「2年前よりは戦えたが、1勝には手が届かなかった」を繰り返さないために
5人制バスケットボールの男子日本代表は、東京オリンピックでスペイン、スロベニア、アルゼンチンと世界の強豪国に3連敗を喫し、2019年のワールドカップに続いて『世界での1勝』を手にすることはできなかった。5人制女子が銀メダルを獲得し、3人制では男女の代表が決勝トーナメントへと進出。現在は東京パラリンピックでも日本代表は世界を相手に素晴らしい戦いを繰り広げている。これに対し、5人制の男子日本代表だけが見せ場を作ることなく自国開催のオリンピックを終えた。
3連敗という結果以上に、NBAで活躍する八村塁と渡邊雄太を擁しながら、彼らの実力をチームに組み込むことができず、個の力だけで戦った内容の乏しさは悔しいものだ。オリンピックで結果を出したチームはどこも、日本以上のタレント力を持っていただけではなく、チームとしての練度も上だった。
例えばスロベニアはルカ・ドンチッチというNBAの若手ではトップのタレントを擁しながら、世界最終予選があったことでチーム作りに時間を割き、本気でメダルを狙いに来ていた。八村が大会前のテストマッチの多くをパスし、ギリギリでチームに合流した日本代表とは『本気度』の差があったと認めざるを得ない。
しかし、一足飛びにレベルアップできるほど甘いものではない。『世界』を相手に手も足も出なかった2019年と比べれば、コロナ禍でチーム強化がままならない中でも確実に前進していることは見て取れた。それでもなお、課題に向き合ってチームの成長速度をさらに上げなければ、2023年のワールドカップでも「2年前よりは戦えたが、1勝には手が届かなかった」という結果になりかねない。
ワールドカップは3カ国共催で、その中には日本も入っている。昨年秋に完成した沖縄アリーナがその舞台だ。次回もホームコートアドバンテージを得られるが、これは当たり前のことではない。2023年で大きな飛躍を果たせなければ、男子日本代表の歩みは4年、8年のレベルで遅れを取ると考えるべきだ。
八村と渡邊、馬場雄大の『海外組』をチームに上手く組み込めなかった
今回のオリンピックでの最大の問題は、八村と渡邊、馬場雄大の『海外組』をチームに上手く組み込めなかったことだ。Bリーグでプレーする『国内組』が長い強化合宿の中で高めたケミストリーは、『海外組』が最後に合流してチームの核となると生かせなくなる。NBA選手は自分たちに高額なサラリーを支払うNBAチームのスケジュールに縛られ、そう簡単には自国の代表でプレーできない。とはいえ『海外組』の実力を考えれば、彼らをメインに据えるのは当然の選択となる。そんなジレンマと上手く折り合いを付けながら、メインとなる大会で結果を出さなければならないのはどの国の代表チームも同じ。普段は『国内組』でチームを作り、NBA選手が合流したところでスタイルをガラリと変える矛盾に向き合っている。
ただ、その矛盾を抱えるからこそ、ワールドカップなりオリンピックなりの『本番』でチームとして最大限のパフォーマンスを発揮する工夫が求められる。今回のフリオ・ラマスのチームは、ただ国内組で練り上げたチームに八村と渡邊を放り込んだようにしか見えなかった。様々な事情はあるにせよ、それでは『世界での1勝』は遠いままだと言わざるを得ない。
スロベニアはドンチッチの才能を最大限に引き出すために、ディフェンスの負担を他が分担し、スペースを広げるために周囲をシューターで固めた。逆にイタリアの場合は、世界最終予選にダニーロ・ガリナーリが参加できず、オリンピック直前の合流になることもあって彼をシックスマンとし、世界最終予選のために練り上げたチームをメインとして戦い、決勝トーナメント進出という結果を出した。どのような形が正解かは分からないが、必死になって正解を模索する2年間が始まる。
フリオ・ラマスが続投するかどうかはさておき、コーチ陣は今度こそ『世界での1勝』を挙げるための日本のスタイルを見いださなければならない。そして選手は国内組か海外組かを問わず、個のレベルアップに引き続き注力する上で、ヘッドコーチが掲げるスタイルへの、高いレベルでの順応が求められる。
女子の日本代表は2016年のリオ五輪の時点でベスト8に進む力があった。この時点では世界どころかアジアでも勝てなかった男子が遅れを取るのは無理もない。来年に順延されたアジアカップ、今秋から6つのウィンドウで開催されるワールドカップ予選と、代表強化の機会はたくさんある。一歩ずつ確実に歩みを進めた2年後にどこまで到達できるか、期待を込めて見守りたい。