宮崎早織

吉田亜沙美、藤岡麻菜美、本橋菜子と女子日本代表のアジアカップ制覇は、司令塔の活躍によって紡がれてきた。その流れは5連覇を達成した今回のチームでも継続された。宮崎早織は大会通算で11.6得点、9.6アシスト、4.0リバウンドを記録。決勝の中国戦では26得点11アシスト7リバウンドと試合を支配してチームを優勝へと導くと、当然のように大会ベスト5に選出された。東京オリンピック出場からの今回の大暴れと、急上昇で進化を続けている。そんな宮崎にオリンピックとアジアカップの総括、そして来たるべきWリーグへの意気込みを聞いた。

「コートの上で楽しめたのが結果に繋がった」

――アジアカップの優勝おめでとうございます。大会を振り返る前に、そもそも東京オリンピックまで心身ともにタフな数カ月を過ごした後で休みたい思いはなかったですか。

すごくありましたけど、恩塚(亨ヘッドコーチ)さんの話を聞いた時に最初に出た自分の言葉が「やります」でした。それにオリンピックは本当に悔しい思いが強かったこともあります。自分が自信を持ってコートの上で楽しくできなかった思いがありました。試合に出してもらった限られた時間の中で、自分のパフォーマンスが100%出せたなかったことが悔しかったです。

――5連覇を目指すチームで、自分がメインの司令塔を務めることに重圧はありましたか。

「メンバーが若手で不安」というのは一切なかったです。メインでできることでうれしいとか、「やってやるぞ」という気持ちよりは楽しんでこようという感じでした。大会では変な緊張や怖さはなく、コートの上で楽しめたのが結果に繋がったと思います。

──タフな試合が続く中でも楽しめたのは、何故でしょう。

やっぱり自分に余裕がありました。オリンピックの時はどうしようとか、どこにパスを出そうかという意識が強かったのが、今回のアジアカップは自分の直感を信じてプレーできました。余計なことを考えずにできたのが良かったです。

──決勝の中国戦はいつも以上に自らアタックを仕掛け、それが27得点の大活躍に繋がりました。どんな考えでプレーしていましたか。

決勝では林(咲希)さん、(赤穂)ひまわりがすごくマークされていて、その分私のところで自由にやらせてもらいました。完全にノーマークだったなと思っているんですけど、そのおかげで自由にやらせてもらえたので、ありがとうございますと思っています。それに今回の中国のメンバーには、ジャカルタで行われた3年前のアジア大会で負けているので、あの時とは違うぞという気持ちでプレーしました。

──今年のオフシーズンは東京オリンピック、アジアカップと立て続けにあって今までにない濃厚な夏でした。

苦しすぎて、まず夏の思い出は一切ないですね。語弊がありますが、いつもならオフシーズンの時期は自由に過ごしていてバスケットから離れています。こんなに自分がバスケットをずっとやっているっていうのが不思議で仕方ないですし、アジア大会が終わった直後は、Wリーグの開幕とか考えられませんでした。

──アジアカップを終えて帰国し、隔離期間中はどんな気持ちで過ごしていますか。

まず、インスタグラムとかTikTokでおススメの旅行先を見て「あー行きたいな」って思いながら、「無理だよな」って考えて落ち込みます。美味しいご飯屋さんをインスタとかいろいろと調べて「食べに行きたいな。でもリーグが始まるし食べにいけないな。残念だな」となって、結局落ち込んで終わるっていう……(笑)。

──バスケットボールに関する思い出については……。

一番はオリンピックのアメリカ戦で思いっきりブロックされたことです。本当にそれに尽きますね。あのブロックをかわしてシュートを打ちたい。オリンピックの最後、アメリカ戦でダブルクラッチを外しているので、あれを決めていたらという思いが強いです。身長が高い選手を相手にどう戦っていくのかが、これから必要なことで、もっと頭を使って長身の選手とどう戦っていくのかが課題です。

宮崎早織

「私を抑えに来る、そんな存在になっていきたいです」

──来年にはワールドカップ、そして翌年にはパリオリンピックが続きます。今回のアジアカップで結果を残したことで、代表への思いに変化は生まれましたか。

特別にはないですね。代表を目標に頑張っているというより、まずは自チームで活躍した上で代表に選んでもらえる考えがずっとあります。そこについては、これからも変わらないのかなと思います。恩塚さんがまた代表に選んでくださったらうれしいですが、まずは自チームで活躍することが一番の目標です。そこは変わらないですね。

──同じポイントガードの町田瑠唯選手、本橋菜子選手は意識していますか?

全く2人と比べることはなく、自分のやるべきことをこれからも頑張っていきたいです。2人の良いところをもっと吸収して自分のモノにしていきたいなと思っています。2人の先輩が結果を残したり、頑張ってくれればくれるほど自分のモチベーションも上がるので。それに町田さんや本橋さん以外にも永田(萌絵)、山本(麻衣)、平末(明日香)と自分より下の世代からも出てきているので、私も負けてられないです。ただ、他人と比べるというより、自分がこれから成長していくために何が必要かを一つずつ分析し直して頑張っていきたいと思います。

──他の選手と比べないとはいえ、復帰すれば代表でも中心となるであろう渡嘉敷来夢選手とのコンビネーションは自分が一番という自負はありますか?

その思いはありますね、今まで7年間、一緒にタクさん(渡嘉敷来夢)とやらせていただいてリュウ(吉田亜沙美)さんとのコンビネーションを見てきました。他の代表メンバーよりは長くやらせていただいているので、やっぱり一緒にコートに立った時はどのガードよりもタクさんに良いパスを出していきたいですし、どんなパスでも取ってもらえたらうれしいです。

──昨シーズンの活躍で、今シーズンは渡嘉敷選手、岡本彩也花選手、林選手と共に宮崎選手はENEOSの中心と見られています。そこは自分でも意識しますか。

そこはあまり考えずに自由にやりたいですが、でも結局試合を決めるのはガードだと思っているので、本当にポイントガードとしてENEOSが優勝できるように自分は努力していかないといけないです。

私自身、まだ若手な感じがしますが、いろいろな人からはメインの選手と言ってもらえます。その辺の認識の差はありますが、それは自分が今まで頑張ってきた結果だと思うのでうれしいです。ただ、もっとメインの選手に近づいていきたいですし、「やっぱり宮崎がいないと勝てないよね」と言ってもらえたらなおうれしいです。

──ENEOSに入って出番が少ない時期もありましたが、昨シーズンはその我慢が実って才能開花となったのか。それとも、これは始まりにすぎないなど、どのように考えていますか?

まだまだ始まりにすぎないと思っていますね。あの7年間は私に必要だった期間で、本当にいろいろな選手の良い部分をすごく吸収できた7年間だと思っています。自分がこんなにメインで頑張れるようになって良かった気持ちだけでなく、もっとこれからレベルアップしていきたい。いろいろなチームが私を抑えに来る、そんな存在になっていきたいです。

──あらためて世界との対戦を経て、自分の長所や課題はどこにあると思いますか?

シュート力、スピードに関しては手応えを感じてはいますが、スピードで抜いてもコンタクトしてきたり最後までブロックしてきたりと、Wリーグでは経験できない部分をオリンピックでは味わえました。フィニッシュまでどうやって工夫してやれるかというのが今後の自分の課題で、スピードで抜いても緩急をつけながら上手く相手とコンタクトを取ってファウルをもらったり、フィニッシュを上手くなりたいです。

宮崎早織

「もっと多くの人に私の魅力やWリーグの魅力を伝えて行けたら」

──オリンピックの影響で、女子バスケは今、かつてない注目を集めています。よりファンの皆さんに楽しみを提供する部分に対してはどのように捉えていますか?

テレビに呼んでいただけるのが一番うれしいことですが、そこは(馬瓜)エブリンとリツ(髙田真希)さんに取られてしまっているので、インスタライブだったりSNSを通じてバスケットをしている姿だけでなく、服が好きだったりとか他の趣味もあることを分かっていただけたら、もっと興味を持ってくださる人が増えるんじゃないか。SNSを通してもっと多くの人に私の魅力やWリーグの魅力を伝えて行けたらいいなと思っています。

──『INSIDE AKATSUKI』の様子も話題になりました。そこはインパクトを残さないといけないというプレッシャーはありましたか。

全くないですね。「また出ちゃっていいんですか?」みたいな感覚で私と三好(南穂)さんに関してはやっていたので、楽しませていただきました。特に何も考えなくて面白いのが出ているので本当に良かったです。もっと出させてくださいと思っていますが、やっぱり三好さんがいないとお互いの良さが出ないので、今後も三好さんには期待したいです。

──ENEOSには、三好選手のような相棒はいますか。

石原(愛子)さんがいましたが、昨シーズン終了後に引退してしまったので、これから新しい相棒を探そうかなと思っています。

──最後に改めてオリンピック、アジアカップの振り返り、そしてWリーグ開幕に向けて意気込みをお願いします。

オリンピックは良い結果でしたが、個人的には本当に悔しい経験でした。その後にアジアカップがあって、恩塚さんが呼んでくれたおかげで自分の良さがすごく出せました。優勝できたことはうれしく自信に繋がったので、それを生かして今シーズンの新しいENEOSでWリーグに臨んで結果を残したいです。個人的にも「宮崎は去年より、レベルアップしたよね」と思ってもらえる姿をお客さん、ファンの皆さんにお見せできたらいいです。

ENEOSは今まで負けなしだったのが、私がポイントガードになった昨シーズンに優勝を逃しました。今シーズンは私がポイントガードでも優勝できることを証明したい。「やっぱりENEOSは強いよね」と多くの人に知ってもらいたいですし、そのための準備はもうできています。