藤岡麻菜美はまだ26歳。ケガに苦しめられても、現役選手として第一線に戻って活躍できたはず。先月に開幕したWリーグを見て、キレのあるクロスオーバーで相手を翻弄する藤岡の不在に寂しさを感じているファンもいまだ多いはずだ。しかし、藤岡自身はすでに母校の千葉英和のアシスタントコーチとなり、指導者としての第一歩を踏み出した。youtubeなどで目にする機会は多く、本人も「なんか、クロスオーバーの人みたいになってないですか?」と笑うが、そこにもう迷いはない。自分の思い描く理想の指導者に向かって、藤岡は着実に歩みを進めている。
「教えてきたプレーが出るとめっちゃうれしいです」
──現役時代はたくさん取材させていただきましたが、指導者としては初めてです。もともと筑波大に進学する時点で、教員免許を取っていずれは指導者に、という考えだったと思いますが、今回も自然な流れとして指導者を選んだのですか?
筑波大に入学するのを決めた時点では教員になりたいというのが一番にありました。しかし、大学1年のオールジャパンで富士通と準々決勝で当たって、負けたんですけどすごく良いゲームができたのがきっかけでWリーグに興味を持って、映像とか試合を見るうちに目指すようになりました。教員免許も取ったのですが、その時はもう教員よりもバスケを頑張ろう、東京オリンピックも決まったのでバスケに集中しようと思っていたので、指導者になりたいとはあまり考えなくなっていました。
でもケガをしたりとかで考える時間がたくさんある中で、誰かにバスケを教えるのは楽しいという気持ちがずっとあって、今回引退するとなって「できるなら英和に戻って、母校でやりたい」と考えました。
でも、コロナで直接挨拶に行くこともなかなかできなくて、年末に森村(義和)先生と川畑(葉子)先生に挨拶に行った時に「パリオリンピックまでやります!」と自信満々で言ったこともあって、他の人には「引退するかもしれないです」と話しているのに、こちらにはどうしても言い出せなくて(笑)。自分の気持ちがちゃんと固まったところで、引退のことと指導者をやりたいことを電話で話しました。
最初、先生は「ちょっと休めばまたやりたくなるんじゃないか」、「すこし離れて、また戻ったらいい」と言ってくださったんですけど、私は言い出せない間に考えて考えてもう結論を出していたので「そうじゃないんです」と言って(笑)。それでアシスタントコーチとして、森村先生のサポートという形で母校に戻ることになりました。
──実際に指導を始めて、思い通りにいかなかったり、難しいことはありますか? また、ここまでの手応えは?
今はあくまで森村先生の考えるバスケをサポートする形なので、そこまでの重荷はないというか、選手のスキルアップ、個人能力を上げることだけを考えればいいので、それほど難しいと思うことはないです。手応えは……どうなんですかね。3カ月、4カ月とやって、ふとした瞬間に教えているドリブルが出てくるようになっているので、毎日教えていれば上手くなるんだ、というのは実感しています。やっぱり、試合でも練習でも教えてきたプレーが出るとめっちゃうれしいです。選手の目の色も変わってきました。
「バスケを中心に教えるけど、バスケだけじゃない」
──千葉英和の教員になるわけではなく外部コーチという形ですよね。つまりはプロコーチとなりますが、これからどういったスタイルでやっていきたいですか?
教員になると業務が忙しくてバスケを十分に教えられないので、バスケを中心に教える外部コーチということで英和に入れてもらいました。空いている時間は英和の体育館を使っていいと言われているので、ここを拠点に来年の4月からは週に1、2回のスクールをやりたいと思って準備しています。小学校6年生で中学でもバスケを続ける子に来てもらって、小6から長くて4年間育てて、もし英和に入ってくれるとなれば合計7年間指導できます。それが英和のバスケ部への貢献にもなれば良いと思います。
小6から専門のコーチから本格的な指導を受けて、いろんなことを学べるとなれば、英和に入りたいというきっかけにもなるだろうし、英和に入れば7年間指導できて、それは他の学校にはない特別な環境なので、それをこれから作っていきたいです。
今のところは女子だけで考えていますが、スタッフとか手伝ってくれる人が増えれば男子もやりたいです。ただ、今のところはできる人数でやるつもりです。
──スクールではなくクラブチームにする考えはありませんか?
