ザイオン・ウイリアムソン

それぞれの持ち味を取り込めるか、期待と不安

スタン・ヴァン・ガンディがペリカンズの新ヘッドコーチに就任することが決まりました。かつてドワイト・ハワードを中心にしたバスケでマジックをファイナルに導いた手腕が、ザイオン・ウイリアムソンを始め多くの若手有望株を揃えるペリカンズでも発揮されることを期待されての抜擢です。丸々とした体格、コートサイドで顔を真っ赤にする姿は愛すべきキャラクターですが、ビッグマンを中心としたバランスアタックを実現する戦術家の一面にこそ注目すべきです。

特に、ピストンズのヘッドコーチをしていた2年前に見せたハンドオフを多用するオフェンスはファンを魅了するスタイルでした。ゴール下専門と思われていたアンドレ・ドラモンドを起点として活用し、トバイアス・ハリスやレジー・ジャクソンを個人技ではない形で巧みにプレーに絡ませました。

それでも当時はケガ人の続出を機に失速し、プレーオフを逃したことで解任されました。翌シーズンのピストンズがプレーオフに返り咲いたこともあって、『魅力的ではあっても勝てないシステム』として時代の潮流とはなれませんでした。しかし、その後のピストンズはドラモンドを放出してハンドオフとは袂を分かち、ドライブ中心になっています。

ところが今シーズンの東カンファレンスを制したヒートは、バム・アデバヨを起点としたハンドオフから多彩なオフェンスを展開しました。ドライブでの個人突破を多用するのではなく、しつこいくらいにパス交換を繰り返しながら、時にフェイクから自らドライブするハンドオフプレーは、ビッグマンを起点とするチームに適したオフェンスシステムとして結果を残したのです。ドマンタス・サボニスやニコラ・ヨキッチもハンドオフを上手く活用することで魅力的なプレーメーカーと認められるようになりました。

ビッグマンを起点とするチームに向いているのはもちろん、パスを受け取る側の得点力を引き出すため、プレーシェアをするチームのオフェンスにも合います。ザイオン・ウイリアムソンは圧倒的なパワーとスピードで豪快に決めてくる選手ですが、プレーメークに優れているわけではありません。ジュルー・ホリデー、ロンゾ・ボール、そしてMIPを受賞したブランドン・イングラムといった選手たちとプレーシェアしていくこともペリカンズにとっては重要です。ヴァン・ガンディが選ばれた理由は、そんなチーム事情にありそうです。

一方で、これまでペリカンズのアシストの半分近くをロンゾとホリデーが占めており、ガードから始まる高速オフェンスが特徴でした。デメリットを気にすることなくハイテンポな打ち合いに慣れているチームが、ビッグマンを経由するハーフコートオフェンスを遂行できるのか、という不安材料もあります。両方の持ち味をバランス良く取り込めるかどうかが大きな課題になりそうです。

いずれにしても有望な若手を多く抱えるチームに、プレーシェアを得意とするヘッドコーチというのは期待したくなる組み合わせです。慣れないシステムに加えて、プレータイムも分け合うため、結果が出るまでに時間はかかりそうですが、選手とシステムが噛み合えば面白いオフェンスが展開されるでしょう。

魅力的ながら結果を残せなかったピストンズ時代を経て、再びチャンスが巡ってきたヴァン・ガンディ。かつてヘッドコーチとして指揮したこともあるヒートがファイナルに進んだことはハンドオフオフェンスの導入を後押ししてくれるはずです。若手たちのやりたいことと自らのスタイルを上手く融合できるか、その手腕が期待されます。