1ポゼッション差に迫る反攻の主役に
昨シーズンに大きく勝ち越し、天皇杯優勝と飛躍を遂げたサンロッカーズ渋谷だが、シーホース三河との開幕節で連敗を喫した。
2試合とも4点差以内の惜敗となったが、「1点でも勝たないと全く意味がない」と、伊佐勉ヘッドコーチは敗戦の重みを感じていた。それでも、第2戦では最終クォーターに最大13点あったビハインドをあと一歩で覆すところまでの反撃を見せ、チームが持つポテンシャルの高さを証明した。
猛追のきっかけを作ったのはエース格のベンドラメ礼生でもライアン・ケリーでもなく、インサイドの控えプレーヤーである野口大介だった。最終クォーター残り8分14秒、金丸晃輔に3ポイントシュートを決められ、この試合最大となる13点のビハインドを背負ったSR渋谷は5人を一気に入れ替えた。「伊佐ヘッドコーチが5人を代える時は流れを変えたい時。その意図を汲んで、リフレッシュできていたのでその力を前面に出そうとしました」と、野口は言う。
コートに送り出された野口はプットバックのセカンドチャンスポイント、さらにスティールからのワンマン速攻を決めるなど、効果的な働きを見せた。さらに3ポイントシュートも沈め、このクォーターだけで7得点を挙げて反撃ののろしを上げた。野口の活躍に触発され、ベンドラメが強気なアタックを連発し、チームは1ポゼッション差まで迫る猛追を見せた。
野口はこの時間帯をこのように振り返った。「僕ら本来のディフェンスを体現したいと思い、それがうまく形に繋がりました。みんながベースを作ってくれたのでそこについていく。そこにしっかり応えようとして、たまたま僕のところにボールが来たのでパスカットができたり。これを続けたいです」
残り3分21秒、3点差まで追い上げたところで、野口はケリーと交代した。ロールプレーヤーのこうした『繋ぎ』はチームのパフォーマンスを底上げする大事なピース。野口も「ケリーに代わるのは薄々気づいていました。彼を休ませて最後の大事な場面で良いパフォーマンスができるための繋ぎというか。それが僕の仕事だと思っていました」と、見事に自分の役割を全うした。
その後、フリースローを決めきれず同点のチャンスを逃し、逆転を狙ったケリーの3ポイントシュートが阻まれてしまい、チームは2点差で敗れた。初戦は5分のプレータイムに留まった野口だが、第2戦では12分とプレータイムを伸ばした。「ディフェンスが機能したのが5人の時、うまくハマった時間があったのでプレータイムが長くなった」と、野口は言う。また、お役御免とも言えるパフォーマンスを見せたが「勝ちに繋がらなかったので、僕の力が足りていなかったと思う」と敗戦の責任を負った。
終盤のような、大事な場面で起用されることにやりがいを見い出す選手は多い。ましてや、自分が好調な場面で交代させられることは決して喜ばしいことではないだろう。だが野口は「まだ試合に出たいという気持ちは特になくて、出ている時間は仕事をしようと思っていました」と語る。
そして、ケリーと交代したことも「それがチームプレーだと思っているので」と、自分の役割を深いところで理解し受け入れていた。短時間で結果を残す、ロールプレーヤーの職人芸がそこにはあった。