ヤニス・アデトクンボ

ポイントガードのマッチアップでバックスが優位に

サンズの2連勝で始まったファイナルは、ホームに戻ったバックスが連勝でシリーズをタイに戻しました。第3戦はディアンドレ・エイトンがファウルトラブルに苦しみ、これがバックスに勢いを与えました。続く第4戦はそのエイトンが6得点に終わり、サンズがインサイドでイニシアチブを取れない展開になっています。

連敗したバックスは、第2戦までデビン・ブッカーに対してドリュー・ホリデーをマッチアップさせていたものの、スクリーンでマークを剥がされたり、ホリデーがヘルプに出てブッカーをフリーにしてしまうケースが多発していました。そこで第3戦からはマークを変更し、PJ・タッカーがマンマークできっちりとチェイスすることで、第3戦は10得点に抑えました。

しかし、タッカーではそもそもブッカーのクイックネスについて行けず、抜かれないのが精いっぱい。そのため、第4戦はジャンプシュートを多く選択したブッカーがタフなフェイダウェイシュートを決め続けて42得点を挙げています。また、バックスがスイッチに備えてセンターのブルック・ロペスよりもパット・カナートンを長時間起用すると、逆にそのカナートンを狙った1on1で得点を重ねました。

しかし、ブッカーが後半にファウルトラブルでベンチに下がったことでバックスが盛り返します。ここで問題になったのがクリス・ポールがホリデーのディフェンスに苦しみ、ピック&ロールを使ってもエイトンへのパスを通せず、ターンオーバーが続いたことでした。4試合で17ターンオーバーとポールはバックスのディフェンスに苦しんでおり、特に第3戦からはホリデーにマークされてシュートに行く回数が減ってきています。

ファウルトラブルが敗因になった2試合でしたが、それだけでなくサンズオフェンスはバックスのディフェンスを攻略できなくなっています。ボールを奪いに来るホリデーのアグレッシブなディフェンスは、時に前に出すぎて抜かれるリスクがあるものの、36歳のポールがスピードで振り切るのは難しく、その先に待ち構えるヤニス・アデトクンポのカバーディフェンスもあって、エイトンを使ったインサイド攻略ができず、サンズのオフェンスはアウトサイドシュートに頼っています。

第5戦では逆にポールがホリデーからファウルドローを狙っていけばチャンスは広がりそうですが、2試合で1つしかファウルをしていないホリデーをファウルトラブルに追い込むのは困難です。ポイントガードのマッチアップでサンズからオフェンスのリズムが失われています。

https://twitter.com/Bucks/status/1415521214802563072

もっとも、そのそのホリデーもオフェンスではアップダウンが激しく、第3戦で5本決めた3ポイントシュートが第4戦では5本打ってすべて外してしまいました。さらに悪いことに、3ポイントシュートをためらって中途半端にドライブを仕掛けて、バックスのオフェンスがインサイドばかりに固まってしまい、待ち構えたサンズに囲い込まれました。第4戦ではブッカー同様にインサイドで囲まれる前にミドルレンジから決めていくクリス・ミドルトンの40得点で勝利したものの、チグハグなオフェンスは続いています。

しかしバックスはベンチメンバーが出てくるとスペーシングが改善され、オフェンスにリズムが生まれます。意図的にスペーシングしているというよりは、選手の特徴でなんとか広げている印象は否めませんが、インサイドにいるサンズディフェンスの人数が減ればアデトクンポの無双が始めるため、キックアウトからの3ポイントシュートさえ決まれば第5戦以降もバックスオフェンスは機能しそうです。

キーになっているのはカナートンです。守備に回ればサンズに狙われるカナートンですが、4試合すべてで3ポイントシュートを決め、成功率46%と最も安定感のあるシューターです。プレーオフになってドンテ・ディビンチェンゾが離脱し、カナートンに頼るしかない状況で、見事に期待に応えました。特に第4戦はカナートン自身は11得点だったものの、32分に出場しながら得失点差が+21点と、ディフェンスを広げることさえできれば圧倒的な結果を出しています。

第5戦でサンズはカナートンを空けないようにマンマークを強めるのか、これまで通りにアデトクンポを囲むためにインサイドカバーを厚くするのか、ディフェンスを考え直す必要があります。カナートンの3ポイントシュートを優先して止めに行きたいところですが、アデトクンポを止める方法は4試合通して見つかっておらず、さらに最も怖いエイトンのファウルトラブルを考えると、ディフェンスを変更するのは勇気が必要です。

難しいのは17本も奪われたオフェンスリバウンドで、一見するとやはりインサイドを固めたいところですが、このうち8本が3ポイントシュートが外れた際のリバウンドでした。特に両コーナーから飛び込んでくる選手をつかまえられずにリバウンドを奪われており、スペースを埋めるよりも人を押さえる方が重要にも見えてきます。またインサイドに固まりすぎているからか、マイボールになっても速攻が出ず、第4戦は速攻での得点がないまま終わってしまいました。

ビッグラインナップを敷くバックスが高さを意識しすぎるとインサイドのスペースがなくなり、スピードで勝るサンズがゴール下を固めすぎて速攻を出せないという試合展開ですが、それはお互いに長所が違うため『相手の長所を抑えに行く』のか『自分たちの長所を前面に出す』のか、極端にどちらかを優先しても上手くいかずに、バランス感覚の問われるファイナルになっています。

ただ、ここまで西カンファレンスの戦いを運動量で勝ってきたようなサンズが、バックスのハードワークに押され始めているだけに、サンズにとってより苦しい展開になっています。しぶとく接戦に持ち込めるチーム力はさすがですが、アデトクンポの圧力に抗えないところから、他の選手に決められ始めています。第5戦でサンズがどのような手を打ってくるかに注目です。