ラッセル・ウェストブルック

『ボールを持って、トップから仕掛ける』プレーを否定する指示

レイカーズは新たな指揮官ダービン・ハムとともに再スタートを切ろうとしている。それでも、そこにラッセル・ウェストブルックが含まれているかどうかはまだ分からない。チームの核であるレブロン・ジェームズとアンソニー・デイビスとプレーが噛み合わなかったことで、ウェストブルックの評価は下がった。下がりすぎてトレードにも出せない状況にあるが、レイカーズは本音ではトレードを願っているのだろう。

だが、レイカーズが利を得る形でのトレードは実現しそうにないし、実際に成立に漕ぎ着けるまでは新シーズンのウェストブルックが本来のパフォーマンスを取り戻すものとしておかなければならない。新たな指揮官は就任会見でウェストブルックについて「彼がいてくれることに興奮している」と語った。そして「彼には今までのキャリアよりも多くのコーナースリーを決めてほしい」と語っている。

ウェストブルックは3ポイントシュートが得意な選手ではない。キャリアを通じて1試合平均のフィールドゴール試投数が18.8、そのうち3ポイントシュートは3.7本しかない。成功率も30.5%しかなく、キャリアで最も高かった2016-17シーズンでも34.3%と平凡な数字。彼はあくまで、卓越したフィジカルとスピードを生かしたペイントアタックから何かを生み出す選手なのだ。

一般的にコーナーは、3ポイントシュートの中でも最も確率が高いとされる。リングまでの距離も近く、オープンかつキャッチ&シュートで打てるチャンスが多い。昨シーズンのウェストブルックはコーナースリーを45%(51本中23本成功)と及第点の確率で決めているが、問題は51本という数の少なさだ。シーズンを通して彼が放ったシュート1233本のうちコーナースリーは51本だから、シュート全体の4%しかない。

ウェストブルックはボールを持って何かを生み出す選手であり、トップの位置から自分の判断で動く。つまり「多くのコーナースリーを決めろ」という新指揮官の指示は、「ボールを持たず、コーナーにステイしろ」との意味でもあり、ウェストブルックから『らしさ』を取り上げて、トップの位置でボールを保持して起点となる役割を他の選手、つまりレブロンに譲れという命令に見える。

ウェストブルックに本来のプレーを取り戻させるためなら、コーナースリーを狙わせるのは間違っている。それでも彼を主力に据え置く代わりにオフボールでのプレーを受け入れさせることは、トレードがまとまりそうになく、ベンチに置くのも波風が立つ状況で、レイカーズにとっての最適解なのだろう。

ウェストブルックにとって、この指示は屈辱だろうし、最大の持ち味である爆発力を封印することにも繋がる。だが、勝つことで批判をはねのけ、自身の評価を取り戻すという意味では、やる価値のあるチャレンジかもしれない。近年のNBAではスター選手の自分勝手な振る舞いが横行しているが、ウェストブルックであれば自分を犠牲にしてチームファーストを貫くこともできるはずだ。その先には、もしかするとレイカーズにとってもウェストブルックにとっても、大きな収穫が待っているかもしれない。