高島紳司

昨シーズン、宇都宮ブレックスは4812敗とリーグ首位の成績を挙げて、勢いそのままに3度目のチャンピオンシップ制覇を成し遂げた。さらに『バスケットボール チャンピオンズリーグ アジア2025(BCL Asia 2025)』でも優勝に輝き、アジア1位のクラブとなった。セカンドユニットのウイングを担い、大きな成長を見せた高島紳司に昨シーズンの振り返りと新シーズンの展望を聞いた。

突然の指揮官との別れ「バスケに向き合えるメンタルではなかった」

──昨シーズンの振り返りをお願いします。

目標にしていた優勝で終われましたし、その過程でも着実に勝ちを積み重ねることができたので、良いシーズンでした。前のシーズンが悔しい終わり方だったので、それをモチベーションにして臨めました。

──2023-24シーズンも最高勝率でチャンピオンシップに臨みましたが、クォーターファイナルで惜しくも千葉ジェッツに敗れました。昨シーズンは何が変わったと思いますか?

シーズンが始まる前に、ケビン(・ブラスウェル前ヘッドコーチ)が千葉Jに負けた試合映像を全員に見せて、負けた理由を明確にしてくれました。「こういうところを修正していかないと目指しているところに行けないよ」と、シーズンが進んでも口酸っぱく言われましたし、「良い習慣を身につけよう」とも言われました。それがチームに浸透して、選手からも自然と言葉として出ていたので、みんなで突き詰めてやっていけたことが大きかったと思います。

──シーズン途中に倒れ、急逝したブラスウェル前ヘッドコーチのことを乗り越えるのは簡単でなかったと想像します。高島選手はどのような心境でプレーしていましたか?

ケビンが倒れたのは、オールスターブレイク明けの初戦、琉球ゴールデンキングス戦の前でした。琉球には(前年まで宇都宮をコーチングしていた)佐々宜央さんがいるので、ケビンも練習からすごい気持ちが入ってると感じていました。ケビンが倒れたという知らせを聞いた時には、思考が停止してしまいました。いつも明るいチームメートたちも全員気持ちが沈んでいました。でも次の週には試合があって……。本当にバスケができるメンタルではなかったです。

アシスタントだったジーコ(・コロネル)がヘッドコーチ代行をやると聞いたときは、彼にヘッドコーチの経験があるかもどうかも知らなかったので「どうなるか分からない」というのが正直な気持ちでした。リーグが再開し、ジーコの振る舞いなどを見て不安はなくなりましたが、頭の片隅にはずっと「ケビンはどうなるのか?」という思いがありましたし、今思えば「絶対に戻ってこられるだろう」と甘く考えていました。

容態は変わらずよくないと聞いていた中で、急に亡くなったというしらせが来て、今まで経験したことがない感情になりました。「本当にやっていていいのか?」とバスケに向き合えるメンタルではなかったので、きつかったです。

──そこから成績を落とすことなく優勝までたどり着きました。どのように困難を乗り越えましたか?

個人ではどうしていいかわかりませんでしたが、チームみんなで乗り越えようとなれたのが大きいかったです。倒れた時も亡くなった時もずっと「ケビンのために」とみんなで言い合いながらやってきましたし、そういう思いがスタッフを含めチーム全体で強くなっていきました。いい出来事ではなかったですが、ケビンのことをきっかけにチームがさらに一丸となれました。

高島紳司

「いろいろなタイプの選手とマッチアップできて楽しかった」

──高島選手個人のパフォーマンスに目を向けると、インパクトや貢献度の大きいシーズンでした。チャンピオンシップでもローテーション入りして、手応えを感じたと想像しています。

もともと「自分が出たことで追いつかれたら……」「自分のシュートが外れて逆転されたら……」とネガティブに考えてしまうタイプだったので、 序盤は自分で自分のパフォーマンスを悪くすることがありました。でも田臥勇太選手が試合中に「あまり考えずにやったほうがいい」と言ってくれたことをきっかけに「ネガティブなことを考えても仕方がないな」と思えるようになりました。1人でやってるわけではないですし、チームとして戦っているので、チームメートに助けてもらえばいい、という気持ちになれました。そこに気づけたのは今までにない感触でしたね。

──印象的だったのが、チャンピオンシップ初戦のシーホース三河戦。最終クォーターで追い上げを受けた場面で連続3ポイントシュートを沈め、その後のディフェンスでも相手のターンオーバーを誘発し、勝利に貢献しました。クラッチタイムでも起用されることが多くなりましたね。

今までは、接戦になると弱気な自分が出てきて「コートに立ちたくない」と思うこともありました。でも中盤以降は「自分が出て変えてやろう」と思うようになりました。結果的にできる・できないは別として、その感情になったことは今までなかったので、成長した部分かなと。以前はまったくなかったことですが、接戦や劣勢の状況を心の中でどこか楽しんでる自分もいました。

──リバウンドの意識も高まって、ボールにからんでいく場面も増えたと思います。そういう姿勢もメンタル的な成長からきていますか?

それこそ前のシーズンに負けた要因の1つとして、リバウンドが挙げられていました。外国籍選手だけに頼らずに、自分も飛び込んでいけばチームの助けになるので、行けるところは全部行きたいなと思っていました。チームとしてもその意識は高かったですが、まずは自分が一番に体現して、チームのためになればという思いでした。

──メンタルとリバウンド以外に、自身で成長できたと感じることはありますか?

ディフェンスは、マッチアップする相手によって守り方を変えることができました。スピードのある選手にプレッシャーをかけて抜かれたら意味がないので、なるべくドライブされないようにするとか。シュートが得意でない選手には間合いをとって周りの選手を助けるとか。自分なりに考えながらできたシーズンでした。

──相手の起点になる選手や、エースとマッチアップするなど、責任が大きい役割を任されていましたね。

シーズンが終わってみて、いろいろなタイプの選手とマッチアップできたのは楽しかったですね。BCL Asia 2025はBリーグにはいないタイプの選手も多くて、国を代表する選手とマッチアップできたのは良い経験になりました。