デマー・デローザンとカワイ・レナード、感情論が走るトレードをドライに考察する

2018/07/20
NBA&海外
8667

デマー・デローザン

文=神高尚 写真=Getty Images

スパーズのカワイ・レナードとラプターズのデマ-・デローザンのトレードが成立しました。チームへの不信感を隠さずトレード希望を表明していたレナードは、長くチームの中心選手としてプレーしていたダニー・グリーンを巻き込んだことでスパーズファンからの反感を増長してしまいました。ラプターズもまたトロントへの愛情を語る絶対的なエースのデローザンを裏切るような形で放出してまで、来年のオフにフリーエージェントでレイカーズ移籍を希望しているレナードを獲得するという大きな賭けに出ました。

ともにフランチャイズプレーヤーとして多くのファンから愛されていながら、チームと選手それぞれの愛憎を膨らませそうなこのトレードは、選手とフロント、ファンそれぞれの感情というウェットな部分では両チームにとって大きな分岐点であり、お互いに損となったようなトレードです。しかし、ここはプロスポーツの世界。ドライなビジネスと割り切れば双方にメリットがある気もしてきます。

スパーズの泣きどころを補完するデローザン

スパーズのシューティングガードは不動の存在だったダニー・グリーンに衰えが感じられ、ドラフトでロニー・ウォーカーを指名し、フリーエージェントでマルコ・ベリネリを補強するなど他のポジションに比べて泣きどころでした。

昨シーズンは本来ポイントガードのパティ・ミルズで補ってきましたが、トニー・パーカーが移籍したこともあり、両ガードポジションをどうするかは課題となっていました。もちろんレナードが残れば対応できた部分ではありますが、ガード陣にチームの大黒柱となれる選手がいなかった中でデローザンの獲得は理想的な補強です。

プレースタイルとしても3ポイントシュートに頼らず、巧みなステップワークとショートレンジの正確性で勝負するデローザンは堅実性を重視するスパーズに合っています。同じくミドルの正確性が特長のラマーカス・オルドリッジとのコンビはお互いのポジションを入れ替えながら、効果的なパス交換が期待できます。オフボールムーブとパッシングを繰り返すことでディフェンスのギャップを生じさせるスパーズのシステムになじめば、デローザンのプレースタイルはさらに輝きを増すはずです。

その一方でスパーズは前述のベリネリに加えてダンテ・カニンガムを補強し、3ポイントシュートを得意とするロールプレイヤーも増やしています。ミルズが本来のポイントガードに戻る点も含めて、インサイドを攻略するデローザンはより効果的になりそうです。昨シーズンは得点面だけでなくアシストを増やすなど、チームオフェンスをリードする役割で成長をみせたデローザンなのでスパーズのオフェンスにも早く馴染めるのではないでしょうか。

カイル・アンダーソンも移籍し、ディフェンス面で不安が残るスパーズですが、走れるビックマンのヤコブ・パートルも補強したことでインサイドが厚くなり、ルディ・ゲイを本来のスモールフォワードで起用すると予想されます。時代に逆行したビックラインナップはプレーオフでもウォリアーズ相手に効果を発揮しており、ディフェンスでも独自の強みを作ってきそうです。

デローザンによってガード陣のオフェンス面が改善され、高さの利を生かしたディフェンスシステムが整備されれば、レナードがほとんどプレーしなかった昨シーズンよりもチーム力が上がることが期待できます。

レナードはラプターズ待望の『エースキラー』となる存在

攻守にリーグトップクラスの成績を残しながらもプレーオフで絶対的な個であるレブロンに負け続けてきたラプターズ。読みの鋭いカイル・ラウリーやブロック力のあるサージ・イバカなどがいてチームディフェンスが素晴らしい反面、レブロンを止める役割をルーキーだったOG・アヌノビーに頼らざるを得ず、そのアヌノビーからスイッチさせられると誰も抵抗できずにディフェンスが崩壊してしまいました。

不足していたエースキラーにリーグ最高のディンフェンダーの一人であるレナードを獲得したことはさらなるディフェンス力のアップが期待できます。加えてダニー・グリーンも得ており、スイッチを前提としたオフェンスにも対抗しやすくなりました。

これまでラプターズはウイングが少なく、読みが鋭くプレッシャーをかけられるガード陣とリムプロテクトできるビックマンが中心でしたが、今回のトレードでウイングの厚みを増すことになり、スパーズとは逆にスモールラインナップに特長が出てきそうです。レナード、グリーン、アヌノビー、イバカ、パスカル・シアカムというオールラウンドに守れる選手を揃えました。

オフェンス面でデローザンとレナードの役割に大きな違いはなさそうですが、フレッド・ヴァンフリートとデロン・ライトの成長によりガード陣は充足しているので、よりサイズのあるレナードの存在はチームとして戦いやすくなるはずです。

ラプターズは毎年好成績を収めている反面でクラッチタイムに弱く、特にビハインドの局面では個人の戦いで相手エースを止められないため、ディフェンスが機能せず逆転勝利が少ないチームでした。天敵のレブロンは西カンファレンスに移ったものの、接戦が増えるプレーオフでレナードのディフェンスは東のライバルを困らせるはずです。

デローザンだけでなくヤコブ・ポートルも放出して驚異的な活躍をしていたベンチユニットが弱体化し、シーズンでの成績アップに繋がるかは微妙ですが、エースの存在感とディフェンスの重要性が増すプレーオフに焦点を絞って結論を出したトレードだったのではないでしょうか。

ラプターズとしては悲願のファイナル進出だけを見据えており、それはレナードを引き留めるためにも必要になりそうです。

ドライなビジネスと考えればスパーズ、ラプターズ双方にメリットのありそうなトレードでしたが、選手やファンの感情というウェットな部分もまたプレーに大きな影響を与えるため、移籍して真価を発揮できなくなる選手も多くいます。特にラプターズのために働いてきたにもかかわらずレナードの騒動に巻き込まれたデローザンには、スパーズでさらに輝いてほしいです。