ロンドにホートン・タッカー、対ロケッツの選手起用も的中
レイカーズとロケッツの西カンファレンスセミファイナルは、初戦で敗れた後に4連勝を挙げたレイカーズの完勝に終わりました。しかし、第1戦が終った段階ではここまでの差がつくとは考えられず、第2戦からフランク・ボーゲルが繰り出した策が鮮やかに機能したことが印象的でした。
本来は安定したオフェンスを志向するレイカーズは、8点リードされて迎えた第1戦の後半にアンソニー・デイビスのポストアップからのジャンプシュートで追い上げたものの、ラッセル・ウェストブルックがミスをしながらもペースを上げていくと、広い範囲をカバーするスピードと運動量の戦いに巻き込まれ、最終的に15点差をつけられて敗れました。
この内容を受けボーゲルは、第2戦からはジャベール・マギーとドワイト・ハワードの起用を減らし、ロケッツのマイクロボールに合わせたスモールラインナップを採用しました。今シーズンはビッグマンのインサイドを中心に固いディフェンスを作り上げてきたレイカーズが『強みを捨てて、ロケッツに合わせる』という判断を早々に決めたことは驚くべきことです。
ロケッツからすると自分たちの戦い方にレイカーズを巻き込んだ形で、本来であればロケッツのペースでシリーズが進んでもおかしくない判断でしたが、実際は逆のことが起こりました。自分たちの戦力を細部まで把握したボーゲルの、攻守で総合的にメリットを生みだす『緻密な計算』があったのです。
マイク・ダントーニのマイクロボールは単なるラン&ガンではなく、オールラウンドな選手を並べ3ポイントシュートでスペースを広く保ちながら、オフボールの動きでディフェンスの弱点を突くオフェンスが特徴です。レイカーズがスモールラインナップを採用したところで、マイクロボールを防ぐことは難しく、実際にロケッツのオフェンスは戦術的には最後までディフェンスの『穴となるスペース』を活用し続けました。
この機能的なオフェンスに対してボーゲルが『穴となるスペース』に設定したのが、ペイントエリアの中心でした。スモールラインナップにして増えたガード陣は3ポイントラインの外までプレッシャーを掛けに行きます。その背後に空いたスペースにロケッツは何度もパスを通し、ペイント内で何度も1対1の状況を作り出します。オフェンス戦術としてはロケッツの狙い通りの形が作れていたことになります。
ただ、そこにいる1人のディフェンダーがデイビスかレブロン・ジェームスであったため、狙い通りの形を作っても得点できないシーンの連発となりました。高さの差があってもスピードを生かした突破で苦にしないのがマイクロボールですが、デイビスとレブロンの個人能力には屈するしかありませんでした。
5試合を通じて両チームの3ポイントシュート成功率にはほとんど差がなく、ターンオーバー数に至ってはロケッツの方が3つ近く少ないなど、大きな差はありませんでした。しかし、ペイント内のシュート成功率はレイカーズの68%に対してロケッツは52%に留まっており、この差が大きく響いたのです。
ただし、マイクロボールの戦いに応じることは、安定したハーフコートオフェンスを捨ててトランジションの勝負に付き合うことも意味します。ここでボーゲルはケガ明けのラジャン・ロンドの起用にこだわり、見事にすべての試合でロケッツよりも多くの速攻を生み出しました。
ベテランのポイントガードであるロンドですが、チーム戦術よりも個人の判断を優先させる傾向があり、しっかりとハーフコートオフェンスを組み立てるには向かないことがある反面で、決まった形のないトランジションゲームでは特別な強みを発揮します。そのためロケッツのマイクロボールに付き合うには欠かせない選手となりました。
またロンド以上に驚きだったのは、シーズン中に6試合しか起用されなかったルーキーのテイレン・ホートン・タッカーを短時間とはいえ起用してきたことです。完全にセンターを起用しなくなった第4戦でローテーションの狭間に登場すると、スモールラインナップに欠かせないフィジカルなディフェンスとハードワークでガードながらリバウンドにも奮闘し、結果を残しました。
名前の知られた選手を差し置いてタッカーを起用したことは、ボーゲルが個人の持つ能力を隅々まで把握し、適材適所で働かせる緻密な選手起用をしている証でもあります。戦術的にはロケッツのマイクロボールに合わせることを選ぶしかなかったレイカーズでしたが、デイビスとレブロンというスーパースターの万能性から、ロンドやタッカーの持つ特殊性まで、戦力を存分に使い切ったボーゲルの采配が光った上での快勝のシリーズとなりました。