Bリーグは10月にいよいよ10年目のシーズンを迎える。そして翌年の2026-27シーズンには『B.革新』の名の下、新たなフォーマットでスタートを切る。この新フォーマットの目玉となるのが、選手総年俸を制限する『サラリーキャップ制度』の導入だ。トップリーグ『Bリーグプレミア(以降Bプレミア)』に所属する各クラブは上限8億円、超過は一切認められないというこのルールを見越してチーム作りを進めている。
まだまだ発展途上のBリーグにおけるサラリーキャップ制度の施行、すでに複数のチームが超過している上限金額の設定は、ともにリーグの成長速度を阻害し、競技レベルを低下させるという見方も出ている。こういったネガテイブな声が出ることを想定した上で新制度を導入した目的について、島田慎二チェアマンに聞いた。
「上限8億、下限5億」が決定するまで
──いよいよ2026年秋の新リーグ開幕まで1年となります。大きな変化となるのが戦力均衡のためのサラリーキャップの導入です。選手の総年俸の上限を8億円、下限を5億円とし、これを超過したチーム、逆にこれに達しないチームは下部リーグ降格という厳しい罰則が課せられます。この金額が決まるまでの経緯を教えてください。
現時点で、選手総年俸が8億を超えているクラブも、5億円に大きく達していないクラブもあることがわかっています。戦力均衡のためには上限だけでなく下限も設定しなければいけません。そして、この差が狭ければ狭いほど戦力均衡が成立するわけですが、上と下、どちらかに対して寄り添う必要があります。このような考えをもとに、チーム作りの妙によってある程度互角に戦える金額として、上下の差を3億としました。
選手の立場からすれば、総年俸にキャップをかけられることを不利益と感じると思います。だからこそ下限をしっかり設定しました。これまでのように、スター選手が同じチームに3人も4人もいるという状況は叶えられないとしても、スター選手がいろいろなチームに散らばることで、各選手の年俸が低くなることを抑制できる。そういった議論を進め、上限8億と下限5億という金額が決まりました。
もちろん「キャップをかけるタイミングが早くないか?」「年間3〜40億の売り上げを達成するクラブが出てきて、それに伴って総年俸を上げられる余地があるのに制限しまうの?」という視点があることはわかります。ただ現状は、自力で稼いでいるクラブが増えてきた一方で、オーナー企業に大きく依存しているクラブもあります。そして、総年俸の高さとオーナーへの依存度の高さは相関関係にある、というのが実情です。
「自分たちでマネタイズして稼いだ収益でしっかりチームの人件費を払っている」という理想から少し離れてしまっているクラブもあります。もちろん、親会社のミルクマネー(資金投入)を0にしてほしいというわけではないですが、上場企業を親会社とするクラブが増えている中、スポーツに投資することの意味・意義は、今後より厳しく審査されますし、「スポーツクラブのオーナーになると株価が下がる」というような現象も実際に起こっています。この状況が続けば、「自力で稼げないスポーツクラブを親会社で支えるだけ」という末路になってしまいます。
自力で稼いだ売り上げという視点から言えば、上限の8億はある程度、現状に即した妥当性があると思います。むしろ、今の実体経済における適正価格は8億より低いと思います。世間からすればいろいろな見方があると思いますが、リーグとしては選手の年俸を担保しつつ経営の健全性を求めたいし、成長性を阻害することもしたくない。その中でどこがベストなのかを探ってきた結果が上限8億、下限5億というのが本音です。
厳しい降格ペナルティを設定した背景
──公開されている昨シーズンの選手総年俸を見ると、下限の5億に1億以上満たないチームが複数ありますし、今シーズンも5億に達していないチームがあると予想されます。そういったチームはプレミア開幕時に5億円を払えないのでは、という不安はないですか?
「上限8億・下限5億」という金額は、B革新に伴うルール変更のかなり早い段階で決まっていたことです。各クラブには「5億払うことができないのならBプレミアに来ないで」と伝えてきました。5億をクリアできなかったクラブはBプレミアからいなくなるだけです。そもそも、5億を払うという前提で精査を進めてきたので「やっぱり4億しか出せないです」となったら「降格してください」と。それが選手のためです。
──NBAでは、サラリーキャップ超過を認めるかわりにリーグが課徴金を徴収し、それを各チームに分配する「ソフトキャップ」いう制度がありますが、Bリーグが例外を認めない「ハードキャップ」を選択した理由はどこにありますか?
ソフトキャップを導入するという議論もあった中でハードキャップとしたのは、戦力均衡をできる限り実現したいという思いがあったからです。例えば、クラブ単体での売り上げは15億だけど、親会社のミルクマネーが加わって売り上げが40億というクラブがあるとします。このクラブが8億円以上の総年俸を払うことで生んだ贅沢税を、リーグが一回集めて配分するということはできます。ただ、試合の勝敗に関するチームの優位性が圧倒的に強いことは変わりません。
これを認めてしまったら、Bリーグの掲げる『地方創生リーグ』……地方のクラブでも優勝するチャンスがある、夢があるから応援したいと思えるリーグにはなっていきません。もっと言えば、地元の企業さんから「このルールだったら地方のクラブでも勝てるかも。だから来年こそは」と応援してもらえる仕組みを作ることが、クラブの健全性、サステナビリティをプッシュしていくものだと思っています。こういったことを総合的に判断すると、Bリーグはハードキャップのほうが合っていると思います。「降格は厳しすぎる」という声もありますが、それがリーグの今の意思。それくらい「ズルは許さない」というスタンスです。