文=鈴木健一郎 写真=編集部、B.LEAGUE

ファンを魅了する『レバンガのバスケ』の中心に

レバンガ北海道の2017-18シーズンは飛躍の1年となった。Bリーグ初年度の23勝37敗から勝ち星を3つ積み増して26勝34敗。これだけ見るとさほど変化はないし、東地区では最下位に終わったのだが、2勝11敗と失速した終盤戦を除けば24勝23敗と勝ち越しており、この時点では前年王者の栃木ブレックスとチャンピオンシップ出場を懸けたデッドヒートを演じていた。

そして何より、エネルギッシュで攻守にメリハリのあるプレースタイルは見ていて痛快で、北海きたえーるの観客動員はシーズンが進むにつれて右肩上がりに増えていった。ここは運営サイドの努力によるところが大きいが、ファンを魅了して会場に足を運ばせる『プロのバスケ』をチームが展開したからこその成功だ。

5月6日と7日のレギュラーシーズン最終節、その随分前にチャンピオンシップ行きの可能性は断たれて消化試合になっていたが、ゴールデンウィーク最終日の6日には6299人と今シーズンのBリーグでの最多入場者数を記録。さらに最終ゲームは平日にもかかわらず4883人の観客を集めた。これが今シーズンのレバンガ北海道の最大の成功と言えるだろう。

チームに目を移すと、今シーズンの成功を象徴するのがマーク・トラソリーニだ。イタリアとスペインでプロキャリアを送っていた彼は日本での1年目で平均19.0得点(リーグ3位)、1.5スティール(リーグ2位)、1.3ブロック(リーグ4位)とスタッツリーダーに食い込んだ。206cmのサイズがありながらアウトサイドでもプレーできる柔軟性、ディフェンスで「ガードだって守れる」と豪語するフットワークの持ち主は、攻守の核として56試合に出場しチームを支えた。

日本に来て苦しんだのは、コールの軽さと日本語

そのトラソリーニには、4月29日の千葉ジェッツ戦を終えたタイミングで話を聞いている。まだ試合を残すタイミングではあったが、シーズンをこう総括してくれた。「チームはもっと上に行くだけの能力があったはずで、その心残りは大きいけど、個人としては日本で最初の1年ということもあり、すごく良かったと思っている。自分のキャリアを振り返ってもオフェンス面では活躍できたと考えていて、このBリーグで自分が得点を決められるという自信を得られた」

デビュー戦から3試合続けて20得点オーバーを記録し、順風満帆に活躍したように見えたが、やはり新しい環境への順応には苦労があったそうだ。「レフェリーはヨーロッパに比べると審判の笛が軽くて、ディフェンス面で試合の流れになかなか乗れず、その点は結構難しかった」

もっともコート外となると、初めて経験する日本文化にも難なく順応した。「札幌での生活にはすぐに慣れたよ。すでに僕にとってお気に入りの街だ。唯一大変なのは言葉で、プレーする国の言葉を話したいんだけど難しすぎる。まだ『チョットチョット』(ここだけ日本語)だね」

「僕はイタリア系カナダ人で、ローマとフィレンツェ出身の祖父母の代にバンクーバーに移り住んだ。もしかすると、そういうこともあって新しい文化や環境に溶け込むのがうまいのかもしれないね」

「活躍できたのも、人々が快く迎えてくれたおかげ」

5月14日、クラブはトラソリーニと来シーズンの契約が合意に至ったことを発表している。ただ得点できるだけでなく、幅広い対応力を見せたトラソリーニはどのチームにとっても欲しい戦力で、獲得競争となっても不思議はない。それでも取材した時点で気持ちは残留に傾いていたようで、「札幌は気に入っているし、球団もチームメートもファンも素晴らしいから、ここで長くプレーしたい」と話していた。「バスケットボールの面で活躍できたのも、人々が快く迎えてくれてすんなり溶け込むことができたおかげだと思っているんだ」

「苦労もあったけど、自分のプレースタイルがこのリーグに合っているという確信が持てたことは僕にとってはすごく喜ばしいこと。この国で長くプレーしたいと思っているよ」

クラブから発表された契約延長のリリースには、あらためて札幌の街とファンへ向けた彼の感謝がつづられていた。

「今シーズン北海道でプレーできて本当に楽しかったです。札幌の街、このクラブ、スポンサーの皆さま、スタッフ、チームメート、そしてファンの皆さま、すべてが最高でした。来季もレバンガ北海道に戻って来てプレーするということについて、迷うことなく決断しました。皆さまから多くの愛情やサポートをいただいているおかげで、妻も私もこの場所が大好きです。レバンガ北海道では、プライベートの時間も、またコート上でも、自分に合っていると思います。オフシーズンにはしっかり準備して、来季はクラブとしても個人としても、今季以上の良い結果を残したいです。皆さまも良い夏をお過ごしください。またお会いできる日を楽しみにしています」 

先週末、北海道のファンは試合がないことに寂しさを感じていたに違いない。それは次の週末も変わらないが、「トラソリーニが戻って来る」という安心感とともに新シーズンを待つことができるのは大きなプラスだろう。選手契約がどうなるかのハラハラドキドキもオフシーズンの楽しみではあるが、信頼できる選手の『相思相愛の残留』は何にも代えがたい朗報だ。