デイヴィッド・サイモン

文=鈴木健一郎 写真=バスケット・カウント編集部、B.LEAGUE

「シュートが特に入る夜は波に乗れるもの」と笑顔

シーズン開幕を控えた時期にコート外での選手のトラブルが立て続けに起こった京都ハンナリーズ。チーム編成が終わった後に、出場停止と解雇でロスターから2人が抜けたダメージは計り知れない。また騒動を受けて、残った選手たちも満足な準備ができたとは言い難い。

編成とチーム作り、開幕までの準備がシーズンを左右すると言われるその常識を覆すように、京都は4勝1敗のロケットスタートを決めている。その大きな要因となっているのが、新外国籍選手のデイヴィッド・サイモンの存在だ。

韓国のKBLからBリーグに参戦したサイモンは、開幕5試合で平均25.4得点をマーク。デビュー戦こそ16得点に留まったが、その後はすべてゲームハイの得点を挙げて勝利に貢献している。琉球ゴールデンキングスに競り勝った17日の試合では34得点を挙げて勝利の原動力に。サイモンは「とてもタフな試合だった。最初からプレッシャーをかけてくる強いチームを相手に苦戦したけど、終盤にようやく自分たちのプレーをすることができた」と振り返る。

フィールドゴール20本中15本成功、フリースローも5本を投じて落としたのは1つだけ。最高のシュートタッチで、タフな試合の中でもプレーを楽しんでいるように見えた。「試合中に特に意識していたわけじゃないけど、シュートが特に入る夜は波に乗れるもの。そう感じれば気持ち良くプレーできるものさ」とサイモンは笑顔を見せる。

ここまでプレータイムは平均37分。チームメートのジュリアン・マブンガとともにリーグ最長と2番手を記録している。オン・ザ・コートのルール変更により特定の選手への負担が高まる傾向にあるが、それを覚悟の上でプレーしているのがこの2人だ。それでもサイモンは「いつもコーチとコミュニケーションを取っていて、休みが必要な時はコーチが分かってくれる。最後まで戦い抜けるように調整してもらっているので大丈夫」と語る。

デイヴィッド・サイモン

疲労を超越するクラッチシュートで大混戦に決着

琉球戦でも第2クォーターと第3クォーターにそれぞれ1分休んだだけで、あとはフル回転。ただ彼が言うように、第3クォーター終盤にトランジションで足が動かなくなったタイミングで、浜口炎ヘッドコーチはすぐさまサイモンをベンチに戻している。呼吸を整える程度の時間しかなかったが、それで足が復活。そのまま試合終了までプレーを続けた。

スタミナ的には相当キツかったに違いないが、サイモンは疲労を超越した。一瞬も気が抜けない大混戦、替えの利かないサイモンがパフォーマンスを落とせば、京都は辛抱しきれなかったはず。ところがサイモンは疲れを見せるどころか、試合がクライマックスに向かうにつれて得点ペースを上げた。

第4クォーター残り1分、内海慎吾のシュートがアイラ・ブラウンにブロックされる。このこぼれ球に飛び付いたのがサイモンだった。3ポイントラインのほんの少し内側、ショットクロック残り2秒で振り向きざまに打たなければいけないシチュエーションだったがクラッチシュートを見事に決め、勝利を引き寄せた。

「韓国でも週に3試合とか4試合をこなすことはあるし、連続で試合があることもあった。それを4シーズンやっているので、Bリーグの日程がキツいとは感じないよ」と過密日程も苦にしない。36歳のベテランだけに長いシーズンをフル稼働で乗り切ることができるのかが懸念されるが、少なくとも現時点で本人は全く不安を感じていないようだ。

デイヴィッド・サイモン

「チームプレーへのアジャストは100%に近い」

彼が感じているのは疲労ではなく、プレーに対する充実感と仲間への信頼だ。「いろんな国でプレーをしてきたけど、京都は入ってすぐにチームメートが自分を受け入れてくれた。そのおかげですごく気持ち良くプレーできている。新しいチームに入れば学ぶことが多いんだけど、チームプレーへのアジャストは100%に近いぐらいの手応えを得られている」とサイモン。

また日本での暮らしへのアジャストも100%に近いぐらい順調だそうで、「まだ来日して1カ月だけど、日本は特に生活しやすくて助かるよ」と語る。

「先週に友達が京都に来たので、一緒に街を見て回ったんだ。いくつか有名なところにも行った。ここまでのお気に入りは、なんて名前だったかな、トーフク……東福寺だ! 食事は自分で料理するのが好きなんだけど、外での食事も何を食べてもおいしい。先週は回転寿司を初体験して15皿食べたよ(笑)」

京都は昨シーズンの主力だった重量級センターのジョシュア・スミスが抜けたが、サイモンは加入早々にスミス以上の得点能力と、彼にはなかった万能性を見せている。アップテンポな展開にも対応でき、ペイントエリア内で圧倒的な強さを発揮するだけでなく、その周囲までこなすプレーエリアの広さもある。すでに得点能力は示しているが、チーム合流は遅く、彼が動くことでできたスペースを味方が突くような動きはこれから作っていく状況。ケミストリーが高まり彼を中心とした連動性が出てくれば、京都のオフェンスはさらに向上するはずだ。

「とにかくチームが勝ち続けることを考え、自分がこれまでやってきたプレーをしっかり出したい。シーズンを通して30得点はなかなか難しいね(笑)、自分だけの力でできるものでもない。それでもみんなが自分にスコアを取ってほしいと期待するのであれば、それに応えるだけのプレーをしたいと思っている」とサイモンは頼もしい言葉を口にする。

コート上では激しく戦い、無慈悲にディフェンスを打ち破るサイモンだが、試合を終えて向き合えばよくしゃべり、表情豊かな男だ。ニック・ファジーカスやダバンテ・ガードナーと『リーグ最強スコアラー』の座を争うかもしれないサイモンのプレーには、一見の価値がある。