クラブチームにすると大会に出ることになります。あくまでも英和をメインとしてやりたいので、スクールを考えています。私が現役の時からそうですが、英和の女子バスケ部は昭和学院を倒してインターハイに行くことをずっと目標にしています。私が高校生の時に一回だけ倒して、それ以来まだ倒せていません。スクールも含めて体制を作って、昭和学院を倒せるようなチームを作りたいです。
──ちなみに、ウインターカップは参加校が増えて、今回は千葉県の出場枠が2つあります。ウインターカップ出場が目標なのか、いやいや昭和学院を倒して千葉でトップになりたいのか、意識はどちらが強いですか?
だったら昭和学院よりもウインターカップですね。私自身がウインターカップに出ていないので(笑)。
──ウインターカップに出るだけでなく優勝を狙うようなチームは、専用の体育館があっていくらでも練習ができ、寮があって全国から有望な選手を集めています。千葉英和の体育館はコートが2面取れますが、男子バスケ部と男女のバドミントン部と平等にシェアして使っています。寮もないので通える生徒しか取れません。環境的には結構不利ですよね。
確かにそうですが、バスケを中心に教えるんですけどバスケだけじゃない、というのを私は大事にしたいと思います。Wリーグを経験して感じたことでもありますが、ずっとバスケットだけやってきた人からバスケを取ったら、その人自身に何が残るのかをすごく考えるようになりました。やっぱり高校生だし、バスケを教えるんですけど、バスケを通じて『人として』の部分を指導していきたいというのはすごくあります。
だから私が一番考えるのは、『バスケだけじゃない』という選手を輩出していくことです。高校生を実際に指導できるのは2年半ぐらいですけど、選手たちはそこだけで完結しないじゃないですか。その後の大学とか実業団でも続けるなら、バスケはヘッドコーチがどんどん代わるスポーツですが、どんなヘッドコーチの下でも対応できるような柔軟な選手に育ててあげたい。また社会に出た時に通用するような人に育てたいです。
「高校生だからできない、とは考えない」
──代表決定戦に勝てばウインターカップです。恐らく藤岡コーチは注目されると思いますが、どんな部分を見てほしいですか?
アシスタントコーチはベンチで立って指導できないので、熱量が上がりすぎると立ち上がりそうになってるところですね(笑)。もしくは、椅子から下りて立て膝でごまかしてます(笑)!
──では、千葉英和のここを見てほしいというところを教えてください。
型にはまらない、自由なバスケットスタイルが良いところじゃないかと思います。そこが英和の一番の特徴なので、そこは是非皆さんに見ていただきたいと思います。
──今日の練習を見ましたが、練習中でもノールックパスを出したり、確かに自由なスタイルでしたね。
本番の大事なところでノールックパスでターンオーバーしなきゃいいんですけどね。ホントにそこだけは(笑)。
──今の選手たちを指導する上で、特に気を付けている点はありますか?
高校生だからって決めつけないことですね。「高校生だからできない」とか「高校生だからこの程度」とは考えないようにしています。自分はトップでいろんなバスケットを経験してきて、トップがやってるなら高校生も真似するべきだと思っています。真似できる事は真似させれるように、練習から指導していこうと思っています。
──千葉英和の選手たちは公式戦でも自由なスタイルで、バスケットを楽しんでプレーできていますか?
選手たちは本当に分かりやすくて、この前の千葉経済大附との試合でも負けてるとシュンとなって、あまり経験のない選手たちなので8点離れちゃった時は「どうしよう?」という雰囲気だったんです。そこで「いやまだ20分あるじゃん、やれることをちゃんとやれば絶対大丈夫」と伝えました。それで第3クォーターに同点になったら笑顔が出始めて、こちらが何も言わなくても3年生が声を出し始めて「私たち行ける!」、「頑張ろう頑張ろう!」みたいな。競っている試合でそれを見ることができたのは、一つ強くなれたかなと思います。次は代表決定戦ですけど、思い切り楽しんでやってもらいたいです。