文=鈴木健一郎 写真=Getty Images

王者アメリカを相手に一歩も引かず、乱打戦に持ち込む

リオ五輪の女子バスケットボールは決勝トーナメントへ。「走るバスケット」で予選ラウンドの台風の目になったAKATSUKI FIVEは、王者アメリカと対戦した。

日本代表のスターターはこれまでと同様、吉田亜沙美、本川紗奈生、栗原三佳、渡嘉敷来夢、間宮佑圭。日本は立ち上がりから格上のアメリカに持てる力すべてをぶつける強い意気込みでこの大一番に臨んだ。

ファーストプレーで吉田が長身のブリトニー・グライナーからボールを奪うと、本川が大胆なドライブで1対1を制し、日本が先制点を奪う。序盤から日本はハイテンポなオフェンスを展開し、本川と栗原の3ポイントシュートも決まって快調に得点を重ねていく。だがアメリカも打ち合いに乗り、高確率でシュートを決めて追いつ追われつの流れに。

本川が再び強引なドライブから得点をもぎ取り、吉田から間宮のハイローが決まり、渡嘉敷がタフシュートを沈める。だがアメリカはそれ以上にハイペース。3ポイントシュートでは好調の日本と同じ精度を保ち、オフェンスリバウンドを拾ってのセカンドチャンス、サードチャンスを得点につなげることで日本をじわじわと引き離す。

23-30でスタートした第2ピリオド、ドリブルで仕掛けると見せ掛けた渡嘉敷のパスをフリーで受けた栗原の3ポイントシュートで日本がさらに勢いを増すかと思われたが、吉田と渡嘉敷がベンチに下がって不在になると連続失点を喫してしまい、28-40と逆に突き放されてしまう。

ここでベンチから戻った吉田が、スティールからそのまま速攻を仕掛ける。レイアップは相手のファウルで止められ、吉田はそのままゴール裏まで吹き飛ばされるも、気迫に満ちたプレーは味方の士気を呼び覚まし、アメリカに傾きかけた試合の流れを引き戻した。

ここまでシュートに苦労していた間宮が2連続得点を挙げ、栗原が普段のキャッチ&シュートではなくバックステップで自らフリーを作り3ポイントシュートを決めると、吉田が正面からの3ポイントシュートをねじ込んで42-46と肉薄。

その後も本川のアシスト、吉田のアシストを受けた渡嘉敷が2本のシュートを決めて46-48とついにワンポゼッション差に迫るも、追い詰められたアメリカがここから真価を発揮。最後の1分半で8-0のランを決められ、46-56と10点差で前半を終えた。

価値ある先制点を筆頭に、この試合でも本川は臆することなく敵陣に切り込み、オフェンスを引っ張った。

日本の持ち味「走るバスケット」をアメリカが展開

後半の立ち上がりは両者ディフェンス合戦という我慢の展開。本川が速攻から体勢を崩しながらのレイアップを決め、続くプレーでもフック気味のレイアップを沈める。ところがその後の3分間は得点が決まらず。その間にアメリカの3ポイントシュート攻勢で突き放されてしまう。

第3ピリオド残り4分15秒、ディアナ・トーラシにジャンプシュートを決められ51-70と点差を広げられたところでタイムアウトを取るも、アメリカに傾いた流れを止めることができない。ピック&ロールで有利な状況を作っても、最後の1対1を決められず。前半はタフショットをことごとく沈めてきた渡嘉敷も、さすがに試合を通じて決め続けることはできない。

終盤になってアメリカのチームファウルが5つに達し、渡嘉敷が2本のフリースローを決めてようやく反撃の足掛かりを作る。髙田真希の緩急を生かしたドライブ、吉田から渡嘉敷のハイローが決まり連続得点を挙げるも、3ポイントシュートを決められ流れに乗れない。第3ピリオドを59-81と22点差で終える。

勝負の第4ピリオド。ただここで初めて日本はピリオド最初の得点を奪われ、そのまま8-0のランを浴びて59-89と30点差に。第3ピリオドの後半から、日本の運動量は落ち始めていた。日本の攻守の要である吉田と渡嘉敷の2人が絶え間なくフル回転でのプレーを続けた結果、最終ピリオドになってチームはガス欠に陥ってしまったのだ。

ここに来て「足」の差が歴然となった。日本の持ち味である「走るバスケット」をアメリカが展開。アメリカはベテランも多いがプレータイムのシェアを徹底して行い、どの選手も常にフレッシュな状態でコートに立っていた。日本が攻撃に転じても、足が動かずボールを持つ吉田をただ眺めるだけ、という日本らしからぬシーンもあった。

この点、内海知秀ヘッドコーチの起用法を責めるわけにはいかない。インサイドのディフェンス力を保つためには渡嘉敷を下げるわけにはいかなかったし、吉田のギャンブル的なゲームメークが当たり続けていたからこそ、後半までアメリカのハイペースに食らい付くことができていたのだ。セカンドユニットに切り替えた瞬間に突き放されるのがほぼ確実となれば、吉田と渡嘉敷に託し続けるしかなかった。

日本の長所をすべて受け止め、なおかつそのはるか上を行ったアメリカ。スー・バードの故障は決して小さくないアクシデントだったはずだが、全員でカバーした。

ローテーション起用で闘争心を煽られたアメリカに屈する

だが、40分間ずっと走り続けることはできない。そしてアメリカは大量リードがあっても攻め手を緩めることがなかった。厳格なローテーションによりベンチで待たされる間に「腹を空かせた」アメリカの選手たちは、コートに入るやいなや溜めておいた闘争心を爆発させた。

162cmの町田瑠唯がドライブから放つレイアップを、203cmのグライナーがブロックショットで叩き落す。ベンチから出た日本の選手たちも持ち味を発揮しようとしたが、アメリカの闘争心が上回った。終わってみれば64-110、46点という大差を付けられての敗戦となった。

第2ピリオド終盤までは互角の戦いを演じ、ここまででアメリカを一番苦しめたことは間違いない。それでも、前半こそ互角だったスタッツにしても、終わってみればフィールドゴール率は日本の34%(71本中24本)に対しアメリカは65%(72本中47本)と圧倒された。リバウンドは日本が26、アメリカが50でほぼダブルスコア。

出場時間ではスー・バードが序盤でひざを痛めた関係で、トーラシの出場時間が増えて27分半のプレーとなったが、この試合でもプレータイムをしっかりシェアしていたことが分かる。一方の日本は渡嘉敷が35分46秒とほぼ出ずっぱり、栗原が29分、吉田が28分、本川が25本と、主力選手を引っ張らざるを得なかった。

「メダルへの挑戦」はこれにて幕引きを迎えた。だが、AKATSUKI FIVEはまだ若く、多くの伸びしろを持つチームであることは間違いない。彼女たちの「次なる挑戦」に期待したい。

タフショットを何本も決めた得点力はもちろん、アメリカの猛攻をしのぐにはインサイドでの渡嘉敷の奮戦が欠かせなかった。