活動ですから学んで人間として成長していく必要もあります。そのバランスをどう考えますか?

勝利至上主義は勝つ以外に何もないということなので、それは全く違うと思います。基本的に選手たちには人間力向上と競技力向上のダブルゴールを目指すようにと話しています。競技力向上は目に見える形でシュートが入るとか分かりやすいんですけど、勉強や人間性と言われるとすごくアバウトなので、私は「人としてできることを増やしていく」だととらえています。例えば「挨拶ができるようになる」だけでもいいんです。

もちろん選手は試合で勝ちたいし、私も一番そう思っています。スポーツって勝つか負けるかのシビアな話で、そこを目指すからいろんな学びがあるとも思います。そこからは逃げたくないので、諏訪メンタリティのような形で選手に伝えています。

入野貴幸

「目の前の相手に集中して、一つずつ勝つことしか考えていません」

──今年の東海大学付属諏訪はどんなチームですか?

選手たちの主体性が売りです。マネージャーの屋代和希が学生コーチ並みに勉強して、夜もほぼ毎日寮でミーティングしています。自主自立が3年間のテーマなので、自分たちから追求する主体性が強いのは理想の状態です。

今年は高山や中川など下級生から試合に出ている選手がやや多いですが、それ以上に3年生の地頭が良いです。物事の解釈がよくできて、試合中にガードを呼んで声を掛けてもこちらが全部言わなくても分かってくれたり、大学生を相手にしている感じです。コーチングには『教え込む』、『誰かに指示する』、『見守る』、最後は『サポートに回る』の4段階あって、年によって違うのですが、今はサポートに回って見守る段階です。

──ウインターカップが間もなく始まりますが、「強豪チームだけど日本一を狙うにはもう一歩足りない」というのが東海大学付属諏訪に対する大方の見方だと思います。これをどう受け止めていますか?

負けた試合を振り返ると、簡単に言えばタイムアウトでどうこうなる話じゃないんですよね。それがラスト1カ月で埋められるのかどうか、正直分からないところはあります。トップ8、トップ4のチームは中身の詰まった練習をやっていますし、福岡第一と対戦した時は自分たちがプレスを仕掛けても、彼らは普段の練習からもっと高いレベルでお互いにやり合っているので、判断スピードもスキルも落ちませんでした。それを残りの期間でどう詰めていくかですね。とはいえ1回戦の別府溝部も留学生のいるチームですし、私も選手も1回戦から最高の状態で大会に入っていく、目の前の相手に集中して、一つずつ勝つことしか考えていません。

──2回戦以降は想定外のチームが上がって来る可能性もあります。そういった場合の準備はどうしていますか?

当たるであろうチームはすべてスカウティングします。それこそアシスタントの小滝はインターハイでも2回戦で当たる相手2チームのオフェンスとディフェンスのクリップを切り分けてくれて、私と一緒に選手に見せる映像を作りました。夕食の前にビデオミーティングをして、翌朝の練習会場で相手の動きをBチームの選手ができるように準備をします。それがカルチャーになっています。

練習メニューも毎日組み立てて、それも含めてトップリーグでは1週間で準備ができていたので、あとは練習の中で相手の特徴的な動き、こちらの対応を小出しにしながら自分たちのプレーの幹を太くすることを心掛けてきました。今年はトップリーグのおかげで、それが今まで以上に研ぎ澄まされている感があります。ゲームで起きたエラーを共有するのも早いですし、それが選手同士でできればタイムアウトを取らずに済みます。そうやって相手から見て嫌だな、隙がないな、ってチームになっていきたいです。

──東海大学付属諏訪に期待するバスケファンに、どんなところを見てもらいたいですか?

今年はゴーストスタッツ、諏訪メンタリティという形で、誰でもできることを一生懸命やる堅実さ、泥臭い部分を刷り込んできました。ベンチも含めた諏訪のハッスルプレーを楽しみにしてください。映像をご覧になる方にもワクワクしてもらえる試合をやりたいです。是非、一人でも多くの方に応援してもらいたいです。

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