クリス・ポール

心酔するエイトン「僕の背中を押し、僕の力を最大限に引き出してくれる人」

サンズにとって『バブル』8連勝という昨シーズンの締めくくりは、低迷脱出を予感させるに十分だった。それでもプレーオフ進出を余裕で決め、レギュラーシーズン最後の6試合を残した時点で西カンファレンスの首位争いを演じていると予想できた者がいただろうか。低迷するチームはどこも、ドラフトで良い選手を取るためポテンシャルはあるが、勝ち方を知らない。そんなチームの一つだったサンズを変えたのは、クリス・ポールの加入だ。

昨年11月、トレード解禁日にクリス・ポールの移籍が決まった。ポールとアブデル・ネイダーがサンズへ。サンダーはリッキー・ルビオとケリー・ウーブレイJr.、タイ・ジェローム、ジェイレン・レキュー、そして2022年の1巡目指名権を得る大型トレードである。この時点で35歳というポールの年齢をサンズはネガティブに受け止めることなく、その個性が必要だと考えた。その判断は大正解だった。

6シーズンに渡り、ポールは『ロブ・シティ』と呼ばれた豪華絢爛なタレント集団、クリッパーズの司令塔だった。それでもタイトルには手が届かずにチームは解体され、2017年夏に加入したロケッツ、そして昨シーズンのサンダーでも勝つことはできなかった。ただしロケッツではカンファレンスファイナルまで勝ち進み、ウォリアーズを追い詰めている。そしてサンダーでは、解体に舵を切って若手主体のチームをプレーオフに導いた。

その実力は錆び付いてはいないのだが、彼自身が年齢と様々な経験を重ねたことで『丸くなった』のもプラスに働いている。指揮官のモンティ・ウィリアムズは10年前にニューオリンズ・ホーネッツで一緒だった間柄。コーチとしての成功に燃える38歳のモンティと、まだ25歳だが自分のバスケ哲学を持っていたポールは何度か衝突した過去がある。

ポールの変化についてウィリアムズは「正しいことではなく、チームにプラスなことをするようになった」と語る。それまでのポールは反論の余地のない正論を持ち出し、チームメートに強要する癖があった。それは勝つための彼の正義だが、人間は感情の生き物であり、受け入れたくないものは拒絶する。それがクリッパーズやロケッツでは、周囲から浮く原因となった。

その経験を受けて、サンダーで若手の指南役を務めるにあたり、彼は『丸くなった』。相手が自分の哲学を理解できなければ少し様子を見てからアドバイスする、また相手の主張を聞く辛抱強さを身に着けた。サンダーでチームメートだったシェイ・ギルジャス・アレクサンダーがポールの家に入り浸りになったのは、その結果だろう。時間を惜しまず試合映像を見て次の対戦に備えるポールのルーティーンを、彼は一緒にこなした。「やれ」と言えば反発されたかもしれない。しかしポールは、来る者を受け入れる姿勢で彼らに接した。サンダーはもともと若手を発掘し、成長させるのが上手いチームだが、昨シーズンの成功はポールなくしては考えられない。

サンダーのサム・プレスティGMは「彼はウチへのトレードをなかなか受け入れられなかった。しかし、自分のスピードを取り戻す、若手の成長を助けるという目標設定が一度できれば、あとは全力でやってくれた」と昨シーズンのポールの働きぶりを語る。

そして今、サンズの若手たちはポールのリーダーシップに喜んで従っている。その一番手は22歳のセンター、ディアンドレ・エイトンだ。「何度も怒られているから、一番ひどく怒られたのがいつだか覚えていない」とエイトンは言う。それでも最も印象深いのは初めて一緒に練習した日のことだ。ポールがプレーを止めて、エイトンのジャージーを引っ張りながら「そこじゃなく、ここだ」とポジションと身体の向きを直した。

それからエイトンは毎日のようにポールの叱責を浴びている。しかし「どっちにしても彼のパスを受け損なったら、長い話を聞かなきゃいけない」とエイトンがジョークを飛ばせることは、ポールの変化を示している。当時のクリッパーズやロケッツで、ポールの説教を笑い話にできる選手はいなかった。それでいて、エイトンはポールに心酔している。試合ではポールの動きから一瞬も目を離さず、そうすれば間違えることはないと確信しているのが分かる。「彼は僕の背中を押し、僕の力を最大限に引き出してくれる人だ。いつも僕に必要な言葉をかけてくれる。それは強烈で、チーム内に伝わっていくんだ」

25歳のジェボン・カーターは「24時間365日ずっとしゃべっている人」とポールを評する。「いつだって僕らを導いてくれるけど、第4クォーターは特にそうだ。必要なプレーは彼がコールし、他の選手はそれを受けて動く。彼と一緒にやっていれば何だって簡単になる気がするよ」

デビン・ブッカーとは最初から強固な信頼関係を築いているが、最初はプレーの面で修正すべき課題があった。2人のタイミングが合わず、それをすり合わせるまでにはしばらく時間が必要だった。モンティ・ウィリアムズは「結婚みたいなものだよ」と表現する。「上手く一緒にいるための方法を2人で見つけ出すには、少し時間がかかる。それだけのことだ」

プレーオフを前に、サンズは完成の域に達しつつある。ポールは昨シーズンのサンダー以上に、今のチームに自信を持っているはずだ。レギュラーシーズンとはまた違った経験と戦い方が求められるプレーオフは、ポールの司令塔としての能力がより輝く舞台でもある。サンダーを率いて因縁のロケッツ相手にGAME7まで大いに奮戦した戦いぶりは、昨シーズンのプレーオフ1回戦で最も見応えのあるシリーズだった。そして今回、彼が育て上げたサンズがどんなパフォーマンスを見せるのか、楽しみではならない。