文・写真=鈴木栄一

「明日勝って、今日の勝ちが生きてくる」

3月30日、栃木ブレックスは敵地でのサンロッカーズ渋谷戦に87-64と快勝。チャンピオンシップ出場枠の最後となるワイルドカード2位の座を争うライバルとの直接対決の初戦を制した。

この試合、栃木は第1クォーターこそ16-15と互角の展開で終えたが、第2クォーターに29-11と大きく突き放すと、あとはそのまま押し切った。そして、渡邉裕規は第2クォーターに7得点をマークと、チームに勢いを与える活躍を見せ勝利にしっかりと貢献した。渡邉は勝因についてこう語る。「序盤から相手のやりたいことをやらせなかったのが一番。それで先手を打てて、勢いに乗れました。誰かが活躍するのではなく、チーム全体として勢いに乗れました」

相手がSR渋谷ということでの特別な意識もあったと続ける。「大事ではない試合はないですが、渋谷とはホームでも負けていますし、僕たちもプライドがあるので引き下がるわけにはいかない。まずはチャンピオンシップに出るためにも、このチームには負けられないです」

また、自身のパフォーマンスについて尋ねると「前半は落ち着いてプレーできました。うまくジェフがスクリーンをかけてくれたので、ピック&ロールからシュートを打てました。練習中からやっていることがうまく決められて良かったです」と振り返る。そして、「明日勝って、今日の勝ちが生きてくる。まだ、半分終わったばかり。明日勝てるように、今日できたことをさらによくできるようにしていかないといけない」と、初戦の大勝で気持ちが緩むことは全くない。

「ブレックスのバスケを誰もができることが僕らの強み」

渡邉の現役引退を撤回しての電撃復帰、そしてジェフ・ギブスの故障からの復帰と2人がチームに戻ってきて以降、栃木は着実にチーム状態を向上させてきた。その結果、シーズン序盤にはあった借金もなくなり、白星先行となっている。

シーズン中盤以降、右肩上がりできている理由について、渡邉は次のように見ている。「去年のチームになる必要はないと思いますが、優勝メンバーは残っています。いくらチームが変わっても、ブレックスのバスケを誰もができることが僕らの強み。それを選手、コーチが変わってでもできているところを、戻ってきて感じていますし、素晴らしいと思います。また、ブレックスのバスケを体現できないと試合には出られないです。そして(去年は試合にあまり出ていなかった)若手、新しい選手たちは理解度が高いし、賢い。彼らが、すんなりやれているところが後半戦の良い感じになっていると思います」

そして、渡邉個人としては、「去年はシンプルに点を取ってこいとか言われベンチから出て行きましたが、今年はより一層ディフェンスを求められています。同じことをやっているようで、ディフェンスの強度は今年の方が高い。ディフェンスを徹底してやらないといけないという危機感に近いような気持ちはあります」と、より守備への貢献を求められていると言う。

「1試合1試合、1分1分、後悔なくプレーする」

また、渡邉が強調している点が一つある。それは現役引退でチームから一度離れたことで、自身については去年から残留している優勝メンバーというより、イチから出直しとなる『新入り』という意識であることだ。

「バスケをやらせてもらっていることは当然じゃない」と復帰を受け入れてくれたチームへの感謝が第一。さらにプレーできることのありがたみをより感じている。「どこかでリセットしたという気持ちはあり、再スタートの意識は強いです。そういうことを良い意味でプラスにしてバスケをもう一度楽しんでやれている。これからもっと成長できたらと思います」

レギュラーシーズンも残り約1カ月、チャンピオンシップへ向けてより過酷な戦いになる。「チームが徹底していることを体現する。あとは1試合1試合、1分1分、コートに出た時は後悔なくプレーする。それが復帰した意味だと思うのでやっていきたいです」。このように意気込みを語る渡邉の存在が、これから栃木にとってより大きなものとなってくることは間違いないだろう。