ジェームズ・ハーデン

文=神高尚 写真=Getty Images

昨シーズン成績
65勝17敗(西カンファレンス1位)、カンファレンスファイナル敗退
主な加入
カーメロ・アンソニー、ジェームズ・エリス、マーキース・クリス、ブランドン・ナイト、マイケル・カーター・ウイリアムス
主な放出
トレバー・アリーザ、ルーク・バーア・ムーテ、ライアン・アンダーソン、ジョー・ジョンソン

届かなかったファイナル、その反省点から考えられた補強

シーズンを通して圧倒的な強さを誇り、ウォリアーズの牙城を崩すことが期待されたロケッツでしたが、最後はクリス・ポールのケガと主力の疲労が溜まったことで発生したシュートスランプで失速。ファイナル進出に王手を掛けながら逆転負けを喫しました。

このオフにロケッツが求めたのは、そんな2つの敗因を補うこと。目玉となるカーメロの獲得は個人で得点が取れる選手を増やし、ガードポジション以外から仕掛ける選択肢を狙ったものです。プレシーズンでは動きにキレがあり、シュートが好調で早くもチームにフィットしている雰囲気ですが、チームが求めるのは単なるシューター以上の役割のはず。新たに獲得した強力なオフェンスオプションの使い方を探っていくでしょう。オールラウンドな能力を発揮するエニスとともに、ロケッツのウイングはオフェンスで大いに力を発揮してくれそうです。

またかつての新人王であるマイケル・カーター・ウイリアムスは高身長のポイントガードで、ディフェンスの良さが持ち味。ガードの控えとしてだけでなく、ウイングの役割をこなすポジションの万能性があります。シュート力不足のため、3ポイントシュートの多いロケッツに合うか不安でしたが、プレシーズンではドライブの多いプレースタイルがチームのアクセントになっています。ジェラルド・グリーンやエリック・ゴードンとシュータータイプが多かったチームに変化を付ける役割を担ってくれそうです。

センターには若いマーキース・クリスを加えて、クリント・カペラのバックアップを準備しました。スイッチの多いロケッツはセンターでもガード相手に守る機会が多く、身体能力の高いクリスに期待を込めた形です。インサイドで器用にパスを回すネネイと違うタイプであり、対戦相手によって使い分けてくるでしょう。

高い個人技を持ったウイング、ポジション万能なバックアップ、若手成長株のセンターとプレーオフの敗因から導き出された補強は理にかなっており、放出した選手と比較しても戦力アップに成功したと言えるロケッツです。

未知数のディフェンス、ハーデンとポール

しかし、チームとして強くなったかと問われると未知数です。昨シーズンのロケッツが勝率を大きく伸ばした要因は高い戦術理解度と、何よりもディフェンス力の大幅な向上にありました。その点でトレバー・アリーザとルーク・バーアムーテの移籍、そしてディフェンス担当アシスタントコーチだったジェフ・ビズデリックがシーズン開幕前に引退したことは不安です。

ロケッツがスイッチの多いディフェンスを導入した理由の一つがハーデンのようなスピードを苦手とするディフェンダーが多いことで、チーム全体でフォローできる方法が必要でした。マークの受け渡しはルールとしては難しくなくても、正しいタイミングで行わないと簡単にフリーの選手を生み出してしまいます。プレシーズンでもイージーシュートを何本も打たれており、形としてスイッチしていても機能しておらず、ディフェンス力の低下が目立ちました。

またウォリアーズとのプレーオフではケビン・デュラントに密着マークを続けて相手を困らせたアリーザのように、エースキラーとなるディフェンダーの不在も気になります。PJ・タッカーはいますが、スピードのある相手には厳しく、ボールを持たせないディフェンスが得意なタイプではありません。レブロン・ジェームスもやってきた激戦の西カンファレンスだけに、試合終盤の重要な局面でエースキラーの不在は勝負を分けるポイントになりかねません。

それでも、勝負どころでのディフェンス面の不安はオフェンスで打ち消すしかありません。最後に頼るのはやはりMVPのジェームス・ハーデンです。クリス・ポールとのコンビも2シーズン目を迎え、より高い連携度を発揮してくるはずです。1人でもリーグ最高クラスのチームオフェンスを構成する能力を持つ2人が作り上げるマイク・ダントーニ式の強力なスペーシングオフェンスは、3ポイントシュートのアテンプトが2ポイントシュートを上回るという歴史的なオフェンス革命を起こしました。選手の質、量ともに昨シーズンを上回るだけに、オフェンス力のさらなる向上が今シーズンのロケッツが取り組む課題になります。

+++++注目すべき『脇役』+++++
ジェームス・エニス三世 ロケッツの新しいスターターはオールラウンドな能力を持ち、攻守にキーマンとなり得る存在。課題となるのは昨シーズン33%と奮わなかった3ポイントシュート成功率。フリーで打つ機会が増えることが予想されるだけに、しっかりと決めたい。