文=丸山素行 写真=鈴木栄一、野口岳彦

『未来のバスケットのためにも』との思い

ワールドカップアジア1次予選の最終戦、バスケットボール男子日本代表はチャイニーズ・タイペイに圧勝し、通算成績を2勝4敗として2次予選に駒を進めた。帰国後、取材に応じた比江島慎は「未来のバスケットのためにも、という思いが強かったので、ホッとしているのが第一です」と安堵の表情を浮かべた。

それもそのはず。結果的に1次予選を突破した日本だが、そこまでの道のりは険しいものとなった。2月25日、アウェーでのフィリピン戦を84-89で落としたことで、日本は0勝4敗と窮地に立たされた。比江島も「自信も失われるくらいで、どうしようという不安な気持ちになってしまうくらいでした」と当時の苦しい思いを明かした。

ただ、4連敗している中ではあっても、比江島は一人気を吐き『日本のエース』としての評価を確立していた。1次予選では全6試合に出場し、平均27分のプレータイムで16.2得点、4.2リバウンド、4.0アシスト、1.5スティールと堂々たる数字を残している。

だが比江島はそうした自分の活躍が勝利という結果につながらないことに心を痛めていた。「自分が活躍しても、最後に勝たせなければ何の意味もないと思っていました。ある程度アジアでは通用するという自信を持ってやっていたので、それで得られるものはなかったです。ただ勝利が欲しかっただけなので苦しかったです」

それでも八村塁が勢いを、ニック・ファジーカスが安定感を与えた新生日本はオーストラリアから歴史的勝利を挙げ、チャイニーズ・タイペイも下し、逆転で1次予選突破を果たした。『崖っぷち』から生還を果たしたことで、比江島はようやく代表における充実感を得られたようだ。

「大事な場面でのガス欠は、どうしてもありました」

ファジーカスと八村の加入は高さと得点力を日本にもたらしたが、一番の恩恵は比江島の負担が分散されたことかもしれない。「オフェンスに関しては本当に負担が減りました。得点以外も頑張れるというか、アシストもリバウンドもディフェンスも、前の4試合に比べたら質も上がってますし、体力の面でも疲労度が違うと感じました」

これまでの日本は特に試合の大事な局面で『比江島頼み』になることが多々あった。そんな流れを感じとっていたからこそ、比江島も「体力のマネジメントは多少あった」と意識しており、プレー強度を落とす場面があったことを明かした。

「大事な場面でのガス欠は、どうしてもありました。でもオーストラリアの時は最後の最後まで集中し続けられた」と比江島。体力を温存しなくてもいい状況となった比江島は、オフェンスだけでなくディフェンスでの貢献も光り、日本代表は大金星を挙げるに至った。

これから束の間の休息を挟むが、すぐに2次予選が始まる。初戦は9月13日、アウェーでのカザフスタン戦。「フィジカルが強いというイメージです。あとはアウェーに行く大変さがあります」と比江島はカザフスタンの印象を語ったが、「このメンバーで臨めるのであれば勝てる自信はあります」と力強くコメントした。

「世界のレベルに少し近づいてきた」との自信

先のオーストラリア戦のアップセットを機に、チームには自信がみなぎっている。「アジア王者のオーストラリアを倒せたのは自信になりました。世界のレベルに少し近づいてきたのかなという自信、手応えはあります。僕らもメンバーが集まれば行けるのではないのかなという希望は見えました」

「メンバーが集まれば」という言葉が少々気にはなるが、それは八村が出場できるかどうか定かではないからだ。「塁はなかなか難しいと思うし、だいぶ塁に助けられたと今回感じているので、その分やらなくてはという思いはもちろんあります」と八村が不在となっても、自分がチームを引っ張るという意思をあらためて見せた。

こちらも不確定だが、2次予選にはジョージ・ワシントン大を卒業した渡邊雄太がチームに合流する可能性がある。「それを想定しながらイメージはしています」と、比江島は渡邊との共闘も視野に入れている。

ファジーカスと八村、そして渡邊が加われば過去最強クラスの布陣が整う。海外プレーヤーの代表入りはそれだけ日本を強くする。それでもBリーグで成長し、『日本のエース』の地位を確立した比江島の存在感が損なわれることはない。『比江島だけ』のチームではなくなったにせよ、現在もこれからもAKATSUKI FIVEには比江島慎が必要なのだ。