1990年代からブルズのトライアングル・オフェンスを分析
ニック・ナースは、ラプターズのヘッドコーチに就任して1年目の2018-19シーズンに球団初優勝をもたらした。
カワイ・レナードの力は大きく、彼が退団して迎えた2019-20シーズンは苦戦を強いられると大半が予想した中、ラプターズは東カンファレンスの上位をキープし続け、シーズンが中断されるまでの間、昨シーズンの58勝を上回るペースで白星を重ねていた。
それは彼が『特定の選手に依存するチーム作り』から距離を置いていたから。ナースは、ブルズとレイカーズでスリーピート(3連覇)を3度も成し遂げた名将フィル・ジャクソンから強い影響を受けている。
『Sportsnet』とのインタビューで、ナースはその影響の強さを語っている。1990年代に英国リーグのチームでヘッドコーチを務めた経験もあるナースにとって、ジャクソンは『教科書』のような存在だった。NBAの試合のビデオテープを取り寄せてはトライアングル・オフェンスを徹底的に分析。それを自分のチームで試し続けた。
「私はフィルを尊敬していたし、多くを学んだ。選手交代やタイムアウト、試合終盤の判断、立ち振舞い、システムが重要という思想、選手に自由を与える考え、プレッシャーディフェンスが重要という考えとかね」とナースは言う。
この中で、ナースはラプターズのヘッドコーチ就任直後にジャクソンに会いに行ったエピソードも明かしている。2018年の夏、ナースはジャクソンが夏の休暇時期に過ごすモンタナのフラットヘッド湖を訪れた。「コーヒーを飲みながら少し話せればいい」と思っての訪問だったが、実際には3日も一緒に過ごすことになった。
「彼に質問をすると、歴史的な話を使って、90分後に答えを教えてもらえる感じなんだ。でも私は、彼とのコミュニケーションのリズムが心地良かった。とても興味深かったよ。なんというか、バスケットボールの歴史を聞いたような感じだった」
オフェンス時に選手が三角形を描くシステムのトライアングル・オフェンスは、人とボールが動き続けて流れを生み出すため、『フローオフェンス』と呼ばれることもある。ナースは、コートに出ている5選手が互いの動きを洞察し合いながら形を変化させてくトライアングル・オフェンスのコンセプトを、現在のラプターズでも採用している。
「とにかく全員がボールに触れる。私の哲学でもあるのだが、より楽しくあるべきだ。選手たちは走り、カットし、ディフェンスに奔走し、リバウンドを奪いに行く。ウチでは、そういう要素もオフェンスの一部分なんだ」
ナースは、ジャクソンが練り上げたトライアングル・オフェンスをそのまま踏襲しているわけではない。だが、そのニュアンスを自分のチームに落とし込み、カワイ・レナード退団後も勝てるチームを作っている。
「カワイのように、一人でなんでもこなせて点まで取れる選手はいないが、以前よりもオプションは増えている。顔ぶれはほぼ変わらなくても、これまでに何度もプレーを繰り返してきたんだ。ウチの選手は、決して『マイケル(ジョーダン)やカワイにボールを戻した方が良い』とは考えない。彼らは自分で考えて、プレーを決めているんだ」