昨年のウインターカップ決勝は、福岡大学附属大濠と福岡第一の『福岡決戦』となった。この試合に敗れた直後に始動した今年のチームは好スタートを切ったものの、新型コロナウイルスの影響を受け、練習もままならない状況が長く続いた。チーム作りが思うように進まない中で、片峯聡太コーチは選手が主体的に練習に取り組むようにうながし、大会のない夏を過ごしてきた。ウインターカップ予選では福岡第一に再び敗れたが、それもまたチームの成長の糧とするタフさが大濠にはある。本大会の開幕に向けて、「いろんなものをしっかり吸収できる心と身体のバランスになっている」という今のチームについて聞いた。
「試合を重ねる中で削っていく作業ができなかった」
──昨年のウインターカップでは準優勝に終わりました。そこからのチーム作りを振り返ってください。
去年のチームは3年生中心だったので、試行錯誤から始まりました。救いなことにガードの平松克樹、交代で出ていた岩下准平、3回戦までスタメンだった西田公陽はある程度の経験があったので、彼らを中心に何とか新人戦を乗り切って、県の中部地区大会では福岡第一に久々に勝ち、勢いのある感じで発進できました。それでもやはり、核になる選手がいないことで行き詰まってしまい、県大会では福岡第一にしっかりやられてしまいました。チームの核は平松、岩下、西田はいるのですが、インサイドに安定感がなくて、間山柊や島崎輝を冬から春にかけて鍛えるぞ、というところでコロナが来ました。
練習もできない、学校の授業もない。大会もカップ戦もない中で、寮でトレーニングをしてコミュニケーションを取り、自分と向き合う日々が続きました。インターハイもなくなり、選手たちの力を高める場が少なかったです。そういう場が必要な学年だったからこそ、すごく残念な思いがあります。今は逆にそこを何とか取り返せるように、ケガのリスクもありながら試合をたくさん組んで、ウインターカップに向けて最終調整をしています。
──新型コロナウイルスの影響で思うようにいかなかったことが多い1年だと思いますが、その中で得たものはありますか?
自主性じゃないですかね。「自分がなぜバスケットをやっているのか」、プレーする機会がなくなったからこそ、それを彼らが考えるきっかけはあったでしょうし、もちろん私自身もそうでした。そういった意味で、主体性はすごく育まれた代だと思います。逆にみんなで作り上げるという部分は少し欠けていると思うので、ここで取り返したいです。
──片峯コーチ自身にとっては、どんな1年でしたか?
私も今年はただ自分だけの指導ではなく、スキルだったりトレーニングだったりメンタルだったり、プロの方々の力を借りながらチームの強化、選手の育成をしているので、あまり入り込みすぎずに自分自身とチームを客観視して、その中で必要なことにできるだけ多くの時間を割くようにしています。そういう意味では冷静に見ることができていると思います。
「まずは3回戦、そこを乗り越えられれば自信が生まれる」
──ウインターカップの組み合わせが決まりました。1回戦が岡山商科大学附属、2回戦は広島皆実と関西大学北陽の勝者、3回戦は東山か飛龍になりそうです。ベスト8より前から強豪校との対戦が続きます。
正直、今年のチームはゲームの経験が少ないので、1回戦からゆったりやろうという気持ちは私にも選手にもありません。1試合1試合でいかに成長していけるか。そういう意味で初戦の入りも大事ですし、次からは相手の対策と自分たちのやりたいことを両立させなければいけません。まずは3回戦に照準を合わせて、そこを乗り越えられれば選手の中で自信が生まれるはずです。今の彼らには試合で得た自信という要素が足りないので、そこがハマればさらに大きな力が発揮できると思います。
──ウインターカップは東京の大きな会場で、多くのファンに見られる中で戦います。今回は大会序盤は無観客での開催になることが決まっています。プレッシャーが減る代わりに、大舞台ならではの刺激と経験は得られないことになりそうです。
やっぱり全国大会のあの舞台となれば、選手はアドレナリンが出るものです。試合が白熱すれば見ているお客さんも入り込むので、緊張感と盛り上がりは特別なものになりますよね。それはウインターカップの大きな魅力だと思います。無観客になったり、人数が制限されるのは残念極まりないのですが、でもプレーするのは選手なので、選手たちがあのコートで最後までプレーをさせてもらえるならありがたいです。もし無観客になったとしても、いろんな媒体で高校生の最後のバスケットを取り扱ってもらって、選手たちの雄姿を多くの人たちに届けていただきたいと思います。
バスケは冬のスポーツで、ウインターカップはその祭典なので、ウチの選手たちはまだ引退せずにこうやってバスケに打ち込んでいますが、他の競技ではこの機会がないまま終わってしまった選手がたくさんいます。その人たちの分までと言うのはおこがましいかもしれませんが、そういう思いをした人がいることを選手それぞれが胸に秘めて、自分自身が頑張る材料にしてもらいたいです。ただ、そこは3年生になると私が思っている以上に芯がしっかりしていて、それぞれエネルギーをもらっているようです。
「必要なものを磨き、そうでないものは置いていく」
──ウインターカップ予選では福岡第一に敗れました。その後、チームに変化はありましたか?
まずは2時間半ぐらい、相当な時間をかけてミーティングをしました。福岡第一に負けて『自分が』悔しい、という気持ちをそれぞれに持っていただけだったんです。悔しい気持ちも大事ですが、日本一を目標に掲げるのであればチームで戦うことがまずは試されます。でも、あの試合ではそれが感じられませんでした。これは多くの指導者が今年悩んだことだと思いますが、ゲームの経験が少ないので、良くも悪くも自分をアピールしてしまう。試合の大事な局面で「僕はできるよ」というプレーをしてしまう。本来であればチームのためになるかどうかを基準にして、「自分はこれができる」、「これはできない」、「これはできるけどチームに迷惑がかかるかもしれない」、「だからこの部分で頑張ろう」と、それぞれが自分にできることを頑張る中で、少しずつ削って整理していくんです。でも、あの時点ではそこまでできていませんでした。試合を重ねる中で削っていく作業が今年はできなかったので、長い時間をかけて選手に問いかけました。
──そんな長いミーティングを経て、チームは正しい方向を向いていますか?
そう思います。そのおかげで大会1カ月前から変に盛り上がりすぎることもなく、いろんなものをしっかり吸収できる心と身体のバランスになっていると思います。ここから最後の2週間で、必要なものを磨き、そうでないものは置いて東京に向かいます。
──今年のキーマンになる選手を一人挙げるとすれば、誰になりますか?
ガードのところで平松ですね。これまで1番と2番で流動的にプレーしていましたが、岩下がケガをしてしまったことで彼がポイントガードになりました。彼にとってはポイントガードとして迎える初めての大きな大会ですが、キャリアがありますからある程度はコントロールしてくれると期待しています。
──ウインターカップでは大濠のどんなところに注目してほしいですか?
本大会では一戦必勝で頂点までの6試合を、どのチームよりも熱量を持って戦うつもりです。目の前の試合に集中して戦っている、目標に向かって全員が気持ちを一つにしてとことん追求していることが、見ている皆さんにも伝わるプレーができればと思います。チームで戦う上で何が大切なのか、プレーを通してそれを皆さんに伝えたいという思いで頑張ります。