ルイス・スコラ

「そろそろ新しい顔が出てきてもいい頃だ。僕らは去るべき時だよ」

アルゼンチン代表の司令塔、ファクンド・カンパッソはうつむいた顔にタオルを押し当て泣いていた。東京オリンピックの準々決勝でオーストラリアに歯が立たず、第4クォーター残り2分半で下げられた時点でスコアは52-88。このレベルで簡単に勝てるとは思っていなかったにせよ、ここまでやられるのは想定外だった。第4クォーター開始時点で12点差とまだチャンスは残されていたが、そこから5分間で0-19のランを浴びて勝敗は決してしまった。

それでも、この試合で最も感動的なシーンが訪れたのはその後だ。残り1分を切って、ルイス・スコラが御役御免でベンチに下げられた。アルゼンチンの選手とスタッフが拍手で41歳のレジェンドをベンチに迎え入れる。カンパッソもようやく顔を上げた。オーストラリアのベンチでも全員が立ち上がり、スコラの堂々たる戦いぶりを称えて拍手を送った。無観客ではあるが、会場にいるすべての人が彼に拍手を送っている。大きなさいたまスーパーアリーナに、スタンディングオベーションは響き渡った。

試合はたっぷりと中断された。本来であればアルゼンチンのタイムアウトを取るべきだったが、審判も細かいことは言わず、スコラの背中を拍手で見送った。

優勝で締めくくりたかっただろうし、2万人の観客からのスタンディングオベーションがあればもっと良かったのかもしれない。しかし、これはこれで十分すぎるほど感動的なシーンだった。スコラは自身5度目のオリンピックの最後をベンチで、目に涙を浮かべながら迎えた。

スター選手はオフのコンディション管理を優先して代表活動を辞退しがちだが、スコラは常にアルゼンチン代表のために犠牲を払ってきた。フリオ・ラマスの指示で、U19代表の合宿からA代表に合流したのは1999年のこと。2004年のアテネ五輪で金メダル獲得を始め、様々な栄光を勝ち取ってきた。その貢献ぶりを誰もが理解しているからこそのスタンディングオベーションだった。

「チームメートも対戦チームの選手も、審判まで僕に敬意を示してくれた。これ以上ない評価を与えてもらったと感じているよ。あそこにいた全員が敬意と愛情を示してくれて、感情を押さえきれなくなった」とスコラは言う。

明言はしていないが、これでスコラの代表活動は終わりで、現役引退の可能性もある。「負けたのは辛いけど、これが現実だから受け入れなきゃいけない。そろそろ新しい顔が出てきてもいい頃だ。僕らは去るべき時だよ。41歳でプレーしてる選手なんて、他にほとんどいないからね」

カンパッソは試合後に、スコラの写真とともにこんなメッセージをSNSに投稿している。「バスケットボールがあなたにスタンディングオベーションをした。その瞬間に立ち会えたのは幸せでした。キャプテンがいなくなるのは寂しい。あなたと一緒にこの道を歩むことができたのは、信じられない機会でした」