鍵冨太雅

バスケ強豪校の中でも文武両道で知られる福岡大学付属大濠で2016年にキャプテンを務めた鍵冨太雅は、卒業後に『スラムダンク奨学金』でアメリカへと渡り、ディビジョン3の大学でプレー。卒業後の進路は就職と決まっていたが、土壇場でプロバスケットボール選手を選択した。就職するつもりなのを承知で練習に招いてくれた茨城ロボッツが、彼の新たな挑戦の場となる。大濠の同級生だった西田優大、1学年下の井上宋一郎はすでに日本代表で活躍中で、U19ワールドカップで一緒にプレーした八村塁はNBAプレーヤーだ。鍵冨はプロ入りこそ遅れたが、アメリカで得た多くの経験を生かしてBリーグに挑む。

「本格的に日本に住むのは、ちょっと不思議な感覚」

──5年間のアメリカ生活を終えて日本に帰ってきました。日本での生活はどうですか?

毎年夏には日本に帰っていたんですけど、例年だとこの時期はアメリカでは1学期が始まるので、この時期にアメリカに戻るのではなく本格的に日本に住むのは、ちょっと不思議な感覚ですね。

──やっぱり日本の食事はうれしいですか?

そうですね。アメリカでは美味しい焼肉、しゃぶしゃぶ、ラーメンは食べられないので、帰国してから3週間ぐらいは洋食は食べずに和食ばかりでした(笑)。

──高校卒業後にアメリカに渡り、現地でどんな経験ができたのかを教えてください。

スラムダンク奨学金でアメリカに行かせていただいて、バスケも勉強もトップレベルでやることを目標に、ハーバード大やコロンビア大のあるアイビーリーグを目指していました。実際にそういったチームから声を掛けてもらうこともあったんですけど、コーチングスタッフが入れ替わりになったり、僕に声を掛けてくれた人が別のチームに行ってしまったり、なかなか上手く行かなくて。それでディビジョン3の中で一番強いと言われたNESCACという、学力の高い大学が集まっているカンファレンスへと目標を切り替えました。

その中でボウディン大が一番熱心に誘ってくれました。学力的にはアイビーリーグと変わらなくて卒業するのが大変なんですけど、もともと自分が立てていた目標と似たチャレンジになると思ってボウディン大を選びました。

鍵冨太雅

「ずっとプライドを持ち続けようと思っていました」

──大学でのバスケを振り返ると、どんなものでしたか?

バスケ的には1年からローテーションに入って、毎試合10分から15分ぐらい出場して経験を積んで、2年から2番ポジション(シューティングガード)でスターターで出るようになりました。このシーズンはチームにケガ人が多くて、1番(ポイントガード)や3番(スモールフォワード)などフレキシブルにやらなければいけなかったんですけど、それも良い経験でした。いろんなポジションを理解することで、周りに気配りできる能力が身に着いたと思います。

3年はコロナでシーズンがなくなってしまい、4年はキャプテンに任命されて、4年間で初めてカンファレンスのトーナメントに進出しました。3番ポジションでスタメンで出ていたんですけど、2回戦でミドルベリーという結構強いチームに負けてしまいました。大学でのバスケはそこで終わってしまったんですけど、すごく楽しかったです。

──日本にいる時から文武両道を意識していましたが、勉強はどうでしたか。バスケでアメリカに留学する選手は、みんな語学の壁もあって勉強で苦労すると思います。

ずっとプライドを持ち続けようと思っていました。大学のGPA(総合成績評価)の平均が3.2から3.3で、それ以上は絶対に取ろうと決めて、卒業時には超えていました。毎日6時間とか7時間勉強して、追い込みの時期には休日を丸一日使って勉強しなきゃいけない中でバスケもあったので大変でしたけど、日本から行かせてもらっているし、自分のプライドもあったので、その環境の中でできる努力はやろうと思っていました。バスケの世界に行くにしても就職するにしても大丈夫なように、その準備が4年間できたと思います。

鍵冨太雅

「日本かアメリカか、就職かバスケか」の迷い

──大学を卒業してもアメリカに残る選択肢もあったと思いますが、茨城ロボッツでプレーすることになりました。これはどういう経緯で決まったものですか?

正直、大学に入ってからずっと、その先に日本とアメリカのどちらに住むのか、バスケと就職のどちらにするのか僕の中で迷いがありました。どちらに行くにしても大丈夫なようにとは思っていましたが、自分がどうしたいのかが決まらなかったんです。そんな中で3年の夏に就活が始まって、就職するなら商社や外資系のコンサルを希望していたので、日本の大手企業でインターンをしながら就職をして、3年の夏が終わった時には何社か内定をいただきました。

──なるほど、卒業後は就職する意識も結構強かったんですね。

そうですね。就職するものだと思っていました。ただ、4年目のバスケのシーズンが結構大変で、前の年がコロナだったので1、2年生がシーズンの経験がなく、4年生でシーズンを経験していたのが唯一僕だけで、キャプテンということもあって責任感とかプレッシャーがあってシーズン序盤は調子が上がらなかったんです。でも、カンファレンスの相手が強くなればなるほど、どんどん良いプレーができるようになっていきました。

相手が強くても自分の良いプレーを出す、それをやり続ければ上手くいくと分かってからは、自信が持てて伸び伸びとプレーできたし、それで結果が出ると「バスケをやってて良かった」と素直に思えるし、そんな中で「もっとバスケをしたい」という気持ちが大きくなっていったんです。

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