ロンゾ「好不調の波はあるだろうけど、勝てるチームになる」
ブルズの名前と赤い雄牛のロゴからは、マイケル・ジョーダンを擁して伝説を作ったチームの威厳が今も感じられる。だが、ブランドに見合ったパフォーマンスも結果も出せていないのがジョーダン引退後のブルズだ。ジョーダン引退後に6シーズン連続でプレーオフ進出を逃した暗黒期ほどではないにせよ、10年前のカンファレンスファイナル進出を最後に、プレーオフで1回戦を勝ち抜いたのは2回だけ、過去5年間のうち4シーズンはプレーオフ進出をも逃している。昨シーズンはプレーイン・トーナメント進出となる10位さえ逃した(31勝41敗、東の11位)。
だが、今オフのフリーエージェント市場では大きく動き、何かが変わりそうな気配がある。ジミー・バトラー放出後はドラフトで有望な若手を集めてきたが、昨シーズンのトレードデッドラインにニコラ・ブーチェビッチを獲得。ここから『勝ちに行く』姿勢を明確に示した。今オフはフリーエージェントの目玉であるロンゾ・ボールとの契約に成功し、デマー・デローザンとアレックス・カルーソも獲得した。
司令塔にロンゾ、ザック・ラビーンとデローザンがウイング、ラウリ・マルカネンがストレッチ4でブーチェビッチがゴール下。マルカネンにはトレードの噂があり、スモールバスケットを志向する可能性もあるが、いずれにしても先発陣を支えるベンチの層の厚さもある。カルーソは先発も任せられる実力の持ち主だし、コービー・ホワイトやパトリック・ウィリアムズはベンチから出て自分のプレーに専念した方が活躍できそうだ。オットー・ポーターJr.やダニエル・ギャフォードといった『逃した魚』は大きいが、その損失を埋めて余りあるチームとなった。
ブルズが過去数年のチームよりはるかに強力になることは間違いない。問題は『どこまで行けるか』だ。NBAの西高東低は最近になって急速に崩れており、東カンファレンスの競争は今までになく熾烈になっている。
『ビッグ3』が開幕から揃うネッツは優勝候補の筆頭であり、優勝チームのバックスは主力の流出をPJ・タッカーのみに留めて連覇を狙うシーズンを迎える。セブンティシクサーズはやや不安定だがジョエル・エンビードがキャリアの最盛期を迎えつつあり、ニックスもホークスも昨シーズンよりさらに伸びそうだ。ヒート、セルティックス、ペイサーズの古豪も力を取り戻す気配で、ウィザーズもブルズと同様に化ける可能性がある。
とあるブックメーカーが出している東カンファレンスの優勝オッズは、ネッツ、バックス、ヒート、シクサーズ、セルティックス、ホークス、ペイサーズ、ニックスと続き、ブルズはラプターズと並んで9番目。82試合のシーズンで予想される勝ちの数は「39.5」と、これだけの補強をしてもなお、まだまだ上位進出は厳しいというのが大方の見方だ。
ブルズは目新しいチームとなったが、新戦力の多さが不安材料となっている。新しいメンバーで新しいスタイルをいかに早く機能させ、シーズンの正念場に向けて磨きを掛けていくか。そのキーマンはやはりポイントガードのロンゾ・ボールとなる。昨シーズンは最もトランジションの少なかったブルズは、ロンゾの舵取りで全く違うスタイルになるだろう。彼自身も、走らないチームを離れ、ブーチェビッチがピック&ロールのパートナーになることで、そのクリエイト能力をより生かせるはずだ。
「僕を一番欲しいと言ってくれたのがブルズだった。僕は自分が評価され、自分のゲームができるチームに行きたかった。ここはその要素を完璧に備えている。バスケをよく知る若い選手が揃うエキサイティングなチームで、未来がある。好不調の波はあるだろうけど、勝てるチームになるよ」とロンゾは新天地での活躍を誓っている。
ディフェンス面でのキーマンとなるのはカルーソだ。2ウェイ契約から信頼を勝ち取り、レイカーズの優勝に貢献したカルーソは、ブルズに来ても主役を演じるのではなく、チームのためにハードワークするスタイルを変えないと宣言している。「僕が目標とするのは勝利だけ。そのメンタリティでプレーすることが、結局は自分のためになってきた。そうしていれば自分が仕事を成し遂げられると思っている」
この戦力を揃えるために指名権の多くを手放したブルズは、この2、3年で大きな成果を出さなければいけない。多彩なタレントが噛み合い、その中で若手の成長が重なれば、プレーオフ進出だけでなく激動の東カンファレンスで上位に食い込むだけのポテンシャルはある。優勝を狙うには決め手を欠く感が否めないが、ヤニス・アデトクンボやケビン・デュラントのようなビッグネームをここからチームに組み込むことはできない。ラビーンなのかデローザンなのか、あるいはサプライズ的なタレントがブレイクスルーを果たすことも求められる。『強いブルズ』を取り戻す挑戦がどのように進展するのか、新シーズンはブルズにも注目だ。