『現代バスケの完成形』と呼ぶに相応しい美しさと、脆さ
タフなスケジュールによる影響があったとはいえ、西カンファレンスの首位に立ったジャズの戦術は『現代バスケの完成形』と呼ぶに相応しい鮮やかなものでした。各ポジションの役割分担が明確にされ、個人のスペシャルな輝きに頼ることなく、美しいまでの連携によってチームは躍動しました。『リーグ最強のチーム』に相応しい内容でしたが、それはあくまでもシーズンの話であり、プレーオフでは「完成され過ぎていた」ことに問題がありました。
ボーヤン・ボグダノビッチを中心としたリーグ最多のコーナースリーに、ルディ・ゴベアへの華麗な合わせでイージーに決めていくゴール下、それを生み出すためのマイク・コンリーとロイス・オニール、そしてジョー・イングルスによる華麗なパッシング、そしてドノバン・ミッチェルとジョーダン・クラークソンによる時に強引にでも決めきるシュート力がミックスされ、どこから止めれば良いのか分からない美しいオフェンスを展開しました。
しかし、何事も行き過ぎるのは良くありません。あまりに完成度が高くなったジャズのバスケには余白がなく、主力1人をケガで欠くと影響が強く出てしまいました。ミッチェルがいなかったプレーオフ初戦でグリズリーズに敗れただけでなく、コンリーが離脱したクリッパーズとのシリーズでは、ロブパスの減少がゴベアの脅威を極端に薄れさせました。
ディフェンスでは最強のリムプリテクターであるゴベアの優位性を生かし、マンツーでアウトサイドにプレッシャーをかけ、ドライブをゴベアへと誘導させていきました。個人の戦いで苦労することはあっても、チームディフェンスそのものを崩すのは難しい形を作り上げました。
しかし、ゴベアをアウトサイドに引き出された時に弱みを見せる守り方でもあり、プレーオフでは毎シーズン弱点として利用され、特に昨シーズンはオフェンスでも脅威が減っていたため、クリッパーズは迷うことなくスモールラインナップを採用することが出来たのです。この4年間のプレーオフは、オフェンスは苦しくなってもミッチェルがスーパーエースぶりを発揮して問題を片付けてきましたが、守りきれずに敗退を繰り返しています。
これらの結果に対して、今オフのジャズは万能ビッグマンのデリック・フェイバーズを放出し、ゴベアと似たタイプのハッサン・ホワイトサイドを獲得しており、弱点を補うよりもさらに明確にした印象があります。これまでいなかったパワーフォワードタイプのウイングにエリック・パスカルとルディ・ゲイを加えたため、多少の変化は生まれそうですが、チームを劇的に変えるような試みにはなっていません。
優勝のためには完璧であるよりも『柔軟に対応できること』の方が重要であり、そのためにシーズン中には様々な形を試していく必要があります。おそらくジャズは新シーズンも好成績を残すでしょう。2年連続で西カンファレンスの首位に立つ可能性も高く、充実したシーズンを送りそうですが、充実すればするだけプレーオフの不安が大きくなる、そんな難しさを抱えたチームでもあります。