稲垣愛

四日市メリノール学院と言えば、中学校女子が全中とJr.ウインターカップを制する全国トップ校として知られる。それでも高校女子は昨年に創部3年目で初のウインターカップ出場を果たし、全国に挑むようになった。そのチームを5月末から、中学女子を率いる稲垣愛コーチが兼任で指導することに。桜花学園の福王伶奈や深津唯生のようにメインの選手が他校に進む中で内部進学を選んだ選手に、他県からメリノールを選んでやって来た選手が加わり、稲垣コーチの下で激しい練習とレベルの高い練習試合を繰り返し、急成長している。

「一番のメリットは中学と高校で一緒に練習できること」

──中学と高校、カテゴリーの異なる2つのチームを見るのは大変なのではありませんか?

もちろん大変ですね。なんで痩せないんだろう?(笑) デメリットを探したらいくらでもありますが、それを凌駕するメリットに目を向けようと思いました。急遽高校も見ることになった状況で、私が教えるデメリットではなくメリットを選手たちに出してあげようと思って引き受けました。一番のメリットは中学と高校で一緒に練習できることだと思っています。

──中学と高校ではシンプルに年齢の違いがありますが、メリノール中が全国トップチームなのに対し、高校は三重県では勝てても、全国にはこれから挑戦していくチームです。指導のアプローチは変わってきますか?

高校生の方が理解力はあるのですが、私がいつも言っている『声は意識を変える、意識は行動を変える』という言葉を吸収し、意識を高く持つまでには時間がかかりました。これは最初の意識の差で、中学生は最初から全国優勝を狙うつもりで入学してきますが、高校生はそうじゃない。もちろん「インターハイに出たい、上位に行きたい」と思っているんだろうけど、その意識を持ち続けて厳しい練習に耐えるほどの体力、気力がないんです。

プレーするには気持ちが大事ですが、それだけでは絶対無理です。やりたいバスケを説明して選手の頭に入れたとしても、実際に身体が動かなければどうしようもない。だから私が指導するようになった5月、身体と心を鍛えるところからスタートしました。

──厳しい練習を重ねれば体力はそれなりにアップすると思いますが、全国で勝つようなメンタルはどうやって作りましたか?

中学のAチームと高校のAチームを一緒に練習させました。中学は6月に入ったら完全に全国大会に向けて勝負モードなので、その雰囲気に紛れ込ませて。「そのドリブルで勝てるの? 通用するの?」という感じで、実戦形式の練習を繰り返しました。正直に言えば、その時点では中学のAチームの方がレベルが高いです。でも高校も中学生の時に私の練習をやっていた選手が多いので「ここで遅れを取ってはいけない」というのは分かるわけです。そうやって一緒に練習させて、メリノール中の心の強さに紛れ込ませました(笑)。

稲垣愛

「勝ちたいんだったら自分で上手くなりなさい」

──メリノール中の選手からすると、高校生の練習に付き合うことがマイナスにはなりませんか?

高校生のパワーとサイズに慣れるので中学生にとってはラッキーです。スピードは中学生の方があって、ルーズボールに飛び込む強さなんかは必死ですから、パワーのある高校生と良い勝負になります。さっきも言ったように、デメリットはいくらでもありますが、メリットが大きくなれば良いと思ってやっています。

例えば、高校生のアジャストは中学生に試合映像を見させて、相手の特徴をつかんで完全コピーしなさいと言っています。バックカットのチームを完全コピーすると、バックカットが上手くなります。無駄にはならないんですよ(笑)。中学の選手たちも、自分たちのプレーの幅が広がると思って取り組んでいます。

練習ではないですが、日本代表にメリノール出身の選手がいれば、中学も高校も関係なく配信を見て一緒に応援します。その時間は練習ができませんが、それよりも「一緒に練習した先輩や仲間がアジアの舞台でこんなに頑張ってる!」と思えば「自分ももっとやれる」という気持ちが出てきます。そういう刺激は簡単に得られるものではないので、すごく大きいと思います。

ウインターカップにはメリノール中の選手も、コロナの状況を見て連れていければ連れていきます。東京で練習試合をして、卒業生が桜花学園、足羽、福岡大学附属若葉などウインターカップの出場チームにいるので、先輩たちを応援する日を作ります。自分が行きたい学校、好きなチームもあるはずなので。ウインターカップを観戦して、東京で練習ゲームをやって、三重に帰る。中学の選手には良い経験になります。

──稲垣コーチ自身、どちらかのチームに集中できないものかしさはありませんか?

時間の配分で上手くやれると思っています。人間って何時間も集中できなくて、すごく集中してチーム練習ができるのは1時間半ぐらい。あとはシューティングとかファンダメンタルで、そこはもう選手それぞれの自分次第。「勝ちたいんだったら自分で上手くなりなさい。私が上手くさせるんじゃないよ」と言っています。順番待ちでハンドリングをしていれば勝手に上手くなります。だから、時間の配分さえ上手くやれば大丈夫だと思っています。

稲垣愛

「もっともっと強くなるチャンスがある」

──ウインターカップが近付いてきました。今のチームの実力はどれぐらいのレベルでしょうか?

全国大会で上位を目指すチームと練習ゲームをいっぱいさせてもらいました。メリノール中ともバチバチで試合をしています。自分たちの実力不足を思い知らされて、心が折れそうになる中で頑張って。最初は2分しか戦えなかったのが3分になり5分になり、今は1クォーターは戦えるようになりました。その1クォーターの感じが続いたら全国でも勝てます。この半年間、ほぼディフェンスの練習しかしていません。今回、四日市商業との決勝も第1クォーターは21-2で2失点でした。ウインターカップでそれが4つ続くといいんですけど(笑)。

──エースはどの選手ですか?

2年生の志摩香奈子です。高1からずっと1試合で20点、30点を取る大エースです。県予選の決勝でケガをして、「チームの一番大事な時にコートに立てず、チームの役に立てないのが申し訳ない」と言って泣いたんです。普通はケガで試合に出れない悔しさで泣くんですけど、チームに貢献できないことで泣いているのは大したものですよ。2年生エースの意識がそう変わってきているから、もっともっと強くなるチャンスがあると思っています。

──以前は、中学が選手が一番変わる3年間だから中学の指導が楽しいと話していました。高校を見るようになって気付いたことはありますか?

インターハイ予選での負けから「自分たちの力で立ち上がろう、立て直そう」という姿を見せてくれています。中学生はまだ思春期で、その思春期を吹っ飛ばすぐらい鍛えるんですけど、高校生はすごく自主的に練習に取り組んで、いろんなことを乗り越えてきました。最初はシュートしかなかったのが、ディフェンスの一線の足の使い方に変わり、ピックの使い方になり、今度はオフボールの使い方、ディフェンスのヘルプの仕方になったという感じです。

個人でやっていたのがどんどんチームへと練習の課題が移っていく。やっぱりそれは中学生より高校生は大人というか、意識の面での成長がものすごいです。私にとっても高校を指導する1年目で、そういう劇的な成長を間近で見せてもらって、すごく良い時間になっています。

──逆に、中学と高校で「ここは変わらない」という部分はありますか?

高校になるとバスケはより組織的になる部分はありますけど、日本代表でも大事なのはアジリティだと言いますし、やっぱりディフェンスからブレイクだと選手たちには話しています。

──ウインターカップでの目標はどこに置きますか?

去年は出場しましたが1勝を挙げられていないので、まずは初戦突破です。高校に行くとどうしてもサイズがないので、インサイドでバスケが思うようにできない中で、いかに良いシュートを打てるか。選手たちが気持ち良くプレーできる形を模索しています。