厚生労働省によると、うつ病は気分障害の一つで、日本では100人に約6人がかかり、発症の正確な原因は分かっていないという。現在はトップアスリートが患うことも珍しくなく、バスケットボール界では八村塁がメンタルヘルスの問題でチームへの合流が遅れたニュースが記憶に新しい。メンタルヘルスケアの重要性は年々増しているが、当事者がその問題を自己解決できる体制が整っていないのも事実。自身も2度のうつ病を経験した原匠は、こうした状況を変えようと、今日も自転車を漕ぎ続ける。
「精神病に対しての社会の空気感が、当事者にとって負担になっている」
──活動を始めてから現在まで、どのくらいの都道府県を周りましたか?
旅を開始したのが2021年3月で、旅先で緊急事態宣言が出た場合は旅を中断していたので、周った数は35、6くらいになります。落ち着いた現在も旅を続けています。
──こうした活動を通して見えてきたものや感じたことは何でしょう。また、見えてきた課題をどのように変えていきたいと思いますか?
精神病に対しての社会の空気感や偏見みたいなものが、当事者にとって負担になっているというのは大きく感じました。ここの部分は今まさに活動の中で自分が変えていきたい部分の一つとしてありますが、精神科は何故こんなにも通いづらいのかなと。例えば、誰かが足を骨折した時は病院に行って手術をするなり、病院に行こうと普通に言えますが、精神的に違和感がある相手の場合、精神科に行った方がいいよと気軽に言えないと思います。同じ病院なのに差がある、ここの部分が社会課題の一つとしてあると感じました。
自分としては、そういった施設が安心して利用できる場所だということをしっかり伝えたいです。ただ、この空気感を変えるというのはかなり漠然としていて、正解は今も手探りです。その中で参考にしているのが『LGBT』の普及です。10年、15年前よりも現在のほうがジェンダー問題について、風通しが良くなっていると思います。当時に何があったのかを考えると、所謂オネエタレントの方々が活躍していた印象がすごく残っています。彼らがテレビで面白おかしく自分を表現し、こういう人がいてもいいという社会の空気感を作ったのではと仮説を立てました。それをこのメンタル問題にも繋げて行けたらと思い、エンターテインメント性や面白さを生かすために僕はバスケットボールというツールを使って発信活動を始めました。
──バスケットボールを介することのメリットは何でしょう?
これは仕方のないことですが、悩みを抱えていない人にとってメンタルヘルスの話題はあまり触れたくない内容というか、興味も関心も持てない内容になってしまいます。ただ、一緒にバスケをして自転車で日本一周の旅をしているとなると、「どうして全国でバスケをしているんですか?」という風に関心を持っていただけます。その時に初めて自分がうつ病を発症し、こういう活動をしながら全国を周っているという話をすると、単にメンタルについて発信するよりも関心を持ってくださる方が増えた感覚がありました。
──活動をする中で、実際に悩みを相談されたことなどはありますか?
悩みを抱えている高校生や中学生と直接話をする機会がありました。その時の高校生はスポーツをやっていたんですけど、心に悩みを抱えた結果、自分を傷つけてしまったり、学校に行けなくなってしまいました。自分の経験を話したり、彼の話を聞いていく中でどんどん心を開いてくれて、最終的にチームに戻り、学校にも通えるようになったのは個人的にすごくうれしい出来事でしたし、この活動の意味を感じさせてくれました。
──ちなみに金銭面はどのようにやりくりをされているのでしょうか?
活動を開始する前にクラウドファンティングを実施して、その資金を元手に活動させていただきました。ただ、その資金もすでに底をついてしまっている状況で、各地を周りながらアルバイトをして食い繋いでいる状況です。正直、経済的な余裕はないので野宿をすることもあり、道の駅や外にテントを張って生活をしています。
「スポーツには人と人を繋いだり、人の心を動かす力がある」
──今後はどのように活動を続けていく予定ですか?
全国を周り切ることもそうですが、ありがたいことに旅を進めていく上でいろいろなコミュニティの方に繋いでいただき、学校で直接話をするなど、現場にうかがわせていただく機会も増えました。ただ、それと同時に個人でできることの限界を感じ始めてもいます。もっと多面的に同じような課題意識を持たった方とコミニケーションを取って、活動の場を広げていくことが今後は大事になってくると思います。
スポーツには人と人を繋いだり、人の心を動かす力があるとあらためて実感しています。こういった社会課題を解決する上でもスポーツの存在というのは大きなものになっていくと思うので、バスケットボールのみならず各競技をまたいで、人の心の問題を解決していけるような社会を作って行けたらと思っています。
──悩みを抱えている方々にアドバイスやメッセージをお願いします。
まずは近くに頼れる人がいるのであれば、その人に頼ってほしいということを一番伝えたいです。それが家族なのか、学校の先生なのか、それとも病院の先生や友人なのかは分かりませんが、必ず誰かに頼ってほしいと思います。ただ、どうしても相談できないという時は、僕のような第三者で、一度同じような経験をしている人に助けを求めて欲しいと僕は思っています。
僕が運用しているホームページに問い合わせフォームもありますし、各種SNSなどを使ってダイレクトメッセージを送って連絡をもらえればありがたいです。