荒唐無稽に思えるトレードが成立するのが今のNBA
ジェームズ・ハーデンとラッセル・ウェストブルック。ロケッツが誇る2人のエースが相次いでトレードを要求したと報じられてから1週間が経過した。その間に具体的な動きは何も出ていない。ハーデンはケビン・デュラントの勧誘を受けてネッツに行くのではないかと見られたが、ネッツのショーン・マークスGMはこの噂に対し、「本当の話なのか、本当だとしてもいつ実現するのか。架空の話はできない」と、議論にもならないと一蹴している。
今回のオフは時間がない。ジョー・ハリスとの契約延長をまとめ、バックコートの守備を改善すべくブルース・ブラウンを獲得したが、まだまだやれることはある。マークスGMとしては真偽不明のハーデンの噂に振り回されてはいられないのだ。
ハーデンもウェストブルックもロケッツとの契約は2022-23シーズンまで。プレーヤーオプションとなっている最終年を破棄してもあと2シーズンある。契約で縛ることはルール上は可能だが、昨今のNBAでそれは球団、選手ともに不幸な結果にしかならない。今はプレーヤーの発言権が強く、本人が強く望めばトレードをせざるを得ない。だが、MVPの放出に見合ったリターンを得られる交渉相手はどこにいるのだろうか?
簡単ではないが、道がないわけではない。ウィザーズはチーム再編に舵を切る可能性がいまだ残されている。ジョン・ウォールのトレード要求についてトミー・シェパードGMは否定しているが、これが事実だとしたらウェストブルックとのトレードは成り立つ。選手としての特徴や個性は異なれど、サラリーはほぼ同じでトレードしやすい組み合わせではある。
両チームがエースを手放さざるを得ない状況で一致した場合、ブラッドリー・ビールとジェームズ・ハーデンのトレードも考えられる。ロケッツとしてはハーデン慰留の可能性が完全に潰えた場合(現時点でそうなっていると見られている)、そしてウィザーズはウォールのトレード要求が本当で、チームリーダーを失うことでビールも移籍を希望した場合だ。ウィザーズとしては、エースへと成長したビールは決して手放したくない戦力。しかし、交換でハーデンが手に入るとなれば検討せざるを得ない。
もう一つの交渉相手はセブンティシクサーズだ。ロケッツのGMからシクサーズに移ったダリル・モーリーは、ベン・シモンズとジョエル・エンビードの2人を軸に今後もチームを作っていくと宣言しているが、一寸先は闇なのがNBAのトレード市場だ。セス・カリーとダニー・グリーンの補強は、ハーデンがプレーしやすい環境を整えたと見ることもできる。ベン・シモンズは優れたディフェンダーでありゲームメーカーだが、ジャンプシュートは得意ではない。プレーオフで勝てるチームと考えた場合、シモンズとハーデンのトレードは成り立つ。
荒唐無稽な話に思えるだろうが、NBAではここ何年もそんなトレードが成立してきた。やはりポイントは、以前から契約延長オファーを固辞しているであろうハーデン自身がロケッツに対してどこまで強硬な態度を取るか。モチベーションを失った選手を契約で縛っても、良い結果は期待できない。選手がワガママを通す形ではあるが、アンソニー・デイビスがペリカンズを離れた際のやり方は強引ではあったが『アリ』として認められた。ロケッツは多少の譲歩をしてもトレードをまとめる以外に道はない。
実際はネッツと協議が続いているのかもしれない。ここに挙げたチーム以外にも、ニックス、ブルズ、ペリカンズ、そしてウォリアーズと交渉できる相手は多い。なにしろ、ロケッツが手にしているカードはMVPの2人なのだ。時間がない中でどのような決着を見るのか、ここでの対応はロケッツの今後5年の浮沈を決める重要なものとなる。