取材=丸山素行 構成=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一

センターとリーダーシップの『穴』を埋める2人

5月30日に発表された女子日本代表に、吉田亜沙美と大﨑佑圭の名前がなかった。その後、所属するJX-ENEOSサンフラワーズから大﨑の妊娠、そして2018-19シーズンで選手登録しないことが発表されている。こうなると注目されるのが、日本代表のセンターを誰が務めるのか。東京オリンピックでのメダル獲得を目指す上で、大﨑に代わるセンターの確立は急務だ。

2016年のリオ五輪では大﨑と渡嘉敷来夢が4番5番の先発、髙田真希がシックスマンで、この3人でインサイドをローテーションする形が確立されていた。昨年のアジアカップでは渡嘉敷が欠場となったため、髙田が4番の先発へと繰り上がって優勝。今回のワールドカップには髙田が5番、渡嘉敷が4番という布陣で臨むことになりそうだ。

所属チームのデンソーアイリスでも絶対的なリーダーである髙田にプレー面での不安はない。心身のコンディションさえ仕上がれば、世界を相手にしても渡り合えるだけの実力と実績がある。その一方でインサイドの新たなシックスマンが必要だ。ここで期待したいのが赤穂さくら、デンソーでも髙田とインサイドで組む22歳のセンターだ。メンバーリストを見ながら、さくらは言う。「センターで登録されているのは自分だけで、そこはチャンスなのでアピールしたい。これまで代表のセンターと言えばメイさん(大﨑)でしたが、そこに次は自分が入っていきたい」

一方の髙田は、「個人的には初めて代表に選ばれた時から一緒で、試合に出れなかった時期も出れるようになった時期も一緒ぐらいだったので、苦楽をともにしてきた仲間がいないのは寂しい感じもあります」と盟友である大﨑の不在に戸惑いを感じつつも、チームをどう強くしていくかを意識している。「どの選手もポテンシャルはすごくあるのですが、代表で世界大会を戦うとなると経験が大事になるので、そこが足りないのは不安です。でも、若い選手にはとにかく自信を持ってやってもらいたいと思います」

サイズでは大﨑にも引けを取らない赤穂だけに、髙田の言うように自信を持ってプレーできるかがポイントとなる。「それは中高から課題なんです。去年までは自信もなくて『ここにいていいのかな』と思うこともありました。それでも先日の面談でトムさん(ヘッドコーチのトム・ホーバス)に『自信がついて、プレーにもそれが出ている』と言われたので、もっともっと自信を持って自分らしいプレーをしていきたいです」

髙田「もっと成長したいと思えば聞きにくるべき」

渡嘉敷とともに髙田がインサイドの軸になることは確実なだけに、一緒にプレーする時間の長い赤穂への期待も相対的に高まる。ただ、同じチームに所属しているからベッタリというわけではなく、7歳の年齢差がある2人は適度な距離感を保って日々を過ごしているようだ。

「特に声は掛けないですね。自分も人見知りなので、私からはあまり」と髙田は笑う。「基本的には放置しています。私は見て覚えるほうで、昔は先輩たちのプレーを試しては自分に合うものを取り入れて、本当にできない時に聞きに行くようにしていました。やっぱり後輩から聞きに行くのは、年齢も離れているとやりづらい部分もあると思います。でも、自分がもっと成長したいと思えば聞きにくるべきだし、そこはアドバイスできます。ただ、試合や練習でのプレーで気づいたことは自分から言っています。さくらは『こうしてほしい』と伝えたことはすぐにやってくれます」

そういう要求を伝えられることが多いであろう赤穂は「自分でも『こうしたほうが良かったな』と思った時にリツさん(髙田)から声掛けがあるので、『やっぱり』と思います」と語る。髙田に対して積極的にアドバイスを求めには行けないが、時々は1on1での勝負を挑むそうだ。「その時にはガンガン1対1をやって、先輩としてうれしいです」と髙田が言えば、さくらは「一度も勝てないんです」と困り顔。やはりこの先輩後輩は良い関係にあるようだ。

さくら「泥臭いプレーをもっとやっていきます」

代表合宿を重ねる中で、さくらは髙田や渡嘉敷とのマッチアップを繰り返し経験を積んでいる。「自分の持ち味は強い身体。この身体を生かしてリバウンドでしっかりボックスアウトしたり、スクリーンを強くかけて味方をフリーにしたり、泥臭いプレーをもっとやっていきます。今まではスクリーンをかけるだけ、とか一つのプレーしかできなかったのが、余裕を持てるようになっています。ディフェンスを見ながらの駆け引きも今後はできるようになりたい」と抱負を語る。

泥臭い仕事がメインであり、自ら得点を取るようなプレーはお膳立てしてもらうものだと割り切っている。「ガードがすごくうまくて、カッティングすれば良いパスが来てノーマークで打てます。合わせに対して見てくれるガードがあっての得点ですね」

一方の髙田は、コートでのパフォーマンスは『やって当然』の立場にある。大﨑だけでなく吉田も抜けた代表チームで、リーダーシップを発揮するのは髙田しかいない。「年齢も一番上になったので、やらなきゃいけないです。でも、率先してリーダーシップを取っては行きますが、自分だけじゃなく他の選手もやることでチームはもっともっと良くなるとも思います」

さくらにまだその余裕はない。「ここで自分のプレーをすべて出してアピールして、選ばれることが一番です。チームのことを考えるより自分のことしか考えられていません」と正直な気持ちを話すさくらを、髙田は「私でもそうなっちゃうと思います」とフォローしつつ、次のような言葉で発奮も促した。「リーダーシップを取るまではいかなくても、代表が初めてじゃないのでやることは分かるはず。それを積極的にやっていけばアピールにもなるし、後輩のお手本にもなれるので、そこはやってほしい」

気付けば、さくらも代表の末っ子ではなくなった。現在の16選手のうち、妹の赤穂ひまわりは2歳下、そして最年少のオコエ桃仁花は3歳下の後輩になる。どちらも同じデンソーの所属。年齢の近いさくらができるアドバイスも少なからずあるはずだ。

「おばさんって思われてるのかな?」「大先輩です」

そんな後輩たちを眺めつつ、髙田はジェネレーションギャップを「感じます」と認める。「あちこち痛かったり、疲れが抜けないことがあります。テレビを見ていても、出演している人を下の子たちが知らないことも多いです。信じたくないですけど『もう29歳か』みたいな(笑)。それこそ自分が初めて日本代表に入った時には29歳や30歳の選手に対して『だいぶ上だな』と感じていたのが、今は自分がその年代なので。怖いなって(笑)」

「どう思われてるんだろう、おばさんって思われてるのかな?(笑)」と髙田が振ると、さくらも笑いながら「大先輩です!」と若干認めつつ返す。「でも負けたくないと思います」と髙田は言った。代表でのチャンスを逃すまいとする後輩たちの頑張りに刺激され、チームは良い方向に動いているようだ。