百道シューティングスターズ土本健司が語る、バスケットを通した人間形成(前編)

2018/03/15
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取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

1月に紹介した鶴我隆博が監督を務める『最強の公立中学校』西福岡は、この7年間で全中決勝に4回進出し、2回優勝しており、多くのタレントを輩出している。このところ高校で福岡大学附属大濠と福岡第一の両校が結果を出しているのも、下のカテゴリーから上がって来る選手の質が総じて高いことが一つの要因となっている。それは中学に限らない。今回紹介するのは、ミニバスの強豪として知られる『百道シューティングスターズ』だ。土本健司監督は35歳から指導を初めて現在56歳。ジュニアオールスター選出選手12名を輩出しているが、それよりもバスケットを通した人間形成を重視する土本監督に話を聞いた。

ミニバス屈指のコーチは「少年野球出身」

──まずは土本先生の自己紹介をお願いします。

土本健司、昭和36年生まれの56歳になります。北九州の守恒ミニバスケットボールクラブからバスケットの指導を始めて、今年で21年目になります。私自身は少年野球をやっていて、バスケットは中2の途中から始めて大学まで。サラリーマンになってからは社会人チームで軽く汗を流す程度でした。35歳で独立した時に、社会人チームの仲間から「守恒小学校でミニバスチームを立ち上げたいが指導者がいない」と相談を受けたんです。独立した直後だったので地域への貢献や青少年の育成に貢献したいと引き受けました。

少年野球出身ですから、ミニバスのことは何も分かりません。「小学生のバスケットなら教えられるだろう」という軽い感じで引き受けたんです。最初の年は初心者ばかりなので、本格的に教えるのではなくバスケをして遊ぶような感じでした。リーグ2部からスタートしたのですが、北九州の1部リーグはどんなものかと子供たちを連れて見に行ったんです。そこで見たのが山下泰弘君や立花大介君のいる戸畑クラブで、目ん玉が飛び出るぐらい驚きました。こんなにレベルが高いのか、と。それで、やるからには本格的に取り組まなければとスイッチが入りました。

そこから本格的に教えるようになって、創部2年目に県のベスト4まで行きました。3年目でベスト8、4年目が決勝ですね。ただ、その時には私が仕事の関係で福岡の百道に引っ越しており、北九州まで通うのが厳しいということでアシスタントコーチにコーチを譲って離れました。

教え子たちや私の息子が百道中で鶴我先生にお世話になっていて、私も親しくさせていただいたので、今度は保護者としてチームを応援しようと思ったのですが、百道浜でミニバスのチームを立ち上げることになり、私が引き受けることになりました。それが今の百道シューティングスターズです。4年目で全国制覇をしました。

「バスケットを通して生きる力を育てる」という理念

──もともとバスケットの指導者を志していたわけではない土本先生が、どうやってミニバスですぐ結果を出せたのでしょうか。

もともと指導を始める時に、小学生にバスケットを教える意味、目的は何だろうと考えました。ミニバスのチームに入って来る子たちは必ずしもプロ選手を志しているわけではありません。だからプロ選手を育てるのではなく、バスケットボールというスポーツを通した人間形成を考えました。人を育てることを目的にしようと、それを最初に理念として掲げたんです。それは私が若い時に学んだ経営人間学から来ています。何のためにやるのか。その目的が素晴らしいものでないと、取り組む意味がないというのが私の中にベースとしてあります。

簡単な気持ちで引き受けたコーチですが、私と出会う子供たちがどうなれば良いかを考え、バスケットを通して生きる力を育てたいと決めました。今もシューティングスターズのホームページには「バスケットを通して生きる力を育てる」と書いてあります。

──「生きる力」というのは具体的にどんなものでしょうか。

自立した人間形成です。指導のキーワードは5つあって、状況判断力、選択、決断、実行、継続です。バスケを題材にして、この5つの項目を育てるのが私の指導なんです。

まずは自分が今どういう立ち位置にいて、何をやるべきかという状況判断。その中で何をやるかの選択。やると選択したら、決断と実行が来て、実行したものをあきらめないで継続する。これはバスケットのプレーそのものですよね。バスケットがうまいか下手かじゃなく、自分で決めたら本気でやり続けることを覚えてほしいんです。

子供にはそれぞれ適性があります。頑張っても運動は苦手という子もいるし、走れない子もいます。バスケットは走る競技だから、走るのが苦手だったらなかなか試合で使ってもらえません。でも、そういうシーンはこれからの人生でたくさんあるわけです。「パソコン苦手だからこの仕事はダメだ」とすぐに辞めればいいわけじゃないです。自分が置かれた環境の中でベストを尽くすことを、バスケを通して学んでほしい。だから私は試合で結果を出せない子、苦しんでいる子ほど目をかけるようにしています。

「プロバスケ選手になったから偉いわけじゃない」

──「なるほど」と思いますが、その理念を小学生に理解させるのはなかなか難しいのでは?

難しい言葉で話してしまうと理解できないので、いろんな物事を事例に落とし込んで説明するようにしています。例えば「君はどうなりたいんだ?」と質問すると「勝ちたいです」という答えが返ってきます。すると私は「じゃあチームとして何をするべきか、それが本当に全力でやれているのか」を問います。

「バスケットがうまくなるのは目標でしかなく、目的はもっと先にある」という話もいつもします。そこには「バスケットの勝ち負けは大事じゃない」という話も「プロバスケ選手になったから偉いわけじゃない」という話も出てきます。それは「君たちのお父さんお母さんもいろんな分野のプロとして働いている」という話にもなります。

人のために役に立つのがプロであって、プロの世界で生きていくのは簡単なことではありません。プロバスケ選手が厳しい競争の中でレギュラーになってエースになって活躍しないと報酬がもらえないのと同じで、お父さんが働いている会社でも同じ競争があるんだよ、と。バスケットで全国制覇するという目標があっても、なかなか簡単には到達できない。それと同じ構図が社会にはあります。それをバスケットを通じて学んでくれれば。子供たちにとっては少し難しいことですが、あえて茶化したりはしません。大人に対するのと変わらない言葉で伝えるのが私のやり方です。

──人を育てるのが目的ではありますが、全国優勝を目指すチームである以上は勝ち負けを軽視するわけにはいかないですよね。そのバランスはどう取っていますか?

目的は世の中の役に立つ人間を育てることで、そのためには相当な努力が必要です。その目的と目標を同じ直線上に置いて、その中で挫折や失敗をしながら、それでもあきらめずにやり抜いた人が、他よりも世の中の役に立てる人になれます。スポーツの世界も同じです。能力があっても努力をしない選手はチームに貢献できません。

とにかく目標は毎年、どんなメンバーであれ全国制覇を目標に全力で戦い抜く。これが不思議なことに、本当に高い目標を持って全力で挑めば、弱いチームにはなりません。どんなにメンバーが揃っていなくても戦えます。

Youtubeで話題になったブザービートの時も、ベストメンバーの平均身長が140cmしかないチームでした。福岡市は60以上のチームがいて、決勝まで行くのは相当に難しいです。でも、それが人間形成でやれるんです。「今年は背が低いから勝てるはずがない」と思うのか、「小さいメンバーで勝ち上がって伝説を作るぞ」となるのか。小さいメンバーで何ができるのか、ボールを運ばせないぐらい激しいプレッシャーなのか、アウトサイドのシュートを高確率で決めるのか、そうやって戦えば勝てるんじゃないかと子供たちと話し合って、徹底的にゼロ距離のディフェンスとシュートの練習をやりました。ああいう形で負けましたが、本気でやれば福岡の決勝まで行けるんです。