フランク・ヴォーゲルが示した勝利への執着心

レブロン・ジェームスとアンソニー・デイビスの2枚看板に牽引されたレイカーズは、シーズン序盤から快調に勝ち進んでおり、西カンファレンスを首位で終えることが濃厚です。しかし、これだけ快調なのは予想外でもありました。

2枚看板の周囲には『仕事人』的に個性を発揮できる実力者を揃えましたが、新加入選手も多く連携構築に時間がかかりそうだったこと、個人で得点できる選手が少なかったこと、そして長いシーズンの中では息切れする時期がありそうなことから、混戦の西カンファレンスでトップシードを獲得できるとは考えていませんでしたが、ヘッドコーチのフランク・ヴォーゲルはチームの状況に応じた見事なマネジメントで結果を出しました。

シーズン序盤のオフェンスはレブロンとデイビスの個人技に頼る部分が大きく、連携も機能していませんでしたが、ディフェンスを優先した選手起用で『守り勝つチーム』として無難なスタートを切りました。エイブリー・ブラッドリーやダニー・グリーンといった計算できるディフェンダーは当然として、ドワイト・ハワードが優れたディフェンダーとして復活したことは驚きでした。

全盛期を過ぎた頃から「試合中に集中力を欠いている」と非難されることもあり、好不調や気分の波が激しい選手でしたが、今シーズンはどの試合でも、どんな場面でもハードワークを欠かさない献身的なプレーで強固なゴール下を支えています。

献身的な姿勢はハワードだけでなくレブロンにも顕著に表れていて、これまでファンから褒め言葉として「レブロンはシーズンで調整し、プレーオフになって本気を出す」と言われていましたが、裏を返せばレギュラーシーズンではしばしば怠慢なプレーがあり、特にディフェンスでアウトサイドまでチェイスすることは少なく、省エネのような守り方で3ポイントシュートを打たれていました。しかし、今シーズンのレブロンはどこまででも追いかけ、迫力満点のプレッシャーをかけてきます。献身性を増したレブロンのプレーは35歳とは思えないハードワークに溢れています。

ヴォーゲルは2人のスーパースターに徹底させたハードワークは、次第にレイカーズのチームカラーになっていきました。妥協を許さないヴォーゲルはベテランであっても手を抜くことを許さず、貪欲に勝利を求め続けました。

ただ、これだけのハードワークは身体への負荷も大きく、特にベテランはケガのリスクも高まりますが、この点でもヴォーゲルは明確な対策しています。今シーズンも35分近いプレータイムのレブロンですが、その一方で40分を超えた試合はオーバータイムとなった2試合しかなく、細かく休憩を挟むローテーションを守ってきました。ここ数年はケガに悩まされてきたチーム状況からすると、ケガを抑制する適切なマネジメントも重要でした。

個人能力に依存するだけではないオフェンスも構築

見事に整備されたディフェンスに対して、オフェンスでは個人で得点できるのがレブロン、デイビス、カイル・クーズマの3人なのは不安要素で、シーズン中のトレードの噂も何度も出ていました。

しかし、今ではそんな個人突破を必要としないほど、レイカーズのチームオフェンスは見事な機能性を発揮しています。実際にレイカーズのドライブ回数はリーグ最少、かつオフェンス時の移動距離は2番目に少ないにもかかわらず、選手間が適切な距離を保ち、早いパス回しと適切な判断力で、ボールを動かすだけでチャンスを作り出すことで、リーグ7位の得点を誇っています。

シーズン序盤はディフェンス力をベースにした戦い方でしたが、中盤からはチームオフェンスで打ち勝つこともできるチームになってきました。またボールを動かすだけでチャンスを作れることは、ディフェンスでハードワークするスタミナを残すことにも繋がっており、攻守トータルでの機能性も高まっています。

ハードワークとチームオフェンスをレイカーズに植え付けたヴォーゲルの手腕は見事でしたが、フロントは足りない要素を求めるように、ディオン・ウェイターズとJRスミスを獲得しました。ともに個人能力はあるものの、問題児扱いもされる選手で『ハードワークとチームオフェンス』というレイカーズのスタイルには似つかわしくない存在です。

プレーオフに向けて個人で得点できるガードを増やした代わりに、爆弾も抱えることになったような補強でしたが、そこには選手の気持ちも組したような見事なマネジメントをしてきたヴォーゲルへの「彼ならチームに融合させてくれる」という信頼感があってこその決断にも見えます。

思わぬ中断期間がチームの勢いを削いだ面もありますが、十分な休養と新戦力を融合させるトレーニング期間をとれたことはプラスに働いたはず。ヴォーゲルに率いられたレイカーズは貪欲に勝利を目指し続けるでしょう。