富樫勇樹

文=丸山素行 写真=野口岳彦

カリーに並ぶ『50-40-90』を最大の目標に

昨シーズンの千葉ジェッツは、警戒していても止められない高速トランジションオフェンスを武器に、Bリーグ準優勝、東地区優勝、天皇杯連覇を達成し、飛躍の1年を過ごした。大野篤史ヘッドコーチのバスケットが浸透し、チームのスタイルが確立したことが強さの要因に挙げられるが、選手一人ひとりのステップアップも欠かせない要素だ。

中でも富樫勇樹は、平均15.7得点(日本人2位)、5.3アシスト(リーグ5位)、3ポイントシュート成功率42.1%(リーグ2位)と高い数字を残した。特筆すべきは、初年度よりもわずかにプレータイムが減少したにもかかわらず、ほとんどのスタッツが向上した点にある。

「確率の部分で目標を持っていたので、自分が想像していた個人としての成績では、本当に超えられたと思います」と富樫も自らが残したスタッツには満足している様子だ。得点数にこだわる選手は多いが、それはプレータイム次第で大きく変動するもの。富樫は得点数よりも確率、量よりも質にこだわった。

「1試合を通して常に100%でやるにはプレータイムは30分以下に抑えたほうが良いです。それは自分のためもありますし、いろんな選手を使いながら勝つ方がチームとしても成長できるので。良いシュートを選ぶようになったと思います」

富樫勇樹

「こういう選手になりたいと思ってもらいたい」

昨シーズンの成績が素晴らしかっただけに、維持するだけでも難しい目標となる。それでも富樫は「フィールドゴール50%、3ポイント40%、フリースロー90%」と、さらに高い目標を自身に課した。「NBAでも7人しか達成したことがない記録で、最近で言うと(ステフィン)カリー選手が達成した記録なんです。フリースロー(83.8%)はちょっとダメでしたけど、フィールドゴール(52.1%)と3ポイント(41.8%)は超えました。自分では意識してなかったんですけど、その数字に近づいたという部分で、そこを最大の目標にしたいと思っています」

『50-40-90』という個人記録の面での目標を掲げた富樫だが、数字以外の部分では、『プロであること』を意識したいと語った。

「プロである以上、お客さんあってのものだと本当に思っているので、優勝というのはもちろんのこと、それ以上を与えたいです。1試合1試合、ホームかアウェーかに関係なく、見て来てくれる人たちにどういう印象、どういう影響を与えられるかがすごく大事だと思っています」

とりわけ、子供たちに対する思いは強い。「その中でも小中学生とか、それより下もそうですけど、たくさんの子供たちが見に来てくれている中で、『こういう選手になりたい』と思ってもらいたい気持ちが強いです」

小さい選手が大きい選手を打ち負かす構図は得てして痛快だ。167cmの富樫は「この身長で、良い意味でも悪い意味でも目立つと自覚してやっている」と言う。そんな富樫が持ち前のスピードでディフェンスを切り裂き、外国籍選手のブロックをフローターでかわす姿は、子供たちにとってヒーローそのものだろう。

富樫勇樹

「影響を与えているうれしさ」が富樫を突き動かす力に

それでも富樫は、派手なプレーはもちろん、それ以外のプレーでも『すごい』と思わせることが大事と説いた。

「一個一個の派手なプレーというよりは、試合を通して『この人は存在感がある』と思わせたいです。スタッツに残る残らないに関係なく、試合によってはルーズボールもそうだし、いろいろなところで大事な場面があると思うんです。その中でたとえシュートが入らないにしても、すごかったと思ってもらえたり、いろいな面で思ってもらえるところはあると思うので」

こうした子供たちへの思いは、Bリーグが開幕し、観客動員数が増え続け、お客さんの声をより近くに感じる中で強くなったという。「観客数が増えたのもそうですし、SNSでもそうですし、手紙だったり。見に来てくれる人たちのそういう言葉が増えた分、それくらい影響を与えられているんだといううれしさから、意識するようになりました」

「どこへ行っても『小っちゃ』って見られるので」と話す富樫だが、その表情にはどこか余裕が感じられる。バスケットを生業にする以上、身長がハンデになることは多い。それでも子供たちに夢を与える富樫にとって、それは誇れる個性なのかもしれない。