レブロン・ジェームズ

リーグ全体の収益を向上させ、配分するNBAのビジネススキーム

レブロン・ジェームスがレイカーズとの契約を2年延長し、これで累計サラリーが5億3200万ドル(720億円)となり史上最高額を更新することになりました。37歳にしていまだトッププレイヤーとして君臨する『キング』の息の長さには舌を巻きますが、同時にレブロンというアイコンとともにNBAの魅力と収益が発展し続けた結果としての超高額サラリーでもあります。

2003年にレブロンが初めてプロ契約を結んだ時、サラリーは『たったの』400万ドルでした。NBAのサラリーキャップはリーグ全体の収益から、ドラフト順位に応じてサラリーが決められるため、当時としては最高額の契約でした。今年のドラフト1位であるパオロ・バンケロのサラリーは1100万ドルとレブロンの3倍近くの額になります。当時とのルールの違いはあれど、約20年の間にNBAの収益も3倍近くに膨れ上がったことを示しています。

4年間のルーキースケールの契約が終了した後に、レブロンのサラリーは1300万ドルへとジャンプアップしますが、今年同じく4年が終了したルカ・ドンチッチは新シーズンには3700万ドルの契約を結んでいます。これはリーグ全体の収益が増加しただけでなく、労使交渉によりルールが変更されたことも関係しており、レブロンの時代はルーキースケール後の契約額はサラリーキャップの25%が上限でしたが、ドンチッチは『スーパーマックス契約』の適用により、上限が30%まで引き上げられています。この契約を結ぶには厳しい条件がありますが、ドンチッチは3回のオールNBAチームに選ばれたことでクリアしていました。

当時のレブロンもオールNBAチームに3回選ばれており、現行ルールならば間違いなく『スーパーマックス契約』を得て、それだけでなく『特定選手』として5年契約を結ぶことも可能でした。これらの制度はフリーエージェントで移籍していない場合に締結することが可能で、フランチャイズプレイヤーには優位な契約を締結できるようにしたものです。

そんな制度が必要になった理由の一つがレブロンで、キャブスでの7年目を終えてドウェイン・ウェイドのいるヒートへの移籍を選んだことでした。レブロンがサラリーにこだわるとは思えないものの、現行ルールであれば移籍が発生しなかった可能性もあります。あるいは同時にヒートへ加入したクリス・ボッシュがラプターズに残っていた可能性もあり、いずれにしても『スリーキングス』が結成されることはなかったかもしれません。

ヒートで4年間を過ごしたレブロンは2014年に再びキャブスに戻りますが、ここからサラリーが急騰していきます。世界経済の発展とスポーツに対する投資の過熱、そして動画視聴サービスの拡大により、リーグパスによる収益が増しただけでなく、ライブ放送の価値も上がったことでテレビ放映権料が高騰し、NBAの収益は右肩上がりとなりました。

当時はウォリアーズが王朝を築いた時代です。ウォリアーズはスターになる前に契約を結んだステフィン・カリーのサラリーが安かったことに加え、クレイ・トンプソンやドレイモンド・グリーンとの契約後にサラリーキャップが急騰したことで、ケビン・デュラントと契約する余裕が生まれました。それぞれの契約タイミングが絡みあった『サラリーキャップの奇跡』で成立したスター軍団でもありました。

レブロンに話を戻すと、キャブスに戻った初年度に2064万ドルだったサラリーは、2年後には3096万ドルとなり、レイカーズ移籍後も年々増えて新シーズンは4118万ドルと、8年間でサラリーは倍になりました。さらに今回の契約延長は2年9710万ドルで、37歳という年齢にもかかわらずサラリーが増えています。これはレブロンのプレーヤーとしての絶対的な価値が上がったというよりは、リーグ全体の収益から鑑みた相対的な価値としてのサラリーの上昇だと言えます。

NBAのアイコンであるレブロンはグッズ販売でも多額の収益をもたらすだけに、高額サラリーを手にすることに違和感はありませんが、一方で近年はオールスターに出場していなくてもマックス契約を手にする選手がいます。実力に見合っているかという疑問はありますが、これは一部の人気チームだけが稼ぐのではなく、リーグ全体の収益を向上させ、配分するNBAのビジネススキームが上手く回っている証明です。

高校を卒業したばかりのレブロンが加わったキャブスは、あっという間に優勝を目指すチームへと変貌しており、当時は大物ルーキーが1人加わるだけで戦力が激変する時代でした。しかし、昨シーズンのレイカーズはケガ人の続出があったとはいえ、レブロンが平均30点を超えてもプレーイン・トーナメントに進むことすらできなかったように、今は1人のスター選手で勝たせる時代ではありません。マーケットの小さいチームでも優勝を目指す戦力を揃えることを可能にしたサラリーキャップ制度は競争を激化させ、NBAの魅力を高めることにも繋がっているのです。