横田陽

文=鈴木健一郎 写真=レバンガ北海道

9月6日未明に起きた北海道胆振東部地震の影響により、レバンガ北海道はアーリーカップへの出場を見合わせた。幸いにもチーム、スタッフともに全員が無事で、8日にはカレーの炊き出しを行い、9日にはバナナを配布するなど、震災直後のホームタウンで自分たちにできる活動を行っている。炊き出しにはヘッドコーチのジョゼ・ネト、選手兼クラブ代表の折茂武彦を始めほとんどの選手が参加した。横田陽CEOに、今回のクラブの動きと地域への向き合いについて語ってもらった。

「我々以上に困っている人たちにアクションを起こす」

──9月6日は未明の地震発生から、どのような一日となりましたか?

私は札幌市内の自宅にいました。地震発生からしばらくして電気が止まって、テレビが見れないので被害の状況がなかなか分かりませんでした。早朝にチームとフロントの無事が確認できたので、まずそれをツイートしました。社員には自宅待機を指示して、私は会社の被害状況を確認しに行きました。そのうちに社員が何人か、折茂(武彦)も会社に来たので、この状況で何ができるかを確認しました。停電の影響や電波状況が悪い中、必要情報がなかなか集まらない部分もありましたが、Bリーグやチームスタッフと連絡を取りながら、翌日に会場の長野へ移動予定だったEARLY CUP 2018 HOKUSHINETSUへの参加について検討を重ねていました。

チームは全員無事だったのですが、ヘッドコーチは来日したばかりで、ブラジルにはあまり地震がないこともあり不安がっていました。そもそも地震が起きた時にどう対応すべきかの基本的な知識がなかったんです。それで通訳が電話で、家の中にいてください、でもドアは開けておいてください、などと教えて。

家族持ちのスタッフの奥さんがおにぎりを作ってくれて、それを独身の選手のところに配りに行ったり、「ここに来ればお風呂に入れるよ」、「水が足りなければ持っていくよ」とスマホでやり取りしながら、アシスタントコーチとトレーナーが選手たちの家を回ってくれました。

──9月8日にはカレーの炊き出しを実施しています。自分たちも被災している中でこのスピード感で行動ができたのは驚きです。どういう意思決定があったのですか?

練習をすることができないので、クラブとして何をすべきかを考えました。それは我々以上に困っている人たちにアクションを起こすべきだということです。道庁や市役所、自衛隊に打診したのですが、それぞれ自分たちのことで手一杯ですから、自分たちでアクションを起こすことにしました。メインスポンサーであるイーグルグループさんが、すでに店内の景品を地域の方々に配布されていたので、私たちにもお手伝いさせてください、と打診したんです。

そうしたらイーグルさんの社長が、すぐに動いてくださいました。イーグルさんはパチンコホールの店内にある食堂に依頼してカレーを仕込んで、すべての準備を整えてくれたんです。そのおかげで、翌日の8日に炊き出しを実施することができました。自分たちは炊き出しをやろうにも材料もなければ調理器具も持っていません。選手たちは重い荷物を運び、集まってくれた方々にカレーを振る舞いましたが、自分たちも被災している状況ですべての準備を整えてくれたイーグルさんには本当に感謝しています。

──炊き出しを行うことに対する選手たちの反応はどうでしたか?

選手たちからも「何か自分たちにできることはないですか」と言ってくれていました。自分たち自身も被災しているわけで、選手たちには「自分たちも大変だろうから、動ける人だけでいいよ」と伝えてあったのですが、ケガ人も含めてほぼ全員が炊き出しに参加してくれました。

我々は「北海道に明日の『ガンバレ』を」というスローガンで活動していますが、ガンバレを届けるのはバスケットボールだけじゃないと常々伝えています。クリニックだったりイベントだったり、いろんなところで人々に感動を与えて「明日も頑張ろう」という活力を提供できればと思っています。だからこそ、こんな有事の際に選手や社員たちが自発的に行動してくれたことは本当にありがたいですし、誇りに思います。

今回の炊き出しはクラブから事前の告知をしませんでした。報道関係の皆さまにはご案内を出したので、『バスケット・カウント』さんには事前告知していただきましたが、その結果、来てくれた方の多くは温かい食事が食べられない被災者の方でした。ファンの方も震災の当事者だし、選手から元気をもらいたかったと思いますが、あとでツイートなどを見ると、ファンの方々の多くは「選手に会いたいけど、本当に食べてもらいたい人のために」と自粛してくれていたという意見を多数目にしました。頭が下がる想いと共に、素晴らしいブースターにはあらためて感謝の気持ちでいます。

レバンガ北海道

「炊き出しをするとなれば選手が駆け付ける関係性」

──もともと北海道という地に根を張って活動していく上で、クラブとして地域との向き合いをどのように考えていましたか?

折茂がこのクラブを立ち上げたのは、北海道からプロバスケットボールチームがなくなるという危機があったからです。ちょうど東日本大震災が起きた年でした。震災の影響でリーグがシーズン途中で終わって、もともと予定していたスポンサーさんの話も立ち消えになってしまい、折茂がやるしかなかったと聞いています。なぜ北海道に縁もゆかりもない折茂が借金を背負ってまで立ち上げたかと言うと、北海道が初めて自分をプロ選手として扱ってくれたからで、どこに行っても「折茂さん、頑張って」と声をかけてくれる。会場にたくさんのお客さんがいて応援してくれる。そんな雰囲気の中でバスケットをさせてくれた北海道に恩返しをしたい、と。だから折茂は自分の会社だとは思っていなくて、ファンに育ててもらったという意識から「皆さんのクラブです」と言うんだと思いまです。

地域活動は当たり前のことしかやっていないかもしれませんが、私たちは札幌ではなく北海道すべてをホームタウンだと思ってやっています。オフシーズンになると全道くまなくバスケ教室やイベント活動を行って、年間3000人程度の子供たちに教えています。「地域のために」とどこまで言えるか分かりませんが、そこで地域の人たちに選手たちが直接会って交流をしたり、地域への貢献活動を通して楽しんでもらっています。

私はシーズン中であろうと、チームにいろんな活動をお願いします。チームもスケジュールがあるので、時にはぶつかることもありますが、お互いプロとして仕事をしているので、それは議論であり、コミュニケーションだと思っています。ただ明らかに変わったなと思ったのは、昨シーズンになって成果が目に見えて出てきたことです。チームが活動した結果として、お客様が増えたリアルな実感を得られたことはとても大きかったと思います。そうなると新しい変化があって、選手たちが試合に負けると「こんなにお客さんを入れてくれたのに、勝てなくてすみません」と社員に言うんです。逆に5000人を集めるプロジェクトで選手に協力してもらったのに目標に届かなかったとなると、今度は社員が「私たちが5000人を入れていたら勝てたかもしれなかった」と頭を下げるんです。

「客を入れないから勝てない」、「勝てないから客が入らない」というのはよくある話ですよね。でも、そういう負のスパイラルはなくなりました。チーム・フロントお互いが信頼し、リスペクトしあえる関係になっているからだと思います。フロントもチームの勝ち負けに左右されない運営をしなきゃいけない、という考えが浸透しています。そういう関係性が出来上がったから、クラブが炊き出しをするとなったら選手がみんな駆け付けてくれるんだと思います。

レバンガ北海道

「スポーツをするに値する人間になる」ことの大切さ

──この夏はバスケ界に不祥事が相次ぎ、バスケットボール選手のプロフェッショナリズムが問われています。これについてはどう考えますか?

昨シーズン、自分たちも外国籍選手が大麻で逮捕されたこともあり、偉そうなことを言える立場ではありませんが、何か問題が起きた時、罪を犯した選手個人の問題として捉えるのではなく、管理者であるクラブとしても管理責任を負わなければいけない、クラブとしての重要な問題と捉えなければいけないと考えています。今後こういったことが起きないよう、必要に応じて様々な分野の有識者の方をお招きして、選手たちと一緒に自分自身も知識を得られる機会を作るようにしています。

以前スポーツマネージメントについて学んだ際に、印象に残る言葉がありました。『スポーツマン』という意味は、国語辞典には「運動に秀でた人」とありますが、英英辞典では「Good fellow」、つまり「良い仲間」と書かれていると。スポーツマンとはスポーツだけをやっていればいいんじゃない、人格も備わっていなければいけない、と。

例えば、ある競技のプロとなった選手が、これまでの教育の中でスポーツが上手だとそのほかのことは目をつぶってもらえるとか、それ以外のことは多少優遇されるような環境で育ったのであれば改善しなければいけないと思いますし、人間力を同時に高めていかなければスポーツマンであるとは言えないと思います。「スポーツをするに値する人間になる」には、そのための教育が必要で、それには経営サイドの努力も必要。100回言ってダメなら101回言わなきゃいけない。それを怠ることは怠慢であると自分に言い聞かせています。

Bリーグになって毎年1回、新人研修をやるようになりました。素晴らしいことだと思います。ですが、手段の目的化になっていないか。これからプロ選手になるにあたって必要なことを学び、実践に活かしていくことが目的であって、年に1回研修をやることが目的じゃありません。研修自体を各クラブがどう捉え、その後どう活かすかが大事で、1泊2日でできることには限りがあるので、やること自体が目的になるとリーグの思い描いている部分は達成できなくなります。レバンガでは、自らが学び、腹落ちしないと選手に伝えられないと思ったので、私もGMも研修を受けました。

──地域活動にも震災復興にも終わりがありません。レバンガ北海道として、今後どんな関わり方をしていきたいですか?

一番は風化させないことです。自分たちを含め、生活に何ら支障がなくなった際に、決してそれが当たり前ではないということや、まだ復興途中にある地域があることを常に忘れずにいたいと思います。我々の支援活動は今回がスタートですが、ゴールは自分たちで設定するものではないと思います。復興支援にしてもどんな活動をするのか、その時々のベストを考えて実行していきたいです。「今、自分たちに何ができるか」を、今後もずっと継続して考えていきます。

最後に、今回の震災において、Bリーグをはじめ、各クラブの皆様には、アーリーカップの直前での欠場という判断をさせていただき、ご迷惑をおかけしてしまいましたが、励ましの言葉や、各地での募金活動、会場内でのエールなど多大なご協力をいただきました。この場を借りて感謝申し上げますとともに、レバンガ北海道の試合を楽しみにしてくれていたブースターの皆様をはじめ、Bリーグへいつもご声援いただいているバスケットボールを愛する全ての皆様に関しましても、各会場での募金を始め、多大なご支援、ご声援を賜り、併せて感謝申し上げます。早く皆様に元気な姿を見せられるよう、クラブ一丸となって今後も取り組んでまいります。

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