取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

「バスケットと向き合うことが純粋にできたシーズン」

──まずはシーズンお疲れ様でした。三遠ネオフェニックスでの1年はどうでしたか?

チームとしてはケガやアクシデントに見舞われることが多いシーズンでした。元NBAと期待された(カルティエ)マーティンがケガでコンディションが上がらず合流し、なかなかチームにフィットできず、(ロバート)ドジャーも前半戦はほとんど出れませんでした。ドジャーとカルティエを主軸にしたオフェンスを作ろうとしたところで、それができなくなってしまい、目指すバスケットを作るのに時間を要してしまった。中地区がごちゃごちゃしてチャンピオンシップに行ける可能性が残ったので、チームのモチベーション維持の意味ではすごく良かったのですが、結果は負け越したし、全然良いシーズンではなかったです。

シーズン後半にチームの完成度は間違いなく上がったんです。特に7連勝した時期は、ウェンデル・ホワイトもドジャーも合流して万全な状態で戦えていた時期です。ただ、個人的な意見で言えばドジャーをファーストオプションにしなければいけない試合がすごく多かった。彼はプレースタイルではセカンドオプションだと思います。昨シーズンのジョシュ(チルドレス)のような圧倒的な存在がいた中でバスケットを構築していたように見えます。そこをマーティンが担えなかったし、ホワイトはもちろん素晴らしい選手で、bj時代にMVPを取った輝きを見せることはありましたけど、コンスタントには活躍できない。そこはかなり厳しかった。かなり早い段階で予定は狂ってしまいましたね。

コーチ陣はプロフェッショナルで、年齢を感じさせないほど知識や引き出し、すごいデータ量を持っていて、文句の付けどころがなかったです。ただ外国籍選手のケガは、今の日本のヘッドコーチにあれをうまく処理できる人はいないというぐらい難しい状況でした。

──予定どおりに行かなかったシーズンで収穫を挙げるとしたらどこですか?

モチベーションが安定していたことです。シーズンの最後まで雰囲気は変わりませんでした。チャンピオンシップがなくなった時は若干落ちたんですが、それでも選手それぞれがプロ意識を持っていて、そこは今までにないくらい素晴らしいチームでした。これは間違いなく三遠の歴史です。中村和雄前監督、今スタッフにいる鹿毛(誠一郎)さん、今年で引退された大口(真洋)選手であったり、その時代に選手をやってきた人たちが築いてきたものです。

選手は何も言われなくても自主練に残っているし、オフの日も体育館にやって来ます。やらされている雰囲気じゃなく、自然と集まる。「ウチはそういうものですよ」というカルチャーなので、そう感じ取ったら僕も「じゃあ体育館に行くか」となる。環境も整っていますしね。

クラブの歴史やスタッフの努力は本当に並々ならぬものがあって、選手を集中させてくれる環境は常にありました。環境の違いは大きいです。自前の体育館を持っているのは大きくて、A東京と三遠が抜けている印象です。余計なことを気にしないで、体育館で自分の身体のことやバスケットと向き合うことが純粋にできたシーズンでした。試合には全く出ていないけどね。

「結局チームの助けになれていない」ので7割は不正解

──比留木選手のプレータイムは3.8分と富山時代から半減しました。移籍したプラスとマイナスはどう考えていますか?

大きくとらえたら移籍は不正解でしょうね。7割は不正解です。3割は三遠のカルチャーや、ヘッドコーチのやりたいバスケット、統率が取れていて規律がしっかりしている、役割分担やルールがすごくちゃんとしているバスケットを学べたことです。施設が充実していてフロントの人数も増やして努力している。旧企業チームがどんなところかを経験できました。

ただ、これが24~25歳だったら1年間勉強した、ということで良いんですよ。でも今はもう33歳になって、10年目が終わったところで言うと、結局チームの助けになれていないですから。練習するだけで試合に全くでないのであれば、大学上がりの195cmの選手でいいんじゃないかと思ってしまうから。そこに関しては自分でも不甲斐ないですし、コーチ陣とコミュニケーションを取って、どこで自分の持ち味を出すことができるかをもっと模索すべきでした。

──持ち味は発揮できなかった、という認識なんですね。

太田(敦也)選手はずっと日本代表をやってきている選手だから、同じポジションの僕が20分出るかといえば出ないです。そこは理解していたんですけど、彼の調子が悪い時に自分がつないで彼をまた良い状態でコートに戻す。それが僕のイメージだったのですが、それもままならなくて。1年間、葛藤とフラストレーションでかなりしんどい思いはしました。つなぎができる自信はありましたよ。太田選手を休ませて試合の雰囲気をちょっと良くしたり、純粋に彼のために時間を作ってあげることはできると思っていました。でも、それを決めるのは僕ではないので。

自分の評価が上がってこないこと、それに対する焦り。もちろん僕らは何年かに1回は契約を更新しないといけない。今年は単年契約で、シーズンの最中にも来年に向けて良い結果やインパクトを残さないと、次の契約が良いものにならないとみんな理解しているので。そこに対する危機感もあったし、やっぱり純粋にチームの力になれないのが一番悔しかったです。

「試合に出ていないのにふざけたくない」というプライド

──昨シーズンは富山で良い働きをして、Bリーグ初年度ということで発信力のある比留木選手は注目を集め、三遠のファンもかなり期待していたと思います。

そうでしょうね。クラブも期待していたと思うけど噛み合わなかったです。毎試合少しだろうがコンスタントに出て良いプレーができれば、素材としてメディアに出す時にも「こういう選手がいる」と使えたと思います。ただ、そうではないから。

僕の発信力は変わったところがあって、言葉は選びますがみんなが躊躇することも言ってしまうので。それが業界のためになるのであれば言うタイプです。その点で僕にしかできないことを求めるのであれば、もうちょっと試合に出て、色を出して取り扱ってもらいたかった。誰が悪いわけじゃなく、自分の評価を上げることができませんでした。

──Twitterも昨シーズンと比較すると随分控え目だったように感じます。

富山での昨シーズンは『ユーモア賞』であったり、割とインパクトを与えて皆さんに「面白いヤツがいるね」と評価してもらえました。三遠に加入した時も、新聞やテレビの取材が僕に来るんです。それで面白おかしいことを僕に望むんだけど、言えない。「今シーズンはSNSどうしたの? 三遠は厳しいチームだから無理?」と言われますが、そういうことじゃないんです。むしろクラブはどんどんやってほしかったんだけど、僕は根がふざけているんじゃなくて、バスケットを見てほしいから、選手にもこんな面白いヤツがいるんだと思ってほしくてSNSやメディアに出ることを積極的にしているだけなんです。

昨シーズンであれば試合に出ていたし、「こんなヤツがいるなら見に行こう」となればいいですよ。でも今シーズンは試合にも出ず、マスコットみたいにワーワー騒ぐのはちょっと違うかなと思って。大きくバスケット界や三遠のプロモーションになるなら、試合に出ようが出まいが積極的にやってもいいですけど、「試合に出ていないのにふざけたくない」というプライドもありました。「マスコットじゃねえんだよ」というのが少しはありましたね。

